上野毛自然公園
上野毛2-17崖線の斜面を利用した公園で、木々の間を縫うように階段が上へ伸びている。斜面をおおう深い緑は野趣に富んでおり、大地から多摩川沿いの低地にかけてできた崖の植物相を観察できる。階段を登りきると桜の林が広がっている。(せたがや百景公式紹介文の引用)
1、上野毛自然公園について

坂の途中にある稲荷神社の神輿です。
区内の国分寺崖線には、多くの坂道があります。その中でも、上野毛駅前から多摩川の方へ下っていく上野毛通りの稲荷坂は、二車線の道路としてはなかなかの急坂です。
この稲荷坂のある上野毛通りは、中町、深沢と抜けていく道で、古くから大山街道の裏街道として使われていた道になります。
主街道である大山道の行善寺坂には、下り坂で荷車が停まりきらなかったり、バランスを崩して転倒する話が多く残っているのですが、この坂にもそういった話が幾つか残っています。

自然公園というだけあって木々が豪快に生い茂っています。
この坂沿いの北側に、坂の名にもなっている上野毛稲荷神社。南側に上野毛自然公園があります。
上野毛駅の北側や西側は、代々、上野毛の名主を務めた田中家の土地でした。田中家は吉良家家臣の末裔で、「一本氏名主」という一段高い格式を与えられていた家柄だったそうです。
崖線付近の土地も田中家の土地で、上野毛稲荷神社は、六所神社が野毛(下野毛)に移された後、田中家の稲荷社を上野毛の氏神様として祀ったものになります。

庭園だった名残でしょうか。石が多く使われています。
上野毛自然公園も田中家の土地でした。しかも、ただの敷地ではなく、桜や楓が多く植えられた桜楓園と呼ばれる庭園だったそうです。
何でも先祖の一人が道楽の全てをかけ、粋を凝らした庭園にしたとかで、付近の住民からは旦那の森とも呼ばれていたそうです。
特に桜の花見の頃は美しく、都心より大勢の人が見物にやってきて、中には楽隊を引き連れてきて賑やかに踊ったりと、普段何もないような上野毛の地が賑わったそうです。

*国土地理院地図を使用

*国土地理院地図を使用
古い写真を見てみると、上野毛自然公園のある場所が桜楓園というより、現在の五島美術館のある場所も含めて桜楓園ではなかったのではないでしょうか。
田中家の本宅があるのが、ちょうど五島美術館の前になるので、美術館付近の土地も元々は田中家のものだったはずです。それに現在の上野毛自然公園からは、粋を凝らした庭園だったという痕跡や雰囲気を全く感じません。
もしこれだけ広大な庭園だと、大勢の見物人がやって来るというのも納得です。
戦後になると、上野毛自然公園のある場所に大きな広場ができているのを確認できます。昔の記述では、芝生が敷かれた広場で、大きな木もなく、富士山の眺望が素晴らしかったとあります。

*国土地理院地図を使用
1960年代になると、稲荷坂より北側はかの五島家に売却し、五島美術館や五島家の邸宅が建ち並びます。五島美術館の庭園は、田中家の桜楓園を再利用したものではないでしょうか。
その他、この界隈では多くの土地が分譲されていることもわかります。田中家では相続があったのでしょうか・・・。この時期の相続は今より厳しく、相続になると多くの土地を失うことになったそうです。
また、この時期に稲荷坂が真っすぐに整備され、玉堤道路に接続しています。

*国土地理院地図を使用
1970年代になると、芝生広場に木々が植えられているのが確認できます。これが現在ある桜になるはずです。
上野毛自然公園の開園がいつなのか、調べてもわからなかったのですが、田中家の人が植えたのか、この時期に区が買い取るなどして公園として整備し、桜を植えたのでしょう。

石畳の通路は庭園だった名残でしょうか。
上野毛駅方面から上野毛自然公園へ訪れるなら、上野毛通りを多摩川方面に進み、五島美術館の通りを美術館と反対側の左に曲がります。
すぐに覚願寺の幼稚園があり、その横に自然公園の入り口があります。ここから入ると、いきなり敷石が敷かれていて、自然公園なのに・・・と少し違和感を感じることでしょう。
恐らくこれは庭園だった頃の名残りで、その石材を使用したものではないかと思います。

散ったソメイヨシノと咲きかけの里桜が見事でした。
敷石が敷かれた通路を進むと、かつて芝生だった広場があり、今ではここには多くの桜が植えられています。おそらく1970年代に植えられたものかと思います。
かつては、この芝生が敷かれた広場からは富士山の眺望が素晴らしかったそうですが、今では木々が生い茂っているので、富士山の眺望は望めません。
この広場にはベンチが置かれていて、四季を問わず上野毛駅前のあたりで働いている人が昼食休みなどに静かな環境を求めて訪れています。

結構密集した感じに植えられています。
ここに植えられている桜は、ソメイヨシノと里桜です。里桜はけっこう密集した感じで植えられていて、まるで梅林のような雰囲気です。なぜこういう植え方をしたのか・・・。聞いてみたいです。
それはさておき、この二種類は開花時期が違うので、二度桜が楽しめます。その年の気候にもよりますが、ソメイヨシノが散った後で訪れると、あたり一面ピンクの絨毯状態で、頭上には里桜が満開といったきれいな状態となっていることもあります。
あまり他の地域の人は知らないので、地元の人にとっては花見のいい穴場となっています。
また、近年では上野毛商店街のイベント会場となっていて、上野毛サマーフェスティバルなども行われているようです。

再び登ってくることを考えると降りるのに結構勇気がいります。
この桜のある広場より先は、ひたすら崖線の斜面で、階段ばかりです。まっすぐ伸びた階段やら曲がりくねった階段やら、とにかく階段のオンパレードです。
崖上から眺めると、これ降りるの・・・と思う人が多いはずです。そして再び上に戻ってこなければならないことを考えて、やめておこう・・・となった人も多いはずです。
一応自然公園となっているので、崖伝いに植物相を観察できるようにといった配慮なのでしょうが、階段を付けて観察するほどの価値があるのでしょうか。山道を散策するような趣もなく、これはちょっと・・・といった感じです。里桜と同じく、なぜこうなったのか聞いてみたいです・・・。

ここでの風景は階段と草木ばかりです。
同じく崖線上にある成城三丁目緑地や岡本静嘉堂緑地付近の崖などでは、崖に小道が設けられていて、緑の中を散策(トレッキング)するような感じなので、きついけど崖の散策が楽しいです。ここもそういった感じの公園なら違った感想になったのでしょうが、自然の中で階段だらけだと、気分的にげんなりとしてしまいます・・・。

丸子川沿いには少し平坦になっていて、菖蒲の花壇があります。
国分寺崖線に沿うように丸子川が流れていて、この自然公園の端は丸子川で終わります。丸子川は上流の岡本公園民家園の辺りでは、親水公園となっていてせせらぎのような流れになっているのですが、この辺りではむき出しのコンクリートに囲まれた水路になっていて、趣きはありません。
せっかくの自然公園なのだから、ここも岡本公園のような水辺の風景を・・・などと期待したいところです。

小さなビオトープも作られています。
丸子川沿いには、少し平坦な広場があり、ここには水生植物が植えられています。
菖蒲が植えられているという事なので、咲いている時期に訪れてみましたが、そんなに数は多くありませんでした。
小さなビオトープも設置されていて、ビオトープに咲いている菖蒲の方が地植えのものよりも色鮮やかに咲いていたのが、印象的でした。
2、感想など

見方によっては面白い光景かも。
かつてこの坂の下にあった東急自動車学校に通っていたので、何度となくこの坂道を通っていたのですが、神社や自然公園があるとは今までちっとも気がつきませんでした。車やバイク、自転車で急坂を通行する場合はあまり余裕がないものですね。
こんなところに自然公園があったんだ。と、楽しみに訪れたのですが、庭園や里山のような美しさがあるわけでもなく、桜の時期以外はただの雑木林といった感じでした。
でも、せっかく来たので何かここのいい部分を探さなければ・・・と、周囲を見渡すと、ちょっと面白い光景を発見。崖や雑木林のなかに幾何学的な階段がある光景は、なんか趣きがあって面白いかも。って、自然公園に階段を楽しみに訪れる人はいないですよね・・・。
せたがや百景 No.92上野毛自然公園 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 上野毛2-17 |
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・アクセス | 最寄り駅は大井町線上野毛駅、あるいは田園都市線二子玉川駅。 |
・関連リンク | 上野毛自然公園(世田谷区) |
・備考 | ーーー |