世田谷散策記 タイトル
せたがや百景 No.7

北沢川緑道桜並木と代沢の桜祭り

せたがや地域風景資産 #1-6

代沢せせらぎ公園と北沢川緑道

代田~代沢地域の北沢川緑道(環七からせせらぎ公園の間)

代沢地区の北沢川緑道の両側には、桜並木が続いている。満開になると花のトンネルになり、花見の宴が繰り広げられる。地元主催の桜祭りには甘酒の無料接待やパレードなども行われる。(せたがや百景公式紹介文の引用)

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1、北沢川緑道と桜並木

北沢川緑道 「せせらぎ」の始まり地点
「せせらぎ」の始まり地点

環七付近、ちょうど円乗院前からせせらぎが始まります。

代沢にある北沢川緑道は、都会にあって小川のせせらぎが・・・と書くと大袈裟ですが、この緑道では小川のような水の流れが残されていて、その流れに沿って遊歩道が設置されています。

なんてきれいな小川だろう。水はきれいだし、小川と遊歩道のデザインが洗練されている。しかも、よく手入れが行き届いている。まるで自然を利用した大きな庭園のようだ。やっぱり都会は凄いや。小川をこのように整備するなんて・・・。最初に訪れたとき、あまりの素晴らしさに感動してしまいました。いや本当です。

しばらくして、百景のページを作るために色々と調べていると、このせせらぎが人工的に造られたものだと知りました。えっ、そうだったのか・・・。思えば、少しきれい過ぎたもんな・・・。と、がっかり。それと同時に、都会では川すらも人工的に造ってしまうのか・・・と、ビックリしました。

更には、都会の川は地下に埋められたり、人工的に水を流しているものが多いという事実を知りました。

北沢川緑道 山川医院付近
山川医院付近

この付近は遊歩道といった感じです。

現在の都市部では、治水対策、転落等の安全対策、異臭や衛生対策、雑草対策などといった様々な都市行政上の問題から、小さな川の多くは埋め立てられ、地下に下水管が通されています。

もちろんこれはこれで、子供が落ちたり、カエルやら虫の大量発生などがなくていいのですが、日常生活の圧迫感を感じない安らぎというか、自然の匂いや季節感を味わえる小さな風景がないという面では、ちょっと寂しいものがあります。

ただ、地下に追いやった川の上に建物を建てたり、道路を敷いたりするのはさすがに危険なので、ほとんどが緑道として整備されていて、そこには季節感ある草木が植えられたり、芸術性の高いオブジェが置かれたり、ベンチなどが設置されるなど、様々な形で区民の憩いの場となっています。

北沢川緑道 桜橋付近
桜橋付近

小さな橋ですが、レンガの装飾が加えられていておしゃれです。

この北沢川緑道は名前の通り、北沢川が流れていた流路に設置されたものです。

北沢川について書くと、区内では耕地整理、区画整理の際に川の流路が直線的に変えられていることが多いので、古くからの流れと必ずしも一致しませんが、上北沢にある都立松沢病院内の通称「将軍池」の湧水(武蔵野の伏流水)が主な水源となり、桜上水、赤堤、経堂、豪徳寺、梅が丘を通り、ここ代沢にやってきます。

代沢では、下北沢の町の南側を東に一直線に横切っていき、池尻の北で世田谷城や三軒茶屋を流れてきた烏山川と合流し、目黒川と名称を変えます。目黒川は国道246号を越えると、流れが見える川になり、桜並木で有名な中目黒などを流れ、東京湾に流れていきます。

1940年頃の代沢と北沢川の航空写真(国土地理院)
1940年頃の代沢と北沢川

国土地理院地図を書き込んで使用

川としては水量が少なく、江戸時代には玉川用水から水を分けてもらい、北沢用水として流域の田畑に利用されました。しかし、時代が昭和になる頃から流域の都市化が進み、生活排水で水質が悪くなっていきました。

川に流れ込む湧水の流量も減り、流域の田畑も減少したことから、昭和40~50年代に暗渠化の工事が行われ、地下に下水管が通されました。この暗渠化により2級河川の北沢川は消失。現在は下水道・北沢幹線というのが正式な名称になります。

北沢川緑道 桜橋から鎌倉橋方面
桜橋から鎌倉橋方面

鎌倉時代の道と言われる鎌倉道に架かるのが鎌倉橋。
この付近は緑道の左右で高さが結構違います。

暗渠化された後、これでは味気ない。川の流れを取り戻そうではないか。と、平成6年度から住民参加によってせせらぎ(小川)を復活させる計画が持ち上がりました。

問題はせせらぎに流す水。水量を確保できないから北沢川が消滅したようなもの。それに公園内に設置されたせせらぎとは違い、緑道に川のように流すには相応の水量が必要になります。

これにはちょうど当てがあり、平成7年から東京都下水道局落合水再生センター(下水処理場)で水質を向上させて処理した再生水(高度処理水)が目黒川に流されることになったので、交渉し、それを使用させてもらうことになりました。

北沢川緑道 せせらぎの水の注意書き
せせらぎの水の注意書き
北沢川緑道 せせらぎを泳ぐ鯉
せせらぎを泳ぐ鯉

ということで、平成8年から環状7号線から目黒川緑道合流点までの区間の工事が行われ、現在のせせらぎが誕生しました。

せせらぎに使用される再生水は、落合処理場から地下を通って池尻北広場まで送られてきます。それを「代沢せせらぎ公園」内にある地下の浄化施設で浄化し、ポンプで少し上流の環七付近まで送り、せせらぎに放水するといったといった仕組みになっています。

この再生水は飲用不可ですが、魚た鳥などが生活するには問題ないとのこと。実際、せせらぎの中をコイが泳いでいたり、カルガモが水遊びをしていたりします。

更に付け加えると、大雨が降った場合、再生センターからの送水が停止されるので、水があふれるということは余程のことがない限りないそうです。

北沢川緑道 二子橋付近
二子橋付近

 茶沢通りの手前です。

こういった人工の水の循環施設には、どれくらい費用がかかるのでしょう。調べてみると、ここの場合は緑道や浄水施設の初期整備費用に18億円ほどかかかっているようです。

当然、維持費用もかかります。年間維持費用は、圧送水分担金73万円、浄化施設約1千300万円、せせらぎの巡回点検・清掃委託に約400万円、管理協定団体に約90万円、樹木の剪定作業等に約300万円かかっているようです。

過去の話なので現在では状況が違うかもしれませんが、設置、維持共にかなりの費用が掛かっています。そう考えると、財政的にどこにもかしこにも設置するというわけにはいかないというのが現実です。

北沢川緑道 稲荷橋付近
稲荷橋付近

この付近は昔のままの小川といった趣です。

こういった人工のせせらぎに頼らなくても、きれいな水の流れを維持できる環境を整えることができればいいのですが、現実問題として、近年世田谷では、いや、東京都市部全体に言えることですが、川の流れの元となる湧き水の量がめっきり少なくなっています。

たとえば、かつて水源だった釣鐘池にしても、弁天池にしても、すっかりと干上がってしまったし、残っている多くの水源でも池を維持するのがやっとの状態になっています。

その原因は、アスファルトやコンクリートで固められた都会では、雨水が地面に浸み込む前に下水や川に直行してしまうからです。また、地下にトンネルなどを掘ることで、井戸の水が枯れたという話を聞くことがあると思いますが、地下の地層をいじることで、湧水の水脈が変わってしまうこともあります。

湧水が少なくなり、生活排水も下水に直行しているので、都会の小さな川は水量を維持するのが難しいのです。

北沢川緑道 稲荷橋の先
稲荷橋の先

この付近から人が少なくなり落ち着いた感じとなります。

さて、百景のタイトルになっている桜並木ですが、ここ北沢川緑道の桜並木は小川のような流れの両脇に桜が並んでいて、とても素晴らしい風景を作っています。この素晴らしい桜並木があったからこそ、せせらぎを復活させたといっても過言ではないでしょう。

桜並木は環状7号線から淡島通りまでの間に約150本もの桜が並んでいて、桜の時期に遊歩道を歩くとずっと桜の小道が続くのでとても気持ちがいいです。花見客の多さからもちょっとした桜の名所となっているのは確かです。

北沢川緑道 せせらぎ公園
せせらぎ公園

緑道沿いにある公園です。ここでせせらぎが終わります。

これらの桜は、昭和8年に鎌倉橋の東側に橋場橋が架けられたときの記念して植樹されたのが最初のようです。もちろんこの頃はせせらぎではなくちゃんとした川が流れていたので、川の土手に植えられました。

ちょうどこの頃は区内で宅地の区画整理が活発に行われ、その際に桜を植えるのが流行っていました。そういった事例をふまえて、我が町にも・・・といった感じで、どんどんと植えられていったのでしょう。そして今では北沢川になくてはならない春の風物詩となりました。

ちなみに、このページをご覧になった方からメールを頂いたのですが、当時は代沢小学校の卒業祝いに桜の苗木を配っていたそうです。その時、「もう北沢川には植えてはダメ」と先生に言われたとか。

もしかしたら小学校の卒業生によって桜並木が拡大していき、この規模になったのかもしれませんね。誰かがなんとなく植えた卒業記念の桜もさりげなく混じっているかと思うと、何か面白く感じてしまいます。

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2、北沢川緑道あれこれ

北沢川緑道 緑道で花見をする人たち
緑道で花見をする人たち(鎌倉橋付近)

緑道に人があふれていました。

北沢川緑道 緑道で花見をする人たち
緑道で花見をする人たち(桜橋付近)

さすがにコンクリの上では尻が痛くなります。常連さんは座布団を持参していました。

百景の文章にある代沢桜祭りは、緑道として整備される前から毎年春に行われていました。パレードも行われるような活気のある桜まつりで、この界隈の春の風物詩となっていたようです。

しかしながら、そういった大規模な桜祭りは中止となり、かろうじて各関係団体のPRが緑道で行われているといった感じの細々とした桜まつりが行われていましたが、近年では町会、商店街、睦会の協力で、代沢小学校の南側に出店が並ぶようになりました。

ただ、週末の緑道の賑わいは今なお健在で、緑道が花見客で埋め尽くされます。これが圧巻の光景で、最初に見たときは驚きました。これぞ北沢川緑道の春の情景。他ではなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。

問題もあって、コンクリートの上にビニールシートを敷いただけでは尻が痛くなります。あまり花見向きの場所ではないのは確かです。でも、常連さんは慣れたもの。座布団を持参して対処していました。ここでの花見には必須のアイテムになるようです。そのうち海の家のビーチパラソルのように座布団や簡易椅子のレンタル屋が現れたりして・・・。

北沢川緑道 緑道上に設けられた公園
緑道上に設けられた公園

水路は公園の下を通ります。

緑道の途中には児童用の公園もあります。この部分ではせせらぎはお休みで、せせらぎの上に公園があり、遊具が設置されています。

小さな子を連れて訪れるのは最適なようで、幼稚園や保育所のお迎えの時間帯とか、休日などには多くの子供で賑わっています。

北沢川緑道 代沢小学校の壁
代沢小学校の壁

壁に魚が泳いでいて楽しそうです。

緑道沿いには代沢小学校があり、緑道沿いの壁には魚の群れが描かれていました。遊び心満点というか、ほのぼのとしていいものです。

また小学校の緑道沿いには意味深な古い門があります。最初に訪れたときは、かつてはこちら側にも入り口(裏口)があって、その名残りで残してあるのだと勝手に思い込み、小学生が小川にかかった小さな橋を渡り、桜並木を登下校しているといった日本の原風景的な光景を想像し、ほのぼのとした気分に浸りました。

北沢川緑道 坂口安吾文学碑
代沢小学校の裏門跡?ではなく文学碑

坂口安吾の旧宅に使用されていた門柱です。

後日北沢緑道について調べている際に、この門柱は安吾文学碑だと知りました。坂口安吾氏は作家で、この代沢小学校で一年間代用教員として勤めました。その時のことを題材に書いたのが「風と光と二十の私と」という作品です。

で、この門柱は彼が住んでいた蒲田の家の門柱になります。取り壊しの際に寄付金を募って北沢川文化遺産保存の会の方々がここに移転し、世田谷区教育委員会に寄贈したものになります。

後日訪れたときに改めて見てみると、ちゃんと解説版が設置されているし、よく見ると柱に取り付けられている住所表記も大田区になっていました・・・。

これはこれで価値のあるのでしょうが、私的にはかつての裏門だった方がうれしかったかな・・・。

北沢川緑道 アジサイの季節
アジサイの季節

この時期もいい感じです。

北沢川緑道のせせらぎは、しっかりとコンクリートで固められた部分もありますが、周りが土の部分もあり、そこには植物が植えられています。

桜のことばかりに目が行きがちですが、アジサイや菖蒲などといった水生植物なども楽しむことができます。桜の時期以外にも散策を楽しむことができます。

北沢川緑道 伐採された桜の木
伐採された桜の木

残念ながら寿命を迎えてしまったようです。

2010年の秋、北沢八幡の秋祭りを見学した際に緑道に寄ってみると、あれっ、ここなんだか以前よりもすっきりしているぞと思う場所が幾つかありました。どうやら近年では桜の木の老木化が進んでいるようで、多くの桜の木が伐採されてしまったようです。

帰ってから調べてみると、世田谷区が区内の桜を一斉に調査し、倒木の危険があるものは伐採し、治療できるものは処置をしてといった作業を行ったようです。桜の木にも寿命があるのでいつかはこうなってしまう運命ですが、今後はなるべく新しく桜を植林し、桜のある景観を維持していく方針のようです。

3、地域風景資産について

北沢川緑道 代田川緑道保存の会による案内板
代田川緑道保存の会による案内板

地域の大事なコミュニティーとなっているようです。

北沢川緑道 代田さくら祭りの会場
代田さくら祭りの会場

北沢川文化遺産保存の会による地域案内

北沢川緑道はせたがや地域風景資産にも指定されています。おそらく緑道を歩いた人の多くが感じたと思いますが、緑道とせせらぎの内部がきれいに整備、清掃されています。

花が植えられていたり、置物が置かれていたり、雑草が見苦しくない程度に除去されていたりと、業者に任せて適当に整備しているだけではこんなにきれいにはなりません。こういった作業を行っているのは地域のボランティアの方々で、そのおかげで雰囲気のいい空間と良好なせせらぎの環境が維持されているといったわけです。

地域風景資産の登録団体は北沢川文化遺産保存の会となっていますが、「北沢せせらぎ公園協議会」「北沢せせらぎクラブ」「北沢川児童遊園保存協力会」「代田自治会」の4団体が管理協定を締結し、代田川緑道保存の会緑道の清掃等を行っているようです。

詳しくは分かりませんが、緑道内に設置されていた案内板によると「代田川緑道保存の会」が代田川緑道ニュースや清掃の案内を行っていて、せせらぎの開始部分から鎌倉橋までの担当になっているとの事です。

4、感想など

北沢川緑道 せせらぎを流れる桜の花びら
せせらぎを流れる桜の花びら

足を止めて花びらが流れていく様子を眺めてみてはどうでしょう。

都会では鉄道が高架、或いは地下に敷かれているのと同じで、小さな川も地下に追いやられてしまい、町並みから小さな川がある風景というものが消えつつあります。

この北沢川緑道では小川のようなせせらぎが・・・と書くと大袈裟ですが、そういった雰囲気が残っていて、散策するのが楽しい緑道となっています。

特に桜の季節は美しい散策道になります。頭上には桜の花、地上には大勢の宴会をする人々、歩いているだけで楽しい気分になります。

そしてせせらぎに目をやると桜の花びらがくるくると回転しながら、あるいはぶつかったり、重なったりしながら水を流れていきます。水の流れと桜の繰り広げるドラマです。

足を止め、その様子をしばらく眺めていると、やっぱり水の流れって心が落ち着くな・・・と改めてせせらぎの良さを感じてしまいました。

せたがや百景 No.7
北沢川緑道桜並木と代沢の桜祭り
せたがや地域風景資産 #1-6
代沢せせらぎ公園と北沢川緑道
2025年5月改訂 - 風の旅人
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6、地図・アクセス等

・住所代田~代沢地域の北沢川緑道(環七からせせらぎ公園の間)
・アクセス下北沢駅、代田駅から徒歩
・関連リンク 北沢川緑道(世田谷区公式)
・備考現在ではパレードが行われるような大規模な桜祭りは行われていません。
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