世田谷散策記 ~せたがや地域風景資産~

せたがや地域風景資産 No.0

せたがや地域風景資産について

せたがや地域風景資産とはご存知でしょうか?

平成11年に施行された世田谷区風景づくり条例に基づいたもので、平成14年に第1回目の選定が行われ、現在では86箇所の地域風景資産が登録されています。

名前からすると、凄い風景や大きな公園、素晴らしい寺社などばかりが選ばれている感じがしますが、地域の小さな風景や事柄が多く、せたがや百景のように訪れて感動したり、楽しい項目ばかりではなかったりします。

でもなんか素敵だなといった風景が多く、少し知識を得てから訪れると、何気ない風景に感動を覚えたり、今まで気が付きにくかった世田谷の特有の事柄を発見できたりするのがせたがや地域風景資産です。

***  このページの内容  ***

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* せたがや地域風景資産とは? *

世田谷地域風景資産のシンボルマーク
世田谷地域風景資産のロゴ

「せたがや地域風景資産」とは、平成11年に施行された世田谷区風景づくり条例に基づいたもので、公募による区民と区担当者がその制度や選定の仕組みについて2年間に渡って検討し、設立されました。

平成14年に第1回目の風景資産の選定が行われ、まず36項目が登録されました。その後、平成20年に第2回目、続いて平成26年に第3回目が行われ、現在では86箇所の地域風景資産が登録されています。6年ごとに選定が行われているので、次回の第4回目は2020年に行われるはずです。

「せたがや地域風景資産」は「せたがや風景資産」ではなく、わざわざ「地域」という文字が入れられていることから分かると思いますが、世田谷区全体ではなく、それぞれの地域で大切にしたい身近な風景を資産として、地域活動を通して守り育てていくことを目的としています。

風景作りはまずは個から。そして小さくても素敵な風景が集まっていくことで、大きな全体の風景、世田谷全体がよりよい風景となっていくことが期待されています。

せたがや地域風景資産は、活動の継続性が特徴になっています。

世田谷には「せたがや百景」といった名所などを選んだ百選があります。これは良い景観や歴史的建造物や神社、或いは世田谷らしい行事などを区民の投票で選んで後世に残そうといった趣旨です。

この場合は風景や建造物を選んだらそれで終わりです。普遍的な風景や建造物は残っていくかもしれませんが、小さな風景は消えていくかもしれません。いや現実的に町は生きているので、大きな風景ですら消えてしまったものが幾つかあります。

都会では町の風景というのは、とても儚い存在です。特に小さな風景は時代の波、周辺環境の変化、相続等の土地所有者の代替わりなどによってあっという間に消滅してしまう場合があります。それを乗り越えるには人の手で守るなり、手を加えなければなりません。

とは言うものの、その風景が素晴らしいと思っても他人の土地にあれこれと注文できるはずがありません。口を出すならそれ相応のお金も出しなさいよ!というのが現実で、自分ひとりの力ではどうしようもないことだらけです。

でも「せたがや地域風景資産」といった舞台に上げることで、同じように守りたいという人が現れるかもしれません。

そしてそういった仲間が集まって活動を行うことで、地域の注目が集まり、地域全体の活動になるかもしれません。

更には区がもの凄く重い腰を上げて風景を壊すような建造物の建設予定地を買い取ってくれたり、土地所有者が市民緑地制度などを利用して土地を提供してくれるかも・・・しれません。

地域風景資産はこのように風景を守り育てていくことに重しが置かれ、その景観を維持するために活動している人や団体といったサポーターを支援している部分が、百景との一番の違いとなっています。

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* 地域風景資産の選定や選定後について *

「せたがや地域風景資産」の選定は、せたがや百景のように区民による投票といった形式ではなく、ちょっと独特な選定方法をしています。

選定は「推薦人」が風景を推薦し、「選定人」が実地調査をし、「審査人」によって選定が決まります。更にはその風景に携わって活動している「サポーター(登録団体)」がいて、推薦人や選定人に協力して選定に加わります。

選定に当たっては、次の基本的な4つの条件を満たしているかどうかの判断で決まります。

(1)風景としての資産の価値があること。(2)地域の共感・共有があること。(3)風景づくりにつながるアイディアがあること。(4)コミュニティづくりにつながる可能性があること。

これはあくまでもそうあって欲しいという条件であって、全て満たしていなければならないといった絶対条件ではないようです。

このようなプロセスで選定されるわけなのですが、驚くべきは推薦から選定が決まるまでは約1年もかかることです。

これはその風景を見て、いい、悪いといった作業的な選定ではなく、「みんなで創る」「継続できるか」といったことまでも考慮しているからです。

選定期間には、きちんと現場で継続的な活動が行われているかを確認するだけではなく、今後の風景についての可能性、活動の方針などの話し合いも行われます。

当事者にとっても選定のプロセス段階から参加することで、部外者の意見を聞くことができ、「どうしたい」、「何がしたい」といったことを明確にでき、みんなで選定した地域風景資産といった意識も芽生えることでしょう。

その結果として選定後の活動の方向性もはっきりとし、良い活動、良い風景が維持されていくことにつながります。

実際に「せたがや地域風景資産」に選定されるとどのような影響があるのでしょう。

まず一つに、風景資産に登録されることで、団体の活動内容や方針が明確となり、また団体の活動が風景づくり通信や広報などに載ることで公の目に触れやすくなります。

「そういった趣旨なら私も」「公園でこんな活動をしているんだ。私もやってみようかな・・・」と、コミュニティーに参加したいという人が増えることが期待できます。

もちろん活動が継続していけば、地域の住民や企業、小中学校などの団体から賛同や協力を得られたり、共同作業がやりやすくなったりもします。

地域風景資産を中心にその風景への想いを持っている人や地域を住み良くしたいと思う団体などがどんどんと出会い、共に活動ができるキッカケができることで地域のコミュニティーが大きく、そして活性化していけば、地域力といった大きな財産になる可能性もあります。

二つ目に、地域風景資産は法的な規制のない条例ですが、その地域の風景に対する価値観を高めていけば、選定された地域風景資産を核に、例えば建築協定や地区計画などの地域のルールづくりや、界わい宣言などにつながっていくことも期待できます。

そして風景づくり条例に基づき、新たに建築物を建てたりする際に「地域風景資産」への配慮を世田谷区からお願いといった形で行われる場合もあります。あくまでもお願いです。

三つ目に、「風景づくり条例」という行政の後ろ盾ができることが、地域活動や町のボランティアの人たちにとって精神的支柱となります。

地域活動や町のボランティアというのは意外ともろい存在です。善意で町内活動や町の清掃などを行っていても、あなた方が勝手にやっているだけでしょ・・・と言われればそれまでです。

当然やっているほうは見返りが欲しくてやっているわけではありませんが、大きなお世話、勝手に巻き込まないでと冷たい目で見られることも多々あり、なかなか地域全体といった大きな協力や理解が得られないのが現実です。

風景資産に登録されることで行政からのバックアップを受けられ、問題が起きたときにも相談ができます。それに「行政に認められている活動」という部分があるのとないのとでは、精神的に違います。

「せたがや地域風景資産」は小さな制度で、なんか意味があるのといった意見もあるかと思いますが、小さな規模で地域をより良くしようと頑張っている人たちの後押しになっていることを考えると、とても意義のある制度であると思います。

* 地域風景資産を良く知るには *

せたがや地域風景資産の冊子の写真
せたがや地域風景資産の冊子

「せたがや地域風景資産」はとても地味な存在です。

世田谷区ではもっと認知してもらおうと、せたがや百景のようにその場所にプレートを設置したり、風景資産をめぐるクイズラリーを行ったりしていますが・・・、やっぱり地味な存在です。私のサイトでもせたがや百景よりも明らかに訪問者が少ないです。

選ばれている風景が名の知れている名所や風景ばかりではなく、小さな風景や事柄が多く、せたがや百景のように訪れて感動したり、楽しい項目ばかりではありませんが、少し知識を得てから訪れると、何気ない風景に感動を覚えたり、そうなんだ!と今まで気が付きにくかった世田谷の特有の事柄を発見できたりします。

「せたがや地域風景資産」について知るには、一応公式ガイドブック的なものとして、85か所の場所と写真が載っている「せたがや風景MAP」が世田谷区から出版されています。

「風景PRESS」(旧・風景づくり通信)といった世田谷の風景をテーマにした情報誌(年2回)も発行されていて、地域風景資産に登録した経緯などが書かれていたり、イベントの案内が載っていたりします。

その他、「風景づくり10年。これまで×これから」といった今までの取り組みが紹介されている本(500円)や、場所と簡単な説明が載っている「せたがや地域風景資産マップやガイドブック(第1回/第2回)」(廃刊、図書館にあり)などもあります。

こういった冊子は世田谷区のサイトから無料でダウンロードできますし、支所や図書館などにも置いてあります。

また区によって「地域風景資産」をめぐるウォーキングのイベントが行われたり、定期的に町歩きを行っている団体もあるので、参加して直に携わった人などから話を聞くということもできます。

普段は入れない場所、例えば深沢高校の茶室清明亭などに訪れることができたりと参加するメリットもありますし、一人では腰が重いという人にもお勧めです。

散策ではなく、町づくりに関心のある方は風景づくりフォーラムといった交流の場もあります。

風景として興味を持つか、町づくりとして興味を持つか、ボランティア的なことで興味を持つかは人それぞれだと思いますが、興味を持ったなら積極的に交流の場に参加してみてはどうでしょう。新しい生きがいとなるかもしれません。

* 一通り回ってみて思ったこと *

どれぐらいの人が地域風景資産に興味を持ち、見て回ったのか分かりませんが、恐らく、「素晴らしい」とか、「感動した」といった類の感想ではなかったはずです。

「なんか素敵な風景だね」「こういう風景いいね」とか、「公園や緑道でもこういった利用や活用方法があるんだ」といった感想が多かったと思います。

私自身で言うと、百景になかったような新しくて面白い項目もあるけど、小さな風景や似たような風景が多いので、いまいち面白くないな・・・と、最初の頃は思っていました。

でも散策した内容をまとめようと、風景が選ばれた経緯などを調べるようになってからは、小さな風景だけど地域の人の思いや苦労が詰まっているんだ・・・と、さりげない風景に感動を覚えたり、ここは不便だからこうせざるを得なかったんだ・・・・などと考えたりと、見て回るのが面白く感じられるようになりました。

このような地域の人の思いが詰まった小さな風景が集まって世田谷が形成され、特徴づけられているんだ。その事を理解できたことが、せたがや地域風景資産を巡っての一番の収穫です。

色々と各地を旅をしてきましたが、結局、町の風景というのはその土地に暮らす人々の生活などからにじみ出てくるものだと思っています。

例えば漁村と農村では集落の様子が違っていますし、沖縄などでは屋根の低い建物が多かったり、風の強い地域では防風林のある町並みだったりといった感じです。

世田谷の場合だと、土地の有効活用ばかりを考え、建物と道路と公園しかない町並み、無駄がなさ過ぎて息が詰まりそうな町並みです。

更に個々が狭い土地を有効利用する事を考えて建物を建てているので、とても煩雑な風景が多くなっています。

個々が意識していることといえば防犯や外観の良さなので、比較的土地にゆとりのある高級住宅街といわれる地域では不思議な調和が取れていて、見た目がきれいで防犯に特化した町並み・・・てな印象を感じます。

これでは息苦しいとばかりにスペースを見つけて花壇などを設置して彩りや安らぎを求めている風景も多く、こういった花壇の手入れをきっかけにコミュニティーの形成を行っている地域もあります。

様々な必然性から生まれた小さな風景が集まって世田谷を作っている。だから世田谷はこういう町なんだ。そう考えながら散策するとなかなか面白いものですよ。

* 閲覧するに当たっての注意事項 *

このサイトは、世田谷区の公式的なものでもなければ、「せたがや地域風景資産」の公式サイトでもありません。あくまでも私個人が旅人として、「せたがや地域風景資産」を見て周って感じた事や持ち合わせている知識、図書館にある資料などを見て書いたものです。

一つの物を見ても百人それぞれ感想が違うように、ここに書いてある感想がその全てを表している訳ではありません。

また、その項目に関わった人などに直接取材などをしているわけではないので、考え違いをしている部分も多々あるかと思います。もし間違っている部分があれば、ご指摘していただけると助かります。

それからとても重要なことですが、この「せたがや地域風景資産」は地元の人の愛情や努力などによって維持されている部分が選考基準になっています。

だからその本当の良さは目に見えない部分にある場合がありますので、実際に活動に関わっている方がご覧になって「部外者が偉そうに」とか、「何も知らないくせに無責任なサイトだ」と腹立たしく感じるかもしれません。

一生懸命風景を作っている人に対して何もしない人間が意見などを言うのはおこがましいことだと重々承知していますが、あくまでもこのサイトの趣旨は「旅」や「散策」であって、町づくりやボランティアの研究サイトではありません。

公にされている事柄なので、旅人、或いは散策人の視点で見て感じたこと、要は「せたがや地域風景資産」を散策の題目として書くことも許されるのかなと思って製作しています。

* 著作権や使用画像など *

このサイトに載せている画像、そして文章は製作者である風の旅人に起因します。但し、「せたがや百景」「せたがや地域風景資産」、各イベントや団体などの事柄(題名、説明文章、ロゴなど)に関しては世田谷区やそれぞれの関係団体に起因します。

サイト内の写真、文章などの無断転載は法律で禁止されています。写真の無断使用、引用を超える盗用と判断した場合は使用料と法律に則り迷惑料を請求します。

まとめサイトへの引用、転載は固くお断りしています。実際に自分で出向いて写真を撮り、自分の意見を記載して製作してください。

画像を出版物、放送等に必要な場合、有償(一枚3千円)にて対応させていただいています。詳細についてはプライバシーポリシーに記載しています。

2018年10月 風の旅人管理人 たわらまさみ

*** せたがや地域風景資産の更新履歴 ***

・2010年1月
せたがや百景の項目が埋まったので新しい題目としてせたがや地域風景資産の制作に取り掛かり、まずはβ版を公開。
・2011年8月
制作を始めたものの、思うように進まず一年以上放置。その後気分が乗ったところで、突貫的に全ての項目を完成させる。
・2014年4月
第3回の選定が決まり、この機会に百景、秋祭りのページと共に全体的にリニューアル。新しく選定された項目も追加する。
・2015年5月
サイト全体のリニューアルに合わせて、デザイン、プログラム、内容を変更したver2.0を公開。
・2015年10月
デザイン、不具合、内容を変更したver2.1を公開。
・2018年9月
写真を大きくし、モバイル表示や広告表示に対応するために作り直す(Ver.3.0)。

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***   類似・関連項目   ***

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<せたがや地域風景資産 No.0 せたがや地域風景資産について 2011年5月初稿 - 2018年10月改訂>