馬事公苑界わい
上用賀2-1東京オリンピックの馬術競技の会場になったことで有名。背の高いケヤキ並木をくぐって入る苑内は広大で、多くの樹木や草花が季節をいろどる。雑木林を散策するとかつての武蔵野の姿が思い浮かぶ。ケヤキ並木の道は広場として整備され、また一つ魅力を加えた。(せたがや百景公式紹介文の引用)
*2020東京オリンピックの会場となり、全面的に改修が行われたので、現在では状況が少し異なります。
1、JRA馬事公苑の歴史
世田谷通りから馬事公苑入り口までケヤキ並木が続いています。
桜目当ての散策で訪れる人も多く、他の季節よりも人が多いです。
馬事公苑というのはご存じでしょうか。その存在は知っていても、「特別な時以外は一般の人が入れない競馬の施設なのでしょ」とか、「入るのに面倒な手続きや入場料があったりするのでしょ」とか、「入っても馬に興味がないと面白くないんじゃないの」と思っている人も多いようです。
実際、区内にある大きな公園は都立だったり、区立だったりするのですが、この馬事公苑は名前の通り馬事に関わる公園という事で、JRA(日本中央競馬会)所有の公園というか、正式には馬術競技場です。
とはいっても、特別な事がない限り開園時間は誰でも気軽に入る事ができ、馬術競技が行われている時には観覧する事もできます。公園ではないものの、比較的公園に近い感覚で利用できる施設になります。
世田谷区民との関わりでいうなら、次の項目に出てくる「せたがやふるさと区民まつり」はこの馬事公苑をメイン会場として開催されるので、その時に馬事公苑の存在や詳細を知ったという方も多いかと思います。
*国土地理院地図を書き込んで使用
馬事公苑は世田谷通りの農大付近、農大と道を挟むような感じで用賀側にあります。この付近は世田谷通りを挟んで行政区分が玉川地区と世田谷地区とに分かれていて、実際に町並みもかなり異なっています。
道が狭くてごちゃごちゃしている事から配達員泣かせと言われる世田谷ですが、馬事公苑側の玉川地域は区画がきれいに整備されていて、比較的道幅も広く、配達の人にとって楽ちん仕様になっています。
これは昭和の初めに玉川村の豊田村長が推し進めた玉川全円耕地整理事業という大事業のたまもので(No.97 玉川神社の項を参照)、ここから田園調布の辺りまできれいに整備された区画がずっと続いています。馬事公苑があるのはその一番北の端という事になります。
*国土地理院地図を書き込んで使用
特に馬事公苑のある用賀地区は、玉川全円耕地整理の象徴と言われるほどきれいに区画が碁盤目状に整備されています。道幅も広く、駅から世田谷通りの間までに用賀一条通りから用賀十条通りまでと10筋の通りが設けられています。その様子はまるで京都・・・というのは大袈裟ですが、とても住みやすくなっています。
その用賀の区画、用賀中町通りの東、そして用賀七条通りから北側の上用賀二丁目の大部分が馬事公苑の敷地となっています。結構な広さです。
実はこの広大な敷地は、玉川全円耕地整理事業と深く関わっています。この事業は玉川村をあげての大事業でありながら、都や国の援助を受けていませんでした。それに田園調布や成城などと違って企業が整地して売る出すといった類のものでもなかったので、資金繰りに困っていました。
あーじゃ、こーじゃともめているとき、帝国競馬協会が広大な敷地を要する馬事施設を建設するための土地を探していて、用賀地区のこの土地(5万坪)を30万円で購入しました。
それが昭和9年の事で、その資金を使い用賀地区の区画整備は順調に進み、他の地域よりも早い昭和13~14年頃に完成しました。
*国土地理院地図を書き込んで使用
この時期になぜ馬事公苑が必要だったのか。それは当時、日本に総合的な馬事施設がなく、関係者の間で人材の育成や馬事競技が行える施設の建設が望まれていたからです。
そして昭和8年12月23日に御誕生になった皇太子殿下(平成天皇)の奉祝記念行事として一大馬事施設の建設計画を立て、翌年に決議されました。当時はまだ軍隊で馬の需要が多くあった時代であり、軍事、特に富国強兵に直結する事はスムーズに決議されていた時代でした。
昭和11年になると少し事情が異なってきて、第十二回オリンピックが東京で開催されることが決まりました。その事によって国は東隣に1万5千坪の敷地をすぐに追加で購入しています。現在JRAの社宅などとして使われている区画です。
昭和11年12月に帝国競馬協会が解散し、日本競馬会が設立され、馬事公苑の建設は日本競馬会に引きつがれる事になります。
しかしながら昭和12年に始まった支那事変(日中戦争)によって建築資材の不足や制約によって施設の建設は滞り、昭和13年には政情不安でやむなくオリンピックの開催地を返上するなど、ゴタゴタが続くことになります。
明治36年に発足した伝統ある騎馬隊です。流れ的に白黒で・・・。
支那事変で逆風にさらされた馬事公苑計画でしたが、逆に戦時中に馬事公苑(馬事訓練施設)の重要性が認識される事となりました。それは戦時中に大量の馬を投入するものの、馬を正しく管理できる人材が不足していて、うまく機能しなかったからです。
滞っていた馬事公苑の建設は昭和14年3月にようやく着手され、昭和15年9月に開苑となります。支那事変が一段落すると、その教訓を生かして馬事公苑の設備や教育システムが整備されました。
その後、第二次世界大戦に突入することになります。競馬や馬術どころではなくなり、馬事公苑は「修錬場」と改称され、補給部隊である輓馬機動隊の部隊事務所として使われる事となります。
もはや飛行機や戦車といった内燃機関を使用した近代兵器が第一線で使われる時代。馬を使った騎兵隊が活躍する時代は終わってしまいました。輸送もトラックが主体となり、馬の役割は後方支援や荷物運びが中心でした。
*国土地理院地図を書き込んで使用
敗戦後は、そのまま輓馬事業本部となり復興のための補給部隊の本部として使われました。それと同時に、進駐軍の娯楽としての乗馬場としても使われたようです。
戦後の写真を見ると、現在(改修前)とあまり変わらない立派な施設ができていて、ちょっと驚きました。それとともに、園内を一周するダートコースの中にこの地にあった林がそのまま残されているのにも気が付きます。
周辺に目を向けると、戦後すぐ(1946年)移転してきた東京農大が目に入ります。この場所には陸軍機甲整備学校があり、その建物などを利用しています。
それから、馬事公苑の横を品川用水が流れていることも確認できます。ただ、この時点でもう水の流れはなくなっていて、この後すぐ埋め立てられ、道路に変わります。
JRA(日本中央競馬会)の管理施設になります。
戦後の混乱が一段落した昭和23年には競馬法の改正により、全ての競馬は国営、公営の形態となりました。馬事公苑も日本競馬会から農林省東京競馬事務所の管轄となります。
その後、朝鮮特需を経て経済的にも安定した昭和29年には再び民営化され、特殊法人日本中央競馬会が発足。そして大戦中に改称された馬事公苑の名前も復活します。
馬事公苑の「苑」の字ですが、「園」は植物のある庭という意味で、「苑」は動物のいる庭という意味がある事から「苑」の字が開苑当時から使われています。
もっとも新宿御苑、皇居の東御苑などにも使われているので、ありきたりの公園ではないとか、格式の高さといった意味合いも込められているようです。
*国土地理院地図を使用
昭和34年には再び東京でオリンピックが行われる事が決まります。それにより馬事公苑の施設の再点検が行われ、国際規格に適した設備に造り替えられました。
この東京オリンピックは第18回オリンピック東京大会の事で、昭和39年に開催されました。その時に馬事公苑で馬術競技が行われました。駒沢競技場とともに世界が注目するオリンピックの会場が世田谷区に2つもあるのは誇らしい事です。
しかしながら、よくよく当時の記録を見ると、馬事公苑では9月15日から11月5日の間、馬術に関わる競技や練習に使われたようなのですが、実際にここで公式な競技として開催されたのは、意外にも大賞典馬場馬術競技だけだったようです。
馬事公苑以外では軽井沢総合馬術競技場、国立競技場、近代五種は千葉の東京大学検見川総合運動場で行われました。馬術に関わる競技の大半がここで行われていたとばっかり思っていたので、これにはちょっとビックリしました。
もっとも、現在も当時も一緒なのですが、馬術に関わる競技自体が、総合馬術、大賞典馬場馬術、大賞典飛越馬術、近代五種と少なかったりします。
なぜか石垣です。しかも目立たないところにあります。
当時の面影を捜すのは難しいのですが、以前はオリンピック開催を記念したオリンピック記念碑というものが、グラスアリーナの脇、武蔵野の林の中にありました。
ただ・・・、かなり微妙な存在でした。この碑を目的に歩いていないと、たぶん通り過ぎてしまうと思います。それは何の変哲のない石垣で、まるで櫓の跡といった感じの記念碑だからです。
一応詳しく書くなら、昭和38年、新橋に日本中央競馬会本部事務所を建築しているとき、地中から江戸城の外堀の石垣が出てきました。この石を馬事公苑に運び、滋賀県の石工に頼んで石垣にしてもらったものだそうです。でもやっぱりオリンピックの碑が石垣って・・・といった感想です。
現在では一度解体され、誰でも登れるオリンピックテラスに再構築されています。写真を見た感じでは、記念碑としての存在感がなく、これはこれで微妙に思えます。
*国土地理院地図を使用
時は流れ、再びオリンピックが東京で行われることになりました。2016年の招致は落選。次の2020年はなんとか東京に決まりました。
馬事公苑や駒沢公園で再び・・・と思った区民も多かったでしょうが、コンパクトなオリンピックを目指すということで、多くの競技が東京湾のベイゾーンで行われることになり、世田谷での開催は無しということでした。
しかし、開催決定後、馬術場をベイエリアに新たに造ってもしょうがないし、経費の削減にもなるということで、前回の東京オリンピックに引き続いて馬事公苑を馬術会場として使用することに変更されました。
ただ、馬事公苑の建物や設備の基本部分は、昭和39年のオリンピック時のままでした。このままでは使えないし、世界に笑われる・・・。と、オリンピックに向けて2017年から閉園し、全面的な改修工事が行われました。
そして迎えた東京オリンピック。なんとコロナ禍で一年延期のうえ、無観客という残念な感じのオリンピックになってしまいました。世田谷で行われるオリンピックということで、馬事公苑に馬術を見に行こうとしていた方も多かったのではないでしょうか。
園内は広々とした空間が広がり、周囲には集合団地が多いです。
木々が多く、馬もくつろげるようになっています。
2017年から閉園していた馬事公苑は、2023年11月に7年ぶりに開園しました。リニューアル記念イベントには多くの人が訪れ、開園を心待ちにしていた人が多かったことが伺えます。
近年の馬事公苑はというと、周辺の宅地化が進み、周りには高層マンションも建ち並び、設立当時ののどかな農村風景は完全になくなりました。周囲に多くの人が住んでいることから、馬事公苑自体が都会のオアシス的存在となり、市民の憩いの場所的な役割が大きくなっています。
また、都心に近い数少ない馬術場という事で、多くの大会やイベントが開かれるようになり、本来の存在意義であった騎手講習生や競馬に携わる人材の訓練に専念できる環境ではなくなりました。
馬事公苑の二大方針の一つであった騎手育成業務は、今では中山競馬場の競馬学校へ移管され、もう一つの乗馬普及と馬術指導に力が入れられています。
そういったわけで、乗馬や馬へのふれあいから馬事に関わる事柄の啓発のため、また、近隣の市民の憩いのため、普段でも自由に入園できるようになっています。
2、馬事公苑前けやき広場
馬事公苑への参道みたいな感じになっています。
世田谷通りから馬事公苑までの間はとても立派なケヤキ並木になっています。
現在は世田谷区が管理する公園という扱いで、馬事公苑前けやき広場になっていますが、元々は馬事公苑へアプローチする道として整備されました。今でもその名残で世田谷通り側に馬事公苑の馬の像が置いてあります。
秋には木々が紅葉し、大量の落ち葉で凄い事になります。
けやき通りではなく、けやき広場と名付けられているように、現在は並木の真ん中部分は車が通行ができないようになっていて、細長い憩いの空間として利用されています。
並木内にはベンチやトイレも設置されていて、ケヤキに囲まれたとても雰囲気のいい空間となっています。世田谷で一番立派なケヤキ並木となるはずです。
特に秋の紅葉時は美しく、感動的です。紅葉が終わった後の地面に降り積もった落ち葉の量も感動的・・・となるでしょうか。この時期は毎日掃除しないと、落ち葉で大変なことになります・・・。
秋には紅葉と、落ち葉が凄いです。
同じくオリンピックに使用された駒沢オリンピック公園にも立派なケヤキ並木が設けられましたが、ここ馬事公苑のほうが密度が濃く、並木を歩いているときに重厚な印象を受けます。
ただ、駒沢公園のように青空と一緒に写真を撮ろうとすると、こちらの方は周辺に建物があるのでうまくいきません。並木の中でケヤキの木に包まれるようにして楽しむのがいいように感じます。
風船の簡易アーチが設置されることが多いです。
この広場を使って園芸市やガーデニングフェアー、地酒や陶器市などといったイベントも行われ、その際には出店が広場に並びます。
展示内容や時間帯によっては多くの人が訪れますが、やはり一番賑わうのは次の項に出てくるせたがや区民祭です。この広場に多くの物産展が並び、ステージも設けられ、動けなくなるぐらいの多くの人でごった返します。
派手な感じの鳥の置物が目印です。
けやき広場の横、並木沿いの道には不思議な鳥の像があります。これは世田谷通りを挟んだところにある東京農大の施設、「食と農」の博物館の置物です。
この博物館は農業と食に関した展示が行われていて、外の鳥の像が象徴しているように博物館の中には鳥のはく製が大量にあったり、もともと醸造博物館として公開されていたので、農大卒業生の蔵元の酒瓶も大量に展示してあったりと、入場料は無料なのになかなか満足感が高い施設です。
詳しくはNo.28 収穫祭と東京農大のページに記しています。馬事公苑を訪れた際にはこちらにも立ち寄ってみてください。
3、馬事公苑内の様子(改修工事前)
*馬事公苑のマップを使用
*馬事公苑のマップを使用
馬事公苑内の様子を紹介していきますが、その前に申告しておくと、私は2020東京オリンピックの為に新しくなった馬事公苑には訪れたことがありません。ここで紹介するのはリニューアル前の古い馬事公苑になります。
新旧の苑内マップを比べてみると(縦と横で見づらいですが・・・)、7年間も閉園していただけあって、随分様子が変わっています。特に苑内の半分を占めていたダートの周回走路が半分程度に縮小されていることは大きく、全体図の印象が随分と違ってみえます。
オリンピックに使われた競技施設に関しても、インドアアリーナが引越してきたり、ナチュラルアリーナが出来たり、グラスアリーナがはらっぱ広場になっていたりと、大きく変更されています。
細かい所を見ていくと、日本庭園やイングリッシュガーデン、馬車道などが消えていたり、梅、桜、ヒマワリといった子供の遊び場が一つにまとめられていたり、放牧場があちこちに造られています。全体的にはより馬術場とか、馬事施設としての特色が強くなったように感じます。
園内は広々とした空間が広がっています。
ここからはリニューアル前のほのぼのとしていた馬事公苑を紹介していきます。
馬事公苑はケヤキ並木にある正門と弦巻の方にある弦巻門の2か所から入れますが、自転車の通り抜けはできないので、自転車の場合は正門から入る事になります。
正門付近には園内の案内図や注意事項が書かれているので、初めて訪れる方は目を通しておいたほうがいいです。馬を扱っている施設なので、少し制約があります。
正門を入ると左にガードマン詰め所があり、ペットを連れているなど問題のある場合は注意されます。そして駐輪場があり、自転車の場合はここに停めます。子供用の椅子がついた自転車がずらっと並んでいることから、子供連れのお母さんが多いことが伺えます。
初代馬事公苑苑長だった山本寛氏の言葉です。
自転車置き場の反対側には三つの苑訓の碑が建てられています。この訓は初代馬事公苑苑長である山本寛氏の言葉です。
「騎道作興(きどうさっこう)」とは、誠実・まごころを以って騎道を作興(盛んにする・ふるいおこす)すること。「百練自得(ひゃくれんじとく)」とは、努力して100回練習(又は人の100倍練習)して自分のものに会得すること。「人馬一如(じんばいちにょ)」は、お互い心をあわせ、折り合いをつけ、人と馬がひとつになること(以上、馬事公苑のサイトより)。
開苑当時は正門の門柱に苑訓が刻まれていましたが、平成2年の改修工事の際に現在の石碑に造り直されました。ちなみに題字筆者は雑誌「優駿」題字筆者である土屋晴雨氏です。って、競馬好きでないと知らないでしょうが・・・。
地面はダートで、馬術大会などに使用されます。
年間を通じて多くの馬術大会が行われます。
足元が悪いと難易度も上がります。
苑内はとても広く、様々な施設があります。関係者以外入れない場所もありますが、全体的に木々が多く、ぶらぶらと散策するのにはとてもいい環境です。
正門から入ってすぐ左手には管理棟があり、その真ん前がメインアリーナとなります。ダート(砂地)の馬術競技場で、平日はあまり使われていない感じですが、週末などには競技場内に障害が設置され、馬術競技が行われています。
とはいえ、余程大きな大会ではない限り観客席に人が溢れることはなく、関係者や馬好きな人が集まっている感じです。
大会などのない日は練習が行われています。
メインアリーナの南側には、小さめのメインスクエアがありました。現在は南エリアから移設されたインドアアリーナ(屋内馬術場)があります。
メインスクエアは、補助競技場という形で練習場となったり、大会時に出場前の馬が待機する場所として使われていました。今ではインドアアリーナがその役割を担っているのでしょうか。それとも新たに設置されたAスクエアとか、Bスクエアで行われているのでしょうか。
平日訪れると、学生などがよくここで練習していました。練習している様子を見ると、ぎこちない感じで低い障害を飛んでいたり、一生懸命馬を手懐けています。馬術ってこういった練習するんだとか、馬の調教の仕方や馬と仲良くなるにはこうするんだな・・・と、勉強になりました。
障害を飛ぶには人馬一体となる必要があります。その為には馬とのコミュニケーションが欠かせません。当然、馬を飛躍させる技術も大切でしょうが、それよりも馬を手懐ける術の方が大切なのかな・・・と、練習の様子を見てて思ったものです。
普通の公園と違って整然としていて、お洒落な雰囲気がします。
こういった小物もこじゃれた雰囲気に一役買っています。
メインアリーナやメインスクエアを囲むようにして舗装された道が設置されています。正門からまっすぐ続くメインストリートは、道幅が広く、イベントではパレードなどに使われます。道沿いは桜並木になっていて、道の脇には花壇が設置されていたり、障害用の備品が置かれていたりと、馬術場らしいこじゃれた雰囲気になっています。
花見をしているみたいです。
正門側ではない方、弦巻門に近い側の通りには、ソメイヨシノよりも遅く咲く里桜が多く植えられていて、開花時期には多くの花見客で賑わいます。以前はふれあい広場や外来馬用の厩舎がありましたが、今では彩のこみちとして整備されているようです。より花見がしやすくなったのではないでしょうか。
立ち入り禁止エリアです。多くの馬が飼育されています。
メインアリーナの南側、正門から見て一番奥には、馬が暮らしている厩舎が並んでいます。このエリアは馬のストレスや伝染病等のリスク、安全上の理由から、関係者以外は立ち入り禁止になっています。
この厩舎の南側、道路を挟んでいますが、インドアアリーナ(覆馬場)とサウススクエアがあります。こちらは訪れた事がないので分かりませんが、雨天時にも利用できる馬場となるのでしょうか。
団地の中にさりげない感じであります。
この施設の東側付近には中央競馬会の寮や社宅が並んでいます。その社宅エリアの中にはJRA弦巻公園があります。ここは団地の間にある普通の公園といった感じですが、少し桜が植えられているので、地域の人の花見の穴場スポットになっています。
苑内の西側は大きく周回するダートコースが設けられています。
正門から入って右側、馬事公苑の右半分を占めているのが大きな円周のダートコース、走路エリアです。このダートコースは長いコースとなっていて、幅も広く作られているので、そのまま競馬もできそうな感じです。きっと馬の走り込みなどに使われているのでしょう。
ダートコース内は入れないようになっている部分が多いのですが、ダートコースの内側にある広大なエリアには入れるようになっていて、ダートコースを横切って入るようになっています。
あまり多くありませんが、芝での馬術競技はここで行われます。
毎年8月第一週末に行われます。
ダートコースの中にある一番大きな施設は、屋根付きのスタンド完備のグラスアリーナでした。ここはメインアリーナと違って地面に芝生が養生されていて、ホースショーの時などに芝生を使った馬術競技や馬術イベントなどで使用されていました。
普段は中に入ることはできませんが、区民祭の時にはここにメインステージが設けられ、歌手のコンサートが行われたり、様々なイベントが行われました。
芝生を使った馬術場の需要が少ないのか、改修後にはグラスアリーナは廃止となり、広大な芝生を活かしたはらっぱ広場になっています。広々とした広場は子供たちに人気となっているようです。
桜の時期も素晴らしいのですが、秋の方がおしゃれな感じがします。
このグラスアリーナの北側には馬車道と馬車の駅がありました。イベント時に運行される馬車の乗り場で、この駅のある馬車通りは里桜のトンネルになっています。
里桜なので開花時期が4月中旬以降と少し遅くなりますが、その時には桜のトンネルとなり、とても素晴らしい光景となります。
うまく開花時期と馬車運行の機会が合うと馬車で桜のトンネルを通ることができるのですが、例年ですと5月の連休のホースショーでの運行が一番近いので、開花が遅い年だと何とかといった感じでしょうか。
また紅葉の時期にも趣のある光景となります。秋にも馬車の運行があるので、様々な季節に合わせて訪れるといいかと思います。
イングリッシュガーデンといった場所で立派な温室もあります。
馬車道の北側にはお花畑と呼ばれるエリアがありました。お花畑といっても単に花壇がただあるのではなく、洋館のお庭、イングリッシュガーデンといった感じのエリアになっていました。残寝ながらリニューアル後にはなくなってしまいました。
お花畑エリアは意外と広く、手入れが行き届いているし、変わった種類の植物が植えられているので見応えがあります。おまけに温室もあり、熱帯植物も観ることができますし、花の少ない冬にも楽しめたりします。
馬事公苑を訪れる人で植物園的なものを期待する人は少なく、まさに秘密の花園といった感じです。
かつての原生林といった感じです。
グラスアリーナの西側にはオリンピック記念碑があり、更に西側には武蔵野自然林があります。馬事公苑ができる前のこの付近は木が生い茂り、人家もなく、未開の原生林・・・というのは大袈裟ですが、ほとんど人気のない場所でした。そういった昔の面影が残っている場所です。
区民祭の時には、ここに子供用のお化け屋敷が設置され、結構人気のあるアトラクションになっています。夜でも明るい都会で育った子供たちは、お化け屋敷にしなくても暗い林の中を歩くだけでも怖いかもしれませんね。
ヒョウタン型の池を中心にした庭園です。
芝生やダートの走路が通路となっています。
グラスアリーナの南側は芝生の走路や障害物コースが入り組み、そして走路がない部分には馬の放牧エリアや様々なテーマに沿った広場が造られています。
その中でも大きいのが日本庭園です。ヒョウタン型の池を中心とした庭園といった感じで、日本庭園というほど日本庭園っぽくもないのですが、枝垂れ桜が池の周りに植えられているので、春の散策にはもってこいです。
またこの庭園の北側には菖蒲池があり、ここには水路への放水口が設置されています。この池は湧き水に拠るもののはずですが、近年は湧き水の量が減っているので、水に関しての詳細は分かりません。
こういった子供の遊べる広場が幾つかあります。
日本庭園の周りにはサクラ広場、ヒマワリ広場、ウメ広場と子供が遊べる遊具が置かれている広場が並んでいます。
入り口からは結構歩かなければなりませんが、お昼を持参してピクニック気分で遊べるので子供連れの家族などに人気となっています。
馬の供養のためのものです。
この一画には愛馬の碑や馬頭観音の石碑が置かれた広場もあります。愛馬の碑は開苑1周年記念に設置されたもので、毎年9月下旬に馬頭祭が行われています。
この他にも馬の放牧エリアがあったり、立ち入り禁止となっている施設などがあります。
4、馬事公苑のイベントと馬のアトラクション
一人乗りと親子乗りがあります。
季節によって風景が変わります。乗車には整理券の配布には並ばないと駄目です。
馬事公苑では年間を通じて多くのイベント、馬術大会が行われています。平日に訪れても小さな大会や馬術の練習が行われていることもありますが、そういった情報は馬事公苑のサイトの年間スケジュールを見れば、いついつに何が行われているのかが分かるようになっています。
馬事公苑で行われているイベントの中でも大きく、一般の人でも楽しめるイベントは5月連休に開催の「ホースショウ」、会場提供となりますが8月第一週末の「ふるさと世田谷区民まつり」、9月23日の「愛馬の日」です。以前は春に「桜祭り」も行われていました。
この他、年間8回程度「馬とのふれあい」といった小規模なイベントの日があり、体験乗馬、馬車試乗会やポニーの演技などが行われています。この日は地元の人が訪れるぐらいなので、人気の体験乗馬や馬車試乗会は比較的すいています。それでも整理券の配布には並ばないと駄目ですが・・・。
碁盤乗りなど様々な芸をします。
馬事公苑で行われるイベントでは様々な馬のアトラクションが行われ、観客を楽しませてくれます。どのイベントで何が行われるかは事前にサイトで告知されます。
馬事公苑で行われる代表的なアトラクションとしては
・アンダルシアンホースダンス
スペインのアンダルシアン種による「スペイン常歩」「横歩」「パッサージュ」、騎乗者の人馬一体となった「お辞儀」「お座り」「クールベット(立ち上がり)」といった数々の演技演技。
・トリックホース(ポニーの演技)
アメリカでトリックホースと呼ばれ、サーカス等でも披露されている演技で、ポニーに調教師が合図を送り、後ろ肢2本で立ち上がって歩いたり、シーソーで遊んだり、数字ボードを使用して足算・引算などを行なったりもします。
まさに人馬一体といった感じでした。
・ファンタジックホースショー(フリーダムホースショウ)
手綱などの一切の道具を使わずに騎乗者が馬を自由に操るという演技で、人馬一体となり馬が自由に、自然に楽しそうに走りまわりながら調教師の指示通りにさまざまな技を披露します。2頭の馬の上にまたがって走る様子は圧巻です。
・ロングレーンホースダンス
ロングレーン(長手綱)を使って馬を操る演技で、馬には乗らずに馬場馬術的な難度の高いパッサージュ(弾力のある速歩)やピアッフェ(その場での速歩)、スペイン常歩、クールベット(立ち上がり)などを披露します。
上品で優雅な感じの乗り方です。
・サイドサドル(横鞍)
馬に跨らずに両足を左側に置き、横向きに乗る騎乗方法です。「女王の鞍」とも呼ばれ、起源は600年くらい前のヨーロッパ大陸の荘園にさかのぼるようです。19世紀後半には、イギリスの乗馬好きな女性たちの間に広まり、狩猟や普通の鞍と同じように障害を飛越したりもしています。
こういった馬を使った演技の中から、イベントでは演者などの都合のついたものが行われます。
ビックリするぐらい速いです。
ポニーが本気で走ったら勝負になりません・・・
馬のアトラクション以外には馬よりも一回り小さく、子供に大人気のポニーを利用したポニー競馬や子供との駈けっこなどといったイベントやポニーとの触れ合いなども行われます。
この他、馬の蹄鉄を製作する様子が公開されていたり、JRAの人気キャラクター「ターフィー」の着ぐるみなどと一緒に写真を撮ることもできます。
5、桜の時期の情景
メインストリートを馬などパレードします。
馬事公苑には多くの桜が植えられていて、桜の多い世田谷区内でも有名な桜スポットとなっています。そして桜の開花時期の3月の最終週末、もしくは4月の第一週末の二日間に渡って毎年馬事公苑桜まつりが行われていましたが、改修工事が行われてからは行われていません。
また復活するのか。このまま廃止となってしまうのか。分かりませんが、とてもいい祭りだったので、ぜひとも復活してほしいところです。
桜まつりでは大きなイベントで必ず行われるパレードから始まり、馬による演技、ポニーによる競馬が行われたり、体験乗馬や馬車の試乗会などが行われていました。
一般的なソメイヨシノは走路エリアに多く植えられています。
馬事公苑では一般的なソメイヨシノも多く咲いているのですが、早咲きの河津桜、枝垂れ桜なども多く、とりわけ4月中旬~下旬に咲く里桜が多いのが特徴です。
「桜祭り」が行われるのは3月下旬から4月上旬のソメイヨシノの開花時期なので、本当の馬事公苑の桜の満開というわけではありません。近年は早かったり、遅かったりと安定しませんが、5月の連休のホースショーの方が桜がきれいなこともあります。
ソメイヨシノがまとまって咲いているのは走路エリア内で、この時期はサクラ広場などで花見ができます。
圧巻の光景です。
馬車道は桜のトンネルになっていて、桜まつりの時に馬車の試乗も行われますが、残念ながらこの時はまだ咲いていなく、よくて蕾といった感じです。
4月中旬頃に訪れると馬車道の桜が満開となり、素晴らしい桜のトンネルとなります。開花が遅い年のホースショーの時だったら頭上に桜のある状態で馬車に乗れるかもしれません。
馬車の試乗は先着順となっているので早めに来て整理券の配布を受ける必要があります。
花見客が多い広場です。
馬事公苑では4月中旬頃からが本当の桜の見頃となります。4月初めの慌ただしい時期に花見を逃した人でも少し遅い花見を楽しむことができます。
少し落ち着いたこの時期の方が人が集まりやすかったり、また飽きっぽい日本人の性格的に4月上旬の花見時期が過ぎるとガクッと花見をする人が少なくなるので、この時期の花見は空いていて、意外と良かったりします。
また同じ時期に比較的近い桜新町駅前でも遅咲きの八重桜が見ごろとなります。週末には桜まつりが行われるので、同時に訪れるというのもいいかもしれません。
6、JRAホースショー
様々なカテゴリーの馬術、障害競技が行われます。
毎年ゴールデンウィークに行われるJRAホースショーは、昭和47年に馬事公苑馬術大会、馬場馬術及び障害飛越の馬術大会として開催されたのが始まりです。
第5回大会からは馬術大会として馬術関係者ばかりが集まるのではなく、海外でも華やかに行われていたホースショー的なアトラクションを入れて関係者以外の多くの人にも楽しめるように変更が行われました。
国内最高カテゴリーなので観客も審判も多いです。
ホースショーは三日間にわたって行われ、競技においては参加条件が前年の国内馬術競技会上位入賞人馬に限定されているので、名実ともに国内トップレベルの競技会となっています。
馬術については詳しくありませんが、当然ながらオリンピックに常連で出場している第一人者から、これから日の丸を背負うだろうという実力者までこの世界では有名な人が多く出ています。
馬術では女子高生からおじいさんまで同じカテゴリーで競技を行っているのが新鮮な感動でした。
警視庁第三方面交通機動隊騎馬隊です。
競技の合間には各種アトラクション(アンダルシアン演技、ポニー演技、横鞍演技、軽乗演技、警視庁騎馬隊による集団演技、ポニー競馬など)が行われますが、こちらもかなり気合が入ったプログラムとなっています。
この他、体験乗馬・馬車試乗会はもちろん、いつも以上に多くの出店がメインストリートに並び、ふだん馬事公苑で行われるイベントのほとんどのことが期間中に行われるといった感じです。
知っている人には懐かしく感じることでしょう。
5月といえば競馬会では大イベントの日本ダービーが行われます。間近に迫った日本ダービーの告知を兼ねた有名競走馬の展示、ダービーの勝馬の予想ゲームなどが行われるのはホースショーならではです。
5月の連休というのもあり、家族連れ、友人連れ、いわゆる競馬好きにも人気のイベントとなっていて、毎年ビックリするぐらい多くの人が訪れています。
7、愛馬の日
流鏑馬は人気のある演目です。
毎年秋分の日に秋の最大イベントである「愛馬の日」というイベントが行われています。イベント名は苑内にある「愛馬の碑」にかけているのでしょうか。
イベント名だけ見たら何のイベントで、何をやっているのかわかりにくいのですが、全国各地の伝統馬事芸能を紹介するという形で昭和43年から始まりました。
岩手県を代表するような祭りです。
馬を飾り立てて練り歩く祭りは今でも比較的多く残っています。
今まで紹介した日本の伝統馬事芸能は、北は北海道、南は沖縄に至るまで二十団体以上になるそうです。古くからの馬と人との結びつきはあり、日本各地に馬に関する祭りや伝統行事が伝わっています。
疾走する馬から矢を放つ流鏑馬や、そりを引いて競争するばんえい競馬などなかなか東京で見る機会はなく、東京でそういった馬に関する迫力のある行事が手軽に見れるとあって人気のイベントとなっています。
全国ポニー競馬選手権の関東予選です。
地方の伝統芸能の他にもいつも馬事公苑で行われているアトラクションや乗馬や馬車の運行も行われます。
またダートコースを使用して全国子供ポニー選手権の関東予選も行われるのは愛馬の日だけのイベントです。様々な馬に関することが行われるので、一日中楽しむ事ができます。
なお平成11年、21年には平成天皇が観覧にいらしています。馬事公苑自体が平成天皇の誕生を祝った奉祝記念行事の一環として計画されたというのもあるのかもしれません。
その時は入り口に空港の手荷物検査で使われる金属探知機のゲートが並び、簡易的な荷物検査もあり、知らずに訪れたものだからちょっとビックリしました。
8、感想など
こういった光景は日常です。
世田谷には駒沢公園、砧公園、芦花公園、祖師谷公園と大きく、個性的な都立公園が4つありますが、そういった公園に負けていないぐらい魅力的なのが馬事公苑です。
桜の開花時期の苑内の素晴らしさは言うまでもありませんが、一年を通して多くのイベントや馬術大会が行われ、体験乗馬や馬車に乗れたりと馬に触れ合う機会があるのも魅力です。
緑が多く、馬が過ごしやすい環境はまさに都会の中にあるオアシス。駅から遠いのが難点ですが、私にとってお気に入りの散策スポットの一つとなっています。
せたがや百景 No.85馬事公苑界わい 2025年8月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
| ・住所 | 上用賀2-1 |
|---|---|
| ・アクセス | 最寄り駅は田園都市線用賀駅、小田急線千歳船橋駅、経堂駅、世田谷線上町駅など。駅から少々離れています。 |
| ・関連リンク | 馬事公苑(JRAサイト内) |
| ・備考 | JRA(日本中央競馬協会)の管理する公園。5月3~5日のホースショウ、9月23日の愛馬の日はJRAが主催する大きなイベントです。春には桜祭り、8月には区が主催する区民祭なども開かれます。 |