世田谷散策記 せたがや風景資産のバーナー
用賀プロムナードの案内板の写真

せたがや地域風景資産 No.1-14

用賀プロムナード

用賀の町にはいらかをテーマに地域が一体となった風景があります。その中心的存在の用賀プロムナードは日本の道をテーマに懐かしさと遊び心を持ち、また季節感があふれる道となっています。

・場所 : 用賀駅周辺から砧公園まで
・登録団体など : 不明
・備考 : ーーー

*** 用賀プロムナードの写真 ***

用賀駅周辺の写真
いらかのピラミッドとビジネススクエア

かなり目立つ建物です。

用賀駅周辺の写真
用賀駅の円形階段

まるで円形劇場のようです。

いらか道の写真
いらか道のせせらぎ

玉砂利の模様が美しいですね。

いらか道の写真
王様のいす・・・かな?

テーマはチェスでしょうか。

いらか道の写真
いらか道の石碑

西用賀通りから環八までの間はひたすらまっすぐです。

いらか道の写真
百人一首の句

路面以外にも彫られています。

いらか道の写真
いらかの路面

幾何学的模様と百人一首の句が描かれています。

いらか道の写真
鬼瓦

いらか道の番人です。

いらか道の写真
梅の木とビジネススクエア

いらか道沿いや周辺には梅林が残っています。

いらか道の写真
梅の販売

1キロ300円でした。

* いらか道の四季 *

いらか道の写真
桜の季節

途中の西用賀通りは桜並木になっています。

いらか道の写真
緑の季節

 

いらか道の写真
紅葉の季節

いらか道が一番美しい季節です。

いらか道の写真
雪の季節

雪が積もると・・・もの凄く滑りやすいです。

* イベントなど *

納涼の夕べの写真
用賀町会による納涼の夕べ

夏休みに行われます。

納涼の夕べの写真
せせらぎでの灯ろう流し

ちょっと流れが悪いようでした・・・

用賀の夏祭りの写真
用賀の盆踊り

ピラミッドのようなオブジェのある公園で行われます。

用賀の夏祭りの写真
プロムナードに飾られた大山灯篭

いらか道にはよく似合います。

* 用賀プロムナードについて *

用賀の町、ちょうど用賀駅の真横に高さ120mもある世田谷ビジネススクエアタワービルがそびえています。地上29階、地下2階建てのビルは完成した1993年1月時点では世田谷一の高さを誇っていましたが、後に三軒茶屋のキャロットタワー(124m、1996年11月)、二子玉川の二子玉川ライズ タワー(150m、2010年4月)に抜かれ、現在では三番目に高いビルとなってしまいました。

ただ周辺に高い建物がないので今なおランドマークであることには変わりなく、特に東名高速に乗って東京に向かうときにはあそこが用賀だ!高速の出口だ!といったいい目標になっています。

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この世田谷ビジネススクエアは多くのビル群で構成されていますが、周辺の建物は広いスペースに背の低いビルで構成されていて、用賀駅周辺はのっぽビルがありながら広々とした空間も兼ね備えていたりします。結構贅沢に土地を使っているといった印象を受けます。

このビル群が建設される前の用賀駅周辺はどうだったかというと、玉電の車両基地があったようです。玉電は玉川通りを走っていた路面電車のことで、昭和44年(1969年)に廃止されました。その後玉川通りの地上部には首都高が、地下には東急新玉川線(現在では田園都市線)が敷設されました。

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用賀にあった車両基地も更地にされ、最初は東急線の車両基地にする予定だったようですが、計画が変更されて再開発に当てられることとなり、世田谷ビジネススクエアが建てられたといった経緯のようです。空き地になっていたところを再開発したので、空間的にゆったりとしているのではないでしょうか。

その再開発された用賀駅から都立砧公園までの約1kmの間は用賀プロムナードという遊歩道っぽい道で結ばれていて、それが地域風景資産に選ばれています。

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用賀プロムナードはいらか(瓦)をキーワー ドにデザインされていて、一部の区間を「いらか道」と呼ばれています。路面に敷かれている灰色のタイルがそうで、世田谷ビジネススクエアビル群、駅周辺の広場やオブジェ、周辺道路なども色彩がグレー系統で統一されています。単にプロムナードだけで完結するのではなく、周辺にも一体感があるのがこのプロムナードの特徴であり、用賀の町の特徴にもなっています。

このような統一性が駅から砧公園まで続くので、訪れる人には地味なグレー調でありながらすっきりとした好印象を与える事でしょう。また歩いていると路面などに百人一首の句が順に彫られているのも面白い趣向であり、百人一首がある道として記憶している人も多いようです。

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用賀プロムナードは1986年に造られました。古い記述を読むと、玉電時代の用賀といえば、駅前に車両基地があり、砧公園に行くには車両基地の横を通り、その後は梅林の中を抜けて行くといった感じだったようです。今でも印象の薄い感じのする用賀ですが、昔の用賀は車両基地と梅林があるぐらいで特に何もない地域だったようです。

それが車両基地は近代的なビル群となり、梅林の多くは住宅やマンションに替わっていましたが、まだ幾つかの広い梅林がいらか道沿いに残っていて、梅の季節に花を咲かせ、梅雨時分には青梅の販売を行っています。この梅も季節感を出すのに一役買っていて、いらか道は四季折々で季節を感じることができる道となっています。

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春先には梅が開花し、歩いているとほんのり梅の甘酸っぱい香りが漂ってきます。また西用賀通り沿いが桜並木となっているので、桜の時期も楽しむことができます。もっともこの道を通る人は砧公園の桜が目当てでしょうからあまり関係ないでしょうが。

そして夏は頭上の木々が強烈な太陽の光をさえぎってくれ、木漏れ日が気持ちよく感じたり、せせらぎの水が涼しげに感じるでしょう。そして秋になるともみじが多く植えられているので、いらか道が赤く染まります。紅葉の時期が一番雰囲気がいいように思います。そして色彩の少ない冬になると、今まで脇役だった路面のいらかが主役となります。このように四季折々で楽しめるのもいらか道の特徴となっています。

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用賀プロムナードを手がけたのは象設計集団です。象設計集団は桜新町に事務所がある会社ですが、全国的に学校や役所、美術館などといった建物の設計、公園やプロムナードなどの企画等々を手がけている集団で、日本各地で、いや世界でも幾つかの賞を受賞している有名な設計会社です。この用賀プロムナードは象設計集団の比較的初期の作品となります。設計の一番のテーマは「日本のみち」で、そのこだわりとして

・「やわらかな街」 樹木、草、土、玉石、瓦、木材、水などのやわらかな素材とやわらかな空間構成が、のどかで楽しい雰囲気をつくりだす事。
・「歴史を物語る道」 なつかしく、愛着のもたれるみち 玉石の道、くわ、茶、宿場のようなしかけが、人それぞれの思い出を呼び起こす。たとえば鎌倉時代からつづいた大山街道を。たとえば、谷沢川のせせらぎを。

といった事があるようです。とりわけ「いらか道」の「いらか」というのは瓦のことで、主題となる部分だけに使う素材にはこだわったようです。

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そのこだわりというか、絶対条件が5ヶ条にまとめられていて、1、やわらかいこと 足にここちよく、月日とともに色、形とも変化すること。 2、存在感があること ただし光、雨等によって時として透明となり、全く存在感が消えること。 3、朝、夕、四季等、時の移ろいに敏感なこと。 4、土地の記憶をとどめているか、またはとどめうる材であること。 5、無彩色か、それに近いこと、または自然の材の色をしていること。との事です。

そして選ばれたのが、灰色をした淡路瓦です。淡路瓦は名前の通り淡路島の瓦で、400年の歴史を刻んだ伝統工芸的地場産業です。伝統と美意識に磨かれた瓦の形状は、実に数千種類にも及んでいて、その巧みな組み合わせにより、あらゆる建築物、建築様式に飽きることのない詩情と普遍美を表現し、都市の街並や田園風景にしっとりとした調和と奥深い情緒を生み出しているのが特徴のようです。何気なく地面に敷かれている素材にも設計者の思いが詰まっているようです。

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こういった設計者の意図やこだわりを知ってから歩くと、このプロムナードが実に様々な仕掛けや遊び心を持っていることに気がつき、歩くことがちょっと楽しく感じることでしょう。

個別に見ていくと、プロムナードは用賀駅周辺から始まります。駅の施設はプロムナード設計者の意図したものとは違うと思いますが、地下から地上へ上がる円形劇場の階段にまず驚きます。ここでコンサートを行ったら・・・と考えてしまうのですが、舞台が設置できないので無理でしょうか。そして地上に出ると整然とした空間が広がり、地上に出たという開放感を味わうことができます。

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駅周辺の道には瓦が敷かれていて、小さな公園には瓦でできたピラミッドのようなオブジェが置いてあります。気になれば気になるし、気にしなければ気にならないといった侘び寂を感じさせるオブジェです。この広場では夏になると用賀地区の盆踊り大会が行われます。そのときに道沿いにさりげなく大山灯篭が灯されます。製作者の意図した「歴史を物語る道」というのが感じられます。

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駅から砧公園の方に進んでいくと、大きなスーパーがあり、その横には大きなイチョウの木がある無量寺があります。残念ながらプロムナードの方に入り口がないので、あまり存在感はありません。それを過ぎると、設計者がいくぶん神秘的に「ギャラリー」と呼んでいる箇所に到着です。

ここには丸く縁取られた壁で造られたせせらぎが設けられていて、その流れは蛇行していたり、途中に橋が架けられていたりと、製作者のこだわりを感じられます。全て石に囲まれた空間なので自然っぽさはなく、どちらかというと庭園というか、個人的にはベニスなどの運河のミニュチュアというような印象を受けます。暖かい季節には小さな子供が水遊びをしている事がありますが、橋のアーチをくぐったりとなかなか楽しそうです。

またここでも夏になると子供を対象とした納涼の夕べが行われ、せせらぎを利用してドジョウつかみや灯ろう流しが行われます。日常的にはのどかで楽しい雰囲気を感じたり、灯ろう流しでは懐かしさを思い出すような「歴史を物語る道」といった製作者の意図を感じることができるのではないでしょうか。

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西用賀通りに出ると、少しの間車道と平行して道が続きます。ここでは車道、せせらぎ、歩道(プロムナード)という構成で造られていて、車道との間にせせらぎがある事によって歩道を歩いていても空間的に窮屈さを感じないというのは設計者の意図でしょうか。西用賀通りは桜並木となっているので、春になると一層さわやかな雰囲気を感じることでしょう。

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そして西用賀通りから路地に入ると、再び楽しげな空間が待っています。この付近は生垣で囲まれていて、独特の空間を持っているように感じます。せせらぎの始まり部分は水のみ場のような雰囲気があり、その周辺は玉石が敷かれていたり、小石と貝殻をちりばめた一対の玉座や木製のベンチが置かれていたり、チェスの駒と盤のような仕掛けがあったりと、ユーモア溢れる空間といった感じになっています。

ちなみにせせらぎがここから始まりますが、もともとここは谷沢川の暗渠部分です。谷沢川は等々力渓谷を流れる川で、源流は世田谷通り付近の桜丘です。せせらぎの始まり部分から最初の交差点から用賀中学校方面に暗渠の跡を確認できます。

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せせらぎが終わると、今度はもみじ並木の道となります。ここにいらか道の石碑が建てられているので、ここから環八までの区間がいらか道となるのでしょうか。路面のいらかには百人一首の句とともに抽象的な幾何学模様が刻み込まれ、道の脇には所々鬼瓦や祠のような掲示板、木製のベンチが設置されています。

道の南側は畑が続いている区間が長いので、空間的に圧迫感がなく、光が良く差し込んできます。その畑部分には梅が植えられていて、春先に訪れるとほんのりと甘い匂いが漂ってきて、梅雨時分には畑の持ち主がせたがや育ちのブランドで青梅の販売を行っています。またもみじの並木ということで、秋になると道が赤く染まり、なんともいえない雰囲気になります。

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これも南側から光が良く差し込むから紅葉がきれいに見えるのであって、いくら立派な道や並木に高額のお金を費やしても光が差し込む環境がなければこのように美しい道にはならないものです。今後ともそういった雰囲気を大事にしてほしいと思います。環八までの最後の区間は住宅が建ち並んでいて残念ながら紅葉の美しさはないものの、そんなに悪くない雰囲気でしょうか。そして環八にでると普通の歩道になるので、ここでいらか道は終了となります。

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といった感じで、用賀プロムナードはとても素晴らしい道となっていて、世田谷のなかでもトップクラスの雰囲気の良さを持つ道だと言えるかと思います。ただこの道には大きな欠点があって、瓦の敷かれた道路は雨の日に滑りやすいのです。特にオートバイでは今まで走っていた道路と同じ感覚でこの道に進入してしまうと、すってんころりんということになってしまいます。

今では滑りにくいような処理をされている部分もありますが、とりわけ駅付近のピラミッド前の鋭角コーナーは処理を行う前は自転車、バイク共に転倒する人が多く、私も一度スクーターでこけてしまいました・・・。後は子供が水遊びしたときも水から上がったときや濡れたまま走り回ったときに滑りやすいので注意した方がいいかと思います。

<せたがや地域風景資産 No.1-14、用賀プロムナード 2011年5月初稿 - 2015年10月改訂>