世田谷散策記 せたがや百景のバーナー
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せたがや百景 No.91

上野毛五島美術館一帯

実業家として知られている故五島慶太氏が50年にわたり収集した古美術品が収蔵展示されている。美術館の建物は美しい和風建築で、崖線の斜面に広がる自然のままの庭園に野仏を配している。美術鑑賞のあとの散策に四季それぞれの趣を見つけることができる。(せたがや百景公式紹介文の引用)

・場所 : 上野毛3-9-25
・備考 : 開館時間 10:00~17:00 *休館日 月曜(祝日の場合は翌日) 展示替のとき 年末年始 *入館料(常設展) 大人1000円 学生700円、中学生以下無料、庭園のみ300円

*** 上野毛五島美術館の写真 ***

上野毛五島美術館の写真
美術館の入り口

一応駐車場があります。

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美術館の前の通り

しっくな塀が続きます

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不老門

ここからは入れません。

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ジャンボ石灯篭

駐車場にあったもの。でかいです。

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美術館中庭

建物は文化勲章の吉田五十八氏によるもの。

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茶室

茶会などに利用されています。

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庭園からの眺め

崖線からの眺めはなかなかです。

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二子玉川のビル群

再開発によって景色が変ってしまいました。

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庭園内

やたらと石灯籠が目に付きます。

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庭園内にある門

中途半端なところへあります。

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庭園内にある北稲荷丸古墳

残念ながら立ち入り禁止でした。

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湧き水

飲めないようです。

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大日如来像など

一番丁寧に祀られていました。

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六地蔵

 

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四角い石灯籠

変った形の石灯籠が多いです。

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林の中に置かれた石仏

さりげなく置かれています。

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都の天然記念物のコブシ(2010年)

頑丈な補強がされていますが立派な木です。

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コブシの花

遠くから見る方がきれいかも。

* 上野毛五島美術館について *

五島慶太氏(1882-1959)といえば、言わずと知れた東急グループ(東急電鉄)の事実上の創業者です。現在の東急線といえば、東横線、田園都市線、目蒲線、大井町線、池上線、世田谷線と、目黒、世田谷を中心に神奈川県まで延びています。かなり広い範囲を網羅している大電鉄会社といった感じなのですが、かつての東急は、現在の小田急線、京王線、京浜急行線までもが傘下だったというから驚きです。

東京の西南部が東急一社が牛耳る地帯だった事になるからそれはそれで恐ろしい気がします。しかもそこまで拡大したのは五島慶太氏の手腕に拠るもので、強引な買収、乗っ取りは当たり前のように行っていたとか。そのために「強盗慶太」といった異名を持っています。

普通なら乗っ取り王とか買収王五島ぐらいが妥当なのですが、強盗って・・・よほど強引だったのでしょうね。それに五島(ごとう)と強盗(ごうとう)との語呂合わせ的なものもあるのかもしれません。彼や東急について書いていくと、とんでもなく長くなってしまうので、興味のある方はインターネットで検索すれば色々と出てくるのでそれらをご覧になるのがいいでしょう。

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上野毛の国分寺崖線上の高台に五島美術館があります。眺めのいい事で知られる国分寺崖線上には高級住宅が並んでいます。こんな一等地に美術館があるのは五島家の敷地内に美術館を造ったからで、現在は財団管理となり、五島家の邸宅は美術館の隣にあるようです。やはりこの方もか~といった感じですね。

それに美術館のすぐ横は切り通しになっていて、大井町線が走っています。五島さんの敷地の横を東急線が走っているのも・・・、自分の庭に線路を引くような感覚だったのでしょうか。そうだとしたら恐れ入りました・・・・といった感じです。

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さてこの五島美術館ですが、先に挙げた五島慶太氏が収集した日本と東洋を中心にした古美術を展示している私立の美術館です。開館は五島氏が他界した翌年の昭和35年(1960年)との事で、五島氏を偲んで造られたものかと思っていたのですが、そうではなく、喜寿を記念して造ったものの美術館の完成を見ずして他界してしまわれたようです。

美術館の設計は文化勲章を受賞した吉田五十八氏。収蔵品以前にまず建物からして一流思考だったりします。吉田氏は歌舞伎座や明治座、成田山新勝寺を手がけた方で、区内では等々力の満願寺本堂や成城の猪俣邸も手がけています。

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収蔵品の方は絵画、書画、茶道具などを中心に陶磁、考古、刀剣、文房具など多岐な分野にわたり、美術館のホームページによると現在では約5000件の美術品を所蔵しているようです。ここの凄いのは、収蔵品の中に国宝が5点、重要文化財が50点もあることです。

とりわけ有名なのが、美術館設立を決意してから収蔵品の目玉品として購入した、国宝「源氏物語絵巻」と国宝「紫式部日記絵巻」です。残念ながら五島美術館は展示室が1部屋しかない為、展覧会毎に展示品が変わり、国宝「源氏物語絵巻」は毎年春(ゴールデンウィーク頃)に、国宝「紫式部日記絵巻」は秋に、それぞれ1週間程度の公開しかしていません。訪れる際には現在何を展示しているのかなど、美術館のホームページを確認した方がいいと思います。

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この展示してある源氏物語絵巻はご存知の通り平安時代に紫式部によって書かれた「源氏物語」を絵画化した絵巻物です。製作されたのは、物語が成立してから約150年後の12世紀で、現存する日本の絵巻の中で最も古い作品といわれています。

現在は源氏物語54帖全体の約4分の1程度、巻数にすると4巻分が現存しています。そういった解説はどこかで聞いたことがあると思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そう、名古屋にある尾張徳川美術館(こちらも私立美術館)にも国宝の「源氏物語絵巻」があるのです。

これは、江戸時代初期に3巻強が尾張徳川家に、一巻弱が阿波蜂須賀家が所有していて、それを五島美術館が買い上げたというわけです。というより、大名の宝を簡単に買い上げてしまう五島財閥恐るべし。鉄道王は大大名にも負けない力を持っていたのですね。

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五島美術館には国分寺崖線の斜面を利用した庭園が造られています。もともとこの辺り一帯、上野毛稲荷神社や上野毛自然公園などは上野毛の名主田中家の土地でした。現在でも五島美術館の前の辺りに田中家の大きな屋敷があります。五島美術館の敷地は大正の頃は大臣などが住んでいて、その後五島氏の住居となり、崖や崖下が庭園として整備されました。

この庭園内の特徴は崖の上は見晴らしのいい庭園とし、斜面は国分寺崖線の自然をほぼそのままに残していていることです。とりわけ稲荷丸北古墳やら湧水を利用した池などといったこの地に古くから根付いたものが残されているのは素晴らしいことです。この湧水はかつて上野毛の人々にとって貴重な洗い場となっていたようです。

また季節の花や木も多く植わっているので、それぞれの季節で散策を楽しむこともができます。とりわけ3月の中旬から下旬にかけては都の天然記念物に指定されている樹齢250年とも言われているコブシが見頃を迎えます。それを見に来る人も多くいます。また秋になるとモミジを中心とした紅葉が美しいです。

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その他、庭園内にはやたらと石仏や石灯籠が置いてあります。とりわけ石灯籠に関しては巨大なものから、変った形のものまでコレクションにしていたとしか思えないほどの充実ぶりです。石灯籠マニアだったのでしょうか。石仏の方は伊豆や長野の鉄道事業の際に引き取ったものだそうです。

その他では、庭園内に「冨士見亭」「古経楼」といった茶室がある事もお茶をする人には知られています。一般の見学者には内部は非公開ですが、お茶会の利用に関しては有料で貸し出されています。都会ではこういった落ち着いた庭園を持つ茶室でのお茶会というのは難しいものです。そういった意味では貴重な存在であり、また人気があるようです。

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庭園を見てみたいけど美術館の入場料はそれなりにするので・・・と思っている人も多いかと思いますが、庭園のみの入園料があります。以前は100円と気軽に立ち寄れる値段でしたが、改修工事後は300円に値上がりしてしまいました。100円だと季節の花が咲いているかなとか、晴れて気持ちのいいからちょっと寄ってみるかといった感じで寄れていたのですが、今では天気や季節を考えて行くような場所となってしまいました。

一度ぐらい訪れてみたい人はコブシが咲いている時期や紅葉時期をねらって訪れてみるのがいいのではないでしょうか。コブシに関しては、聞くところによるとだいたい3年ごと(次回2019年)に花の当たり年がやってきて満開になるそうです。といっても自然の事なので、それ以外でもきれいに咲くこともあるようです。

ちなみにすぐ近くの上野毛自然公園は名主田中家の桜楓園という庭園だったものですが、今では庭園の面影は少ししか残っていません。瀬田の小坂邸や岡本の静嘉堂文庫にも財閥による崖庭園の名残が見られます。

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また入り口に案内板があるように大東急記念文庫も併設されています。大東急記念文庫は昭和23年に当時のマンモス会社であった東急電鉄が小田急、京浜急行、京王、そして東横百貨店と5社に分社するに当たっての記念事業として企画され、翌年に成立しました。

開庫にあたっては五島慶太が一括購入した「久原文庫」と「井上文庫」が収蔵品の中心となり、昭和35年に五島美術館が開館するに当たって、こちらの敷地に移転しました。現在の収蔵品は国書、漢籍、仏書、古文書、芸術資料、歌学資料などの貴重書が約2万5千点もあり、そのうち国宝が3点、重要文化財が32点あります。なかなか充実した文庫でありますが、研究者のみが閲覧可能で、一般には公開されていません。

<せたがや百景 No.91 上野毛五島美術館一帯 2008年6月初稿 - 2015年10月改訂>