世田谷散策記 タイトル
せたがや地域風景資産 #1-5

経堂の西洋館と庭

*現在はありません(経堂2-29-6)

昭和初年の建築で、シェークスピアの家をモデルにしている。所有者は、近傍の私立学校と関わりが深く、この建物は欧米のマナー教育の場としても機能してきた歴史がある。(紹介文の引用)

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1、経堂の西洋館と庭について

経堂駅北口とすずらん通り商店街
経堂駅北口とすずらん通り商店街

経堂の北口にあるすずらん通り商店街を抜けて・・・、というか、この辺りは土地勘がないと、自分がどのあたりにいるのかすぐにわからなくなってしまいます。

この界隈には背骨となるような大きな道がないので、仕方なく小さな道を進んで行くことになるのですが、道は曲がってばかりだし、小さな交差点の連続だしと、しっかりと地図を確認しながら歩かないと、なかなか思う場所にたどり着けません。

まるで地域全体が迷路のようです。経堂迷路という言葉がありますが、大げさに言っているのではなく、本当にそう感じます。

経堂駅北口付近の地図(国土地理院)
経堂駅北口付近の地図

国土地理院地図を使用

そんなごちゃごちゃとした地域を歩いていると、忽然とメルヘンチックな建物が現れます。と、今度は少々大袈裟な表現で書きましたが、変わった造りの洋館があり、敷地自体も広い事からかなり目を引く存在となっていました。

経堂の西洋館 洋館のある路地の写真
洋館のある路地

敷地が広く、かなり目立つ建物でした。

経堂の西洋館 洋館の門と建物の写真
洋館の門と建物

建物の壁の水平垂直の強調が特徴です。

この度、久しぶりにページの手直しを行い、実際に行くのは大変なので、グーグルマップで家から出ずに経堂散策♪・・・と探してみると、なんと西洋館がなくなっていて、普通の家が建ち並んでいました。

どうやら取り壊されてしまったようです。古い建物だったし、それなりに広い敷地だったし、所有者の事情を考えると、しょうがないのでしょう。

経堂駅北口付近の地図(国土地理院)
2009年航空写真

国土地理院地図を書き込んで使用

この建物は、昭和6年に建築したもので、設計に当たってはシェイクスピアの生家を参考にしたそうです。

なんでも建物の所有者は、近傍の学校と関わりが深く、この建物は欧米のマナー教育の場としても機能してきた歴史があるとか。国際化の先駆け的な存在だったのでしょうか。

シェイクスピアの生家のイメージ(*写真:中山さん)
シェイクスピアの生家

(*写真:中山さん 【イラストAC】

少し調べてみると、シェイクスピアの生家というのは現在も実在していて、写真を見る限りだと壁に格子状にある木の柱みたいなデザインが特徴のようです。

シェイクスピアは1564年4月26日生まれで、出生地はイギリスのイングランド地方ストラトフォード・アポン・エイヴォンになります。シェイクスピアの家が特別というわけではなく、この地方の建物はこんな感じの建築様式が多いようです。

この洋館もこの地域の建築様式を取り入れ、シャイクスピアの実家を似せて建築した建物になるのでしょう。

個人が暮らしていたお宅なので、勝手に中に入るわけにはいかなく、ちょこっと外から眺めただけなので、内部などにはもっとこだわりがあったのかもしれません。

それとタイトルでは庭も含まれていますが、これも外から見た感じでは広い庭があるなといったぐらいしか分かりませんでした。

イギリスの洋館といえば、区内では百景に選ばれている静嘉堂文庫も有名です。あちらは洋風のスクラッチタイルが一面に貼り付けられていて重厚な感じがします。同じイギリスの洋館でも結構雰囲気が違うものですね。

経堂の西洋館 洋館の門前からの写真
洋館の門前から

外門もいかにも西洋風だと絵的にいいのですが。

ちなみに、昭和初期に発行された「世田谷郷土誌」に経堂のことが書かれています。

それには「~藁屋の背後に、これはあまりに近代的な文化式住宅を随所にみうける。あまりに皮肉な対照ではある。働いても働いても現在より、よりよい生活はいつ恵まれるかわからぬ農民たち。黒くなって働き、土を相手に終日休みなき人びと。しかも、帰るべきわが家は藁屋のいぶせき内には、大勢の子どもがさわいでいるのだ。そのすぐ鼻先に、これみよがしに文化住宅が建つ。二階建て、ガラスの明るい家、西洋館、ピアノの音、自動車のエンジン。あまりにも贅沢な生活をみせつけられて、いったい、なんと思うであろう。新旧の交差、あまりにも明瞭な対照を目撃せざるをえぬ。過渡期の町、新開の町、なん十年なん百年かの封建を破って垣根の欅を倒し屋根を切り売りする町。なにか大きな暗示を感じないわけにはゆかなかった。~~~」とあります。

経堂駅北口付近の地図(国土地理院)
昭和初期の航空写真

国土地理院地図を書き込んで使用

この西洋館を特に差しているわけではないのですが、この頃の経堂は小田急線が開通し、次々と最新型の分譲住宅が荒れ地を切り開いて建てられていました。

貧富の差があった時代だったので、現在の我々だと、「変わった建物が建てられたな。やっぱりお金持ちの家は凄い凝っているな。」などといった感想を持つのでしょうが、この時代は全く違う次元で考えているのが、興味深く感じます。

また、立派な木を切り倒して、町を切り開くことに、畏怖の念を感じているのも、この時代の人らしい考え方になるでしょうか。

それとともに、かつては地元の住民にとって大きな不安とあこがれの象徴だった建物が、半世紀以上経って町の景観を選ぶ地域風景資産に選定されるというのも、何か不思議に感じてしまいます。

2、感想など

経堂の西洋館の写真
経堂の西洋館

こういった自宅だと家に帰るのが楽しそうです。

経堂にあったシェークスピア風の洋館。残念ながらもうありません。その痕跡もないといった感じです。

現代は、様々な個性が価値観、情報があふれる時代です。住宅地を歩いていると、同じようなシェークスピア風の建物だけではなく、スペイン風、北欧風などといった洋館を目にすることも多いです。かと思えば、どんな人が住んでいるんだろうと思うぐらい強烈に個性を感じる建物もあったりします。本当に様々な建築物を見かけます。

そういった個性的な建築物が溢れている世の中にあっても、この古びた西洋館には、歴史を積み重ねてきた分だけ、その佇まいに他の建物と違った特別な気品を感じられました。

せたがや地域風景資産 #1-5
経堂の西洋館と庭
2025年5月改訂 - 風の旅人
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・地図・アクセス等

・住所ーーー (経堂2丁目29-6)
・アクセス現在では西洋館はありません。
・関連リンクーーー
・備考ーーー
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