世田谷散策記 せたがや地域風景資産項目一覧
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せたがや地域風景資産について

せたがや地域風景資産というのはご存知でしょうか?せたがや百景は知っていても、この地域風景資産は知らなかった・・・という人が多いかもしれません。

名称からすると、区内の凄い風景や公共性の高い大きな公園、歴史的価値のある寺社ばかりが選ばれていそうですが、そんなことはなく、地域の小さな風景や事柄が中心となっています。

でも、なんか素敵だな・・・といった風景が多く、少し知識を得てから訪れると、今まで気が付きにくかった世田谷の特有の事柄を発見できたりするのが、せたがや地域風景資産になります。

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1、せたがや地域風景資産とは

世田谷地域風景資産のシンボルマーク
世田谷地域風景資産のロゴ

「せたがや地域風景資産」は、平成11年に施行された世田谷区風景づくり条例に基づいたもので、公募による区民と、区の担当者がその制度や選定の仕組みについて2年間に渡って検討し、設立されました。

平成14年に第1回目の地域風景資産の選定が行われ、36項目の風景資産が登録されました。その6年後の平成20年に第2回目の選定が行われ、30項目が新たに登録され、更に6年後の平成26年に第3回目の選定が行われ、20項目が追加されました。

4回目は平成32年に行われるのかと思っていましたが、新型コロナウィルスの影響なのか、元々打ち止めだったのか、現時点で4回目の選考は行われていません。なので、全部で86項目になるのですが、後年に一か所抹消されているので、現時点で85項目の登録となっています。

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「せたがや地域風景資産」は「せたがや風景資産」ではなく、「地域」という文字が入れられています。これは世田谷区を代表する風景資産という趣旨ではなく、それぞれの地域で大切にしたい身近な風景を資産として、地域活動を通して守り育てていくことを目的としているからです。

風景作りは、まずは個から。そして、素敵な個の風景が集まっていくことで、大きな全体の風景、すなわち世田谷全体がよりよい風景となっていくことが期待されています。

子が集まって集合体をつくるイメージ(*イラスト:K-factoryさん)

(*イラスト:K-factoryさん 【イラストAC】

せたがや地域風景資産の特徴として、活動の継続性が挙げられます。世田谷には「せたがや百景」といった名所などを選んだ百選があります。これは良い景観や歴史的建造物や神社、或いは世田谷らしい行事などを区民の投票で選び、後世に残そうといった趣旨のものです。

この場合、風景や建造物を選んだら、それで終わりです。普遍的な風景や建造物は残っていくかもしれませんが、小さな風景は消えていくかもしれません。いや、現実的に町は生きているので、大きな風景ですら消えてしまったものが幾つかあります。

都会では町の風景というのは、とても儚い存在です。特に小さな風景は、時代の波、周辺環境の変化、相続等の土地所有者の代替わりなどによって、あっという間に消滅してしまうものです。それを乗り越えるには、人の手で守るなり、手を加えなければなりません。

とは言うものの、その風景が素晴らしいと思っても、他人の土地にあれこれと注文できるはずがありません。口を出すなら、それ相応のお金や対価を出しなさいよ!というのが現実で、自分ひとりの力ではどうしようもないことだらけです。

みんなで協力して守るイメージ(*イラスト:K-factoryさん)

(*イラスト:K-factoryさん 【イラストAC】

でも、「せたがや地域風景資産」といった舞台に上げることで、同じように守りたいという人が現れるかもしれません。そして、そういった仲間が集まって活動を行うことで、地域の注目が集まり、地域全体の活動になるかもしれません。

そのことによって、区がもの凄く重い腰を上げ、風景を壊すような建造物の建設予定地を買い取ってくれたり、土地所有者が税金が控除される市民緑地制度などを利用し、土地を提供してくれる・・・かもしれません。

地域風景資産は、このように風景を守り育てていくことに重しが置かれ、その景観を維持するために活動している人や団体といったサポーターを支援している部分が、百景との一番の違いとなっています。

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2、地域風景資産の選定や選定後について

会議をするイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

「せたがや地域風景資産」の選定は、せたがや百景のように区民による投票といった形式ではなく、独特な選定方法を行っています。

選定は、「推薦人」が風景を推薦し、「選定人」が実地調査をし、「審査人」によって選定が決まります。更には、その風景に携わって活動している「サポーター(登録団体)」がいて、推薦人や選定人に協力して選定に加わります。

選定に当たっては、次の基本的な4つの条件が考慮されます。(1)風景としての資産の価値があること。(2)地域の共感・共有があること。(3)風景づくりにつながるアイディアがあること。(4)コミュニティづくりにつながる可能性があること。

これはあくまでもそうあって欲しいという条件であって、全て満たしていなければならないといった絶対条件ではないようです。どの程度満たしているか、今後改善できるのかなど、総合的に判断しているようです。

このようなプロセスで選定されるわけなのですが、驚くべきは推薦から選定が決まるまで、約1年もかかることです。

これは、その風景を見て、いい、悪いといった作業的な選定ではなく、「みんなで創る」「継続できるか」といったことまでも考慮しているからです。

会議をするイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

選定期間には、きちんと現場で継続的な活動が行われているかを確認するだけではなく、今後の風景についての可能性、活動の方針などの話し合いも行われます。

当事者にとっても、選定のプロセス段階から参加することで、部外者の意見を聞くことができ、「今後どうしたい」、「自分たちは何がしたい」といったことを明確にでき、登録に向けて仲間と共有意識を持ったり、活動にも力が入ることでしょう。

その結果として、選定後の活動の方向性がはっきりとし、良い活動が継続できたり、良い風景が維持されていくことにつながります。

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実際に「せたがや地域風景資産」に選定されると、どのような影響があるのでしょう。

まず一つに、風景資産に登録されることで、団体の活動内容や方針が明確となります。また、団体の活動が風景づくり通信や広報などに載ることで、世間の目に触れやすくなります。

花壇の手入れをするイメージ(*イラスト:ACworksさん)

(*イラスト:ACworksさん 【イラストAC】

活動内容を知ったことで、「そういった趣旨なら私も」「公園でこんな活動をしているんだ。私もやってみようかな・・・」と、コミュニティーに参加したいという人が増えることが期待できます。

活動が継続し、普遍的なものになれば、地域の住民や企業、小中学校などの団体から賛同や協力を得られたり、共同作業がやりやすくなったりもします。

地域風景資産をきっかけに、地域を住み良くしたいと思う個人や団体、自治会や企業などが交流することで、共に活動ができるキッカケができたり、地域のコミュニティーが大きく、そして活性化していく可能性もあります。そうなれば地域力といった大きな財産になります。

団結するイメージ(*イラスト:Noesisさん)

(*イラスト:Noesisさん 【イラストAC】

二つ目に、地域風景資産は法的な規制のない条例ですが、その地域の風景に対する価値観を高めていけば、選定された地域風景資産を核に、例えば建築協定や地区計画などといった地域のルールづくりや、界わい宣言などにつながっていくことも期待できます。

もちろんそれが一過性ではなく、しっかりと地域に根付いた継続した活動となっていることが前提ですが、風景づくり条例に基づき、新たに建築物を建てたりする際に「地域風景資産」への配慮を世田谷区からお願いといった形で行われる場合もあります。

これはあくまでもお願いレベルの提案になりますが、地域のアイデンティティとなるような活動なら、建築主は強引に建築を行ったとしても、長い目で見たらデメリットが大きいです。それなりの配慮や歩み寄りをしてくれるでしょう。

清掃活動をするイメージ(*イラスト:ACworksさん)

(*イラスト:ACworksさん 【イラストAC】

三つ目に、「風景づくり条例」という行政の後ろ盾ができることが、地域活動や町のボランティアの人たちにとって精神的支柱となります。

地域活動や町のボランティアというのは、意外ともろい存在です。善意で町内活動や町の清掃などを行っていても、あなた方が勝手にやっているだけでしょ・・・と言われればそれまでです。

当然やっているほうは見返りが欲しくてやっているわけではありませんが、大きなお世話、勝手に巻き込まないでと冷たい目で見られることも多々あり、なかなか地域全体といった大きな協力や理解が得られないのが現実です。

風景資産に登録されることで、行政からのバックアップを受けられ、問題が起きたときにも相談ができます。それに「行政に認められている活動」という部分があるのとないのとでは、精神的に違ってきます。スーパーボランティアの尾畠さんのような強靭な精神を持っている人には関係ないかもしれませんが・・・。

「せたがや地域風景資産」は小さな制度で、意味があるの・・・といった意見もあるかと思いますが、小さな規模で地域をより良くしようと頑張っている人たちの後押しになっていることを考えると、とても意義のある制度ではないかと思えます。

3、地域風景資産を良く知るには

せたがや地域風景資産の冊子の写真
初期に発行された「せたがや地域風景資産」の冊子(世田谷区)

「せたがや地域風景資産」は、選ばれている項目が小さな風景や事柄が多いので、とても地味な存在です。

世田谷区では、もっとこの制度を認知してもらおうと、せたがや百景と同じようにその場所にプレートを設置したり、風景資産をめぐるクイズラリーを行ったりしていますが・・・、今でもやっぱり地味な存在です。

せたがや風景マップ(世田谷区)
せたがや風景マップ(世田谷区)

「せたがや地域風景資産」について知るには、一応公式ガイドブック的なものとして、85か所の場所と写真が載っている「せたがや風景MAP」が世田谷区から出版されています。

「風景PRESS」(旧・風景づくり通信)といった世田谷の風景をテーマにした情報誌(年2回)も発行されていて、地域風景資産に登録した経緯などが書かれていたり、イベントの案内が載っていたりします。

その他、「風景づくり10年。これまで×これから」といった今までの取り組みが紹介されている本(500円)や、場所と簡単な説明が載っている「せたがや地域風景資産マップやガイドブック(第1回/第2回)」(廃刊、図書館にあり)などもあります。

こういった冊子は世田谷区のサイトから無料でダウンロードできますし、支所や図書館などにも置いてあります。

参考:<せたがや風景MAP><風景PRESSのバックナンバー><風景づくり10年。これまでこれから

ウォーキングのツアーのイメージ(*イラスト:あっきーさん)

(*イラスト:あっきーさん 【イラストAC】

また、区によって「地域風景資産」をめぐるウォーキングのイベントが行われたり、定期的に町歩きを行っている団体もあるので、参加して直に携わっている人などから話を聞くということもできます。

普段は入れない場所、例えば深沢高校の茶室清明亭などに訪れることができたりと、参加するメリットもありますし、一人では腰が重いという人にもお勧めです。

散策ではなく、町づくりに関心のある方には、風景づくりフォーラムといった交流の場もあります。

風景として興味を持つか、町づくりとして興味を持つか、ボランティア的なことで興味を持つかは人それぞれだと思いますが、興味を持ったなら積極的に交流の場に参加してみてはどうでしょう。新しい生きがいとなるかもしれません。

4、一通り回ってみて思ったこと

難しい反応のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

どれぐらいの人が地域風景資産に興味を持ち、全部見て回ったのか分かりませんが、総括するなら、「素晴らしい」とか、「感動した」といった類の感想とはならなかったはずです。

「なんか素敵な風景だね」「こういう風景いいね」とか、「公園や緑道でもこういった利用や活用方法があるんだ」とか、「あまり見るべきものはなかったね」というような感想が多いことだと思います。

私自身で言うと、せたがや百景の選定に漏れていたり、その後に新しく出来た面白い項目もあるけど、全般的に小さな風景や似たような風景が多いので、百景ほど面白くないな・・・と、最初の頃は思っていました。

難しい反応のイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん 【イラストAC】

でも、散策した内容をまとめようと、風景が選ばれた経緯などを調べるようになってからは、小さな風景だけど地域の人の思いや苦労が込められているんだ・・・と、さりげない風景に感動を覚えたり、ここは不便だからこうせざるを得なかったんだ・・・・などと考えさせられ、見て回るのが面白く感じられるようになりました。

そして、このような地域の人の思いが詰まった小さな風景が集まって世田谷が形成され、特徴づけられているんだ。と、理解することができました。その事が、せたがや地域風景資産を巡っての一番の収穫です。

このことは、観光地ばかりをめぐっていては得られない体験になるでしょうか。それを面白く感じたり、興味深く感じるかは、人それぞれかと思いますが・・・。

世田谷の町並み写真
世田谷の町並み

結局のところ、色々と日本、そして世界を旅をしてきましたが、町の風景というのは、その土地に暮らす人々の生活や文化などからにじみ出てくるものです。

例えば、漁村と農村では集落の構造が違っていますし、暑い地域では風通しのいい建物が多かったり、陽気な人々が多い地域でが建物がカラフルだったりします。

世田谷の場合だと、土地の有効活用ばかりを考え、建物と道路と公園しかない町並みが中心です。個々が意識していることといえば、土地の有効活用と、防犯や外観の良さ。各々が狭い土地に許される限りに建物を建てているので、とても煩雑な風景が多くなっています。

それとともに、あまり個性のない日本人でもあるので、町の景観も地味だったりします。率直に言うなら、遊び心や無駄がなさ過ぎて、息が詰まりそうな町並みです。

世田谷の町並み写真

とはいえ、土地や金銭的にゆとりのある高級住宅街では、自然と調和が取れていて、見た目がきれいで、防犯に特化した町並みになっていたりします。

こういうのは例外的となり、生活の場が建物と道路だらけで息苦しいと、緑道や公園の使われていない小さなスペースに花壇などを設置し、彩りや安らぎを求めています。

こうしてできた花壇の手入れをきっかけに、新たな地域のコミュニティーが形成されたりもします。そして、それが地域風景資産にも多く選ばれています。

このように様々な必然性から生まれた小さな風景が集まって世田谷を作っている。だから世田谷はこういう町なんだ。そう考えながら地域風景資産巡りや世田谷散策を行うと面白いです。

5、閲覧するに当たっての注意事項

散策するイメージ(*イラスト:bonbonさん)

(*イラスト:bonbonさん 【イラストAC】

このサイトは、世田谷区の公式的なものでもなければ、「せたがや地域風景資産」の公式サイトでもありません。あくまでも私個人が旅人として、「せたがや地域風景資産」を見て周って感じた事や、持ち合わせている知識、図書館にある資料などを見て書いたものです。

一つの物を見ても百人それぞれ感想が違うように、ここに書いてある感想がその全てを表している訳ではありません。気が付いた範囲で修正をしていますが、月日の流れによる差異もあります。

また、その項目に関わった人などに直接取材などをしているわけではないので、考え違いをしている部分も多々あるかと思います。もし間違っている部分があれば、ご指摘していただけると助かります。

それからとても重要なことですが、この「せたがや地域風景資産」は、地元の人の愛情や努力などによって維持されている部分が選考基準になっています。

だから、その本当の良さは目に見える部分より、見えない部分に多く含まれていることかと思います。実際に活動に関わっている方がご覧になって、「部外者が偉そうに」とか、「何も知らないくせに無責任なサイトだ」と腹立たしく感じるかもしれません。

批判をするイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん 【イラストAC】

一生懸命風景を作ったり、守っている人に対して、ただ訪れただけの人間が意見するのはおこがましいことだと重々承知していますが、あくまでもこのサイトの趣旨は「旅」や「散策」であって、町づくりやボランティアの研究サイトではありません。

公にされている事柄なので、旅人の視点で見て感じたこと、要は「せたがや地域風景資産」を散策の題目として書くことも許されるのかなと思って制作しています。ご了承ください。

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2025年5月改訂 - 風の旅人
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