園芸高校の並木とみどり空間
深沢5丁目38-1園芸に関する教育施設であり、敷地内には、多様な樹木が育てられている。明治41年に創立された歴史を持ち、40周年や60周年に合わせて庭園も整備されている。園芸に関する教育の拠点であるだけでなく、まとまった緑のある、地域の貴重な空間である。 (紹介文の引用)
1、都立園芸高校について

園芸高校らしく校門にも花があります。
都立園芸高校というのはご存知でしょうか。大学と高校という差はありますが、区内にある東京農業大学については、ほとんどの人が知っているのに対し、園芸高校についてはあまり知っている人はいないように思います。
園芸高校・・・園芸をやっている高校でしょ。そこまで珍しい存在なの?確かにそうですが、実は、ここの園芸高校は明治41年に日本で初の園芸専門の教育機関として設立され、初めて「園芸」という名を冠した学校という名誉と歴史ある学校だったりします。
といっても、それだけでは園芸や農業の世界では有名でも、一般的には・・・といった感じでしょうか。でも、この高校は一度は訪れてみたいと思うほど、凄い植物や事柄がある学校だったりします。

手製のポスターが張られていました。2011年のものです。
園芸高校は、その特殊な専門性から、許可をもらえば構内を普段でも見学することができるとか聞きましたが、警備員や関係者の手間を増やすし、授業の邪魔になったりするのでは・・・と、特別な目的のない一般の人には、少しハードルが高いかと思います。
ということで、園芸高校を見学しやすいのは、5月の学校公開とバラ園公開、11月の園芸展でしょうか。この時は様々な催し物が行われ、多くの人が訪れるので、気軽に校内を見学することができます。(その時々によって入れない場所があります。)

園芸高校らしく緑に囲まれています。
園芸高校はその名の通り園芸に関わる学校で、1908年(明治41年)に東京府立園芸学校として開校しました。
当時は、全国的に農業学校が設立されていましたが、先に書いたように園芸に特化した高校の開校は全国でここが初めてで、園芸分野に限定した教育が行なわれました。

広々とした校内です。全てにおいて手入れが行き届いているので整然とした感じを受けます。

結構広い畑があります。もちろん敷地の外は住宅地です。
現在の学科は、園芸科、食品科、動物科の三課程に分かれていて、それぞれ2年生から専門課程に分かれます。
園芸科には、園芸コースの「野菜専攻」と「果樹専攻」、園芸デザインコースは「ガーデニング専攻」と「フラワー専攻」があります。
食品科には加工コース、調理コース、栄養コースがあります。

動物科では小動物だけではなく、ペットの犬の飼育も行っています。
動物科は、2006年の学科改編で新しく新設されました。動物愛護コースと動物環境コースに分かれています。この科は、農業系の畜産ではなく、ペット関係分野を目指す学生に人気となっているようです。
あまり詳しくは知りませんが、高校では珍しい学科になるのではないでしょうか。

作業着の着こなしが板についているのは上級生だからでしょうか。
昭和の初め頃は、全国から生徒が集まってくるような専門的な園芸・農業学校だったようですが、現在は受験制度の変更もあり、区内、近隣からの生徒ばかりです。
2010年の生徒数は418人で、園芸学校らしく女生徒が三分の二を占めています。また、僅差ですが、大田区から通う生徒が一番多く、続いて世田谷、そして品川区から通う生徒が多くなっていました。
すぐ近所の目黒区から通う生徒が少ないのは、ちょっと意外に感じました。この年代がたまたまなのか、それとも地域性というやつでしょうか。

*国土地理院地図を書き込んで使用
園芸高校が立地しているのは、深沢5丁目です。深沢といえば、閑静な高級住宅地です。なかなかいい場所にあります。
でも、日々通う生徒やちにとっては、地価がどうのこうのというよりも、駅から近いほうが嬉しいはずです。大井町線の等々力駅や上野毛駅が最寄り駅になりますが、かなりの距離があります。この他、田園都市線の桜新町も最寄り駅の一つになりますが、もっと歩かなければなりません。
広い畑や家畜の飼育小屋が必要な園芸高校なので、繁華街から離れているのはしょうがないといえばそうなのですが、電車と徒歩で訪れる場合は、覚悟しておいたほうがいいです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
現在では高級住宅地化した深沢ですが、学校が開校した明治41年ごろは林や畑ばかりの土地でした。
だからこそ花や植物を植えたり、家畜を飼育るための広い敷地を必要とする園芸高校がここに作られたわけですが、これは地元にも大いにメリットがあったようです。
学校ができた事によって電気が早く引かれたり、大正二年には駒澤大学も移転してきて、下宿や生徒相手に商売をすることができました。
その後、日本体育大学を始め、多くの学校がこの付近にでき、この付近が学園地域となったのも園芸高校があったからかもしれません。
今では周辺の土地は区画整理が行われ、畑や雑木林は閑静な住宅地に変わり、園芸高校は昔のまま変わらない存在でも、気がつけば周りの環境が変わってしまったといった感じです。

学校の敷地は、北側を比較的大きな通りの駒沢通りに面していますが、正門は玉川郵便局側の狭い道にあります。これも昔の環境の名残となります。
この道は等々力と駒沢方面を結んでいた江戸道の名残で、開校当時は今のような駒沢通りはなく、この道がこの付近の幹線道路でした。
更に時代を遡った話をすると、この園芸高校のあった土地には兎々呂城があったとされています。城主は小田原北条家の家臣 南条右京亮重長で、戦の功労でこの地を賜ったそうです。
特に城の痕跡が残っているわけではなく、城の規模など詳細なことは不明ですが、おそらく掻上の土塁で囲まれた簡素な城だったのではと言われています。(*一説によれば、深沢城の出城的な存在だったのではとも言われています。)

かつてこの地に兎々呂城があった名残として、校門の横と敷地内に兎々呂城跡の石碑が建てられています。
ちなみに、兎々呂城は「トドロジョウ」と読みますが、「城」を「キ」と読めば「トドロキ」となるわけで、等々力の地名の由来には幾つかの説がありますが、この城の名が由来となっているのでは?というのも一つの説となっています。
2、イチョウ並木とその他の樹木

校門の外から撮った写真です。晩秋には見事な紅葉となります。
園芸高校の正門から本館までの約100メートルの間は、立派なイチョウがずらっと並んだイチョウ並木となっています。
この銀杏の木は、1912年(大正元年)頃に植えられたもので、樹齢は100年以上となります。もちろん駒沢公園や成城のイチョウ並木よりも古く、世田谷で一番古いイチョウ並木となるはずです。

きれいに枝ぶりがそろっていて美しいです。
このイチョウ並木は、他のイチョウ並木と違って車道になっていないので、木々が生き生きとした感じを受けます。なによりここは園芸高校。枝の剪定から肥料等の管理まで行き届いているでしょうから、木にとっては抜群の環境となるはずです。
イチョウの木といえば、紅葉となるのでしょうが、春から夏にかけてはとてもすがすがしい緑の空間を造りだし、新緑の季節(バラ園の公開日)に見ても、美しさを感じるイチョウ並木です。

ほぼ同時に色づく感じです。
これだけ立派なイチョウの並木だと、落ち葉の量も半端なさそうです。さぞ落ち葉が舞い落ちる光景や地面に降り積もった様子は美しいに違いありません。
でも後始末が・・・・、清掃は生徒さんの役割でしょうか。やっぱりここでは落ち葉も肥料とかに再利用するのでしょうか。これだけ立派なイチョウ並木を見ると、色々と想像がつきません。
この銀杏並木は校門の外からも見ることができます。休みの日など状況によりけりでしょうが、イチョウの写真を撮らせてくださいと頼むと、中に入らせてもらえる場合もあります。

校内では様々な景色が見られます。
園芸高校の敷地には、数多くの木が植えられています。まとまって植えられているのはイチョウぐらいで、後は様々な品種が数本づつといった感じで、本当に色々な木を見ることができます。
普段から多様な品種の木が身の回りにあれば、自然と木の種類や季節の特性などを覚えられそうです。将来植木屋さんとか、花屋さんといった分野を目指している人は、高校に通っているだけで、感覚的に植物の知識が身についているのではないでしょうか。
そういった木の中に特別な木があります。実際に見ていないのでどこにあるのかわかりませんが、一番最初にアメリカから送られたというハナミズキの原木があります。
1912年に東京市長だった尾崎行雄氏が、友好親善のためワシントンに3千本の桜を送り、その返礼として、1916年に東京市に白花のハナミズキ40本が贈られたといういきさつがあります。
このときにアメリカから贈られたハナミズキが、今では日本中にあふれているハナミズキの最初の原木となります。

品種ごとに細かく管理されています。
なぜ園芸高校にハナミズキの原木が植えられているのか。それは園芸高校の初代校長熊谷八十三氏の功績によるものといわれています。
熊谷八十三氏はワシントンに送る桜の木を育成した方で、1962年にはワシントン市への桜育樹の功により米国政府より表彰されています。そういった縁で園芸高校に原木があるそうです。
区内では花みず木フェスティバルを行っている二子玉川に、後年に送られた第二の原木や第三の原木があったり、都立祖師谷公園にはワシントンで芽吹いた苗から育った里帰りの桜が植えられていたりと、色々とこの件については縁があったりします。

兎々呂城跡の石碑の後ろにひっそりとした感じであります。
園芸高校で生み出された梨も自慢のうちに入るでしょうか。1916年に在職中の菊池秋雄博士が、日本梨の在来種を人工交配させ、数種の優良新品種を生み出しました。その中の菊水・八雲は、当時の梨栽培業者から歓迎されて、全国的に栽培されるようになりました。
この品種は、後に豊水・幸水・新水の元となり、現在ではこの三種類合わせて「三水」とも呼ばれています。そういった経緯で梨の石碑が敷地内に設置されています。
校内には果樹園がありますが、やっぱり園芸高校の伝統ってことで、色んな梨の種類を育てているのでしょうか。
3、三代将軍の松とバラ園

立派な松が二つ並んでいる様子はとても威圧感があります。
イチョウ木も、ハナミズキも、梨も凄いけど、園芸高校にはもっと凄いものがあります。
園芸高校の自慢の筆頭・・・なのかどうか、園芸高校の生徒に聞いたことがないのでわかりませんが、世間的に有名なのが、徳川家光(三代目将軍)が遺愛したと言われる松(ゴヨウマツ)の盆栽2鉢で、三代将軍の松として知られています。
この松は樹齢500年近く、もはや盆栽といったレベルの大きさではなく、盆栽に興味がなくとも、なんか凄いぞ!ってな感じで、その立派さに感嘆してしまう事でしょう。
よく分かりませんが、天然記念物とか、国宝級?なのかもしれません。かなり価値のあるものなので、これを目当てに来る一般見学者も少なくはないそうです。

ビックリするぐらい立派な松です。
この松は園芸科の生徒が管理していて、生徒からは「三代さん」と呼ばれて親しまれているそうです。
なぜこんな立派な松が園芸高校にあるのかというと、学校創立に際し、東京府が購入し、園芸高校に移管したようです。
以前、皇居の東御苑を訪れた際に同じものがありました。係りの人が解説しているのを横で聞いていると、なんでも皇居と園芸高校しかない松だとか言っていました。
ただ、聞いていた多くの人が、その鉢を高校生が管理していると言うことを聞き、驚いた表情をしていたのが印象に残っています。

そこまで広くはなく、すぐ隣は畑だったりします。

緩やかな斜面に多くの品種が植えられています。
園芸高校といえば、バラ園を思い浮かべる人もいるかと思います。園芸高校のバラ園は、創立80周年記念行事の一環として、平成2年に開設されました。
開園に当たっては、園芸高校出身で、世界的に有名なバラの育種家鈴木省三(せいぞう)氏が、長年に渡って収集した約200種類のバラを寄贈し、それが栽培されています。
中には貴重な原生種もあるので、管理、育成している生徒たちは、とてもいい勉強になっているはずです。

この薔薇を愛す・・・と書かれていました。
バラを寄贈した鈴木省三氏は、1938年~1974年まで、現在の奥沢付近に「とどろきばらえん」を開園していて、この地に所縁のある方です。
彼は「ミスターローズ」の異名を持つほどのバラ作出家で、バラ園の隅に彼の石碑があるのですが、「この薔薇を愛す」とだけ書かれているのが、印象的でした。

生徒が説明しながら案内してくれます。
バラのシーズンにあたる毎年5月には、オープンキャンパスが行われ、その際にバラ園の一般公開が行われます。
あまり一般的に情報が出回る公開ではありませんが、結構多くの人が訪れ、生徒が丁寧に解説して回ってくれます。
バラ園自体はそんなに大きくはありませんが、主要な品種が系統的に植栽されているので、バラの品種改良の歴史を辿りながら鑑賞できるようになっています。
バラの一部は秋にも咲くので、11月の園芸展の際にも見学することができます。
4、園芸高校の園芸展

各クラスの出し物や販売物などの立て看板が並んでいました。

学校を上げての大きなイベントです。
園芸高校の一大イベントは、11月に行われる園芸展です。園芸展と聞くと、あの老人会などが公民館で行っている園芸展・・・。盆栽とか菊とかさつきとか飾っているやつ・・・。そういった印象が強いのですが(個人的な感想)、園芸高校の園芸展は園芸展と名がついていますが、いわゆる学園祭というか、文化祭みたいなものです。
園芸展では、一般受けしないのではと思ってしまいますが、農大が学園祭といわず収穫祭の名にこだわっているのと同じように、きっと強いこだわりがあるのでしょう。

ネズミだけではなく、ハムスターなどもいました。

白熱したレースでした。
園芸展では、園芸科の生徒が実習で生産した野菜、果樹、鉢花などといったものや、食品科の生徒が生産したジャム、シラップ漬け、味噌といったような加工品が販売されます。
動物科では、小動物のふれあい広場やペットの散歩体験、そして面白かったのがネズミのレースです。
透明なペットボトルをつなぎ合わせたチューブを作り、その中をネズミが走って競争するといったもので、多くの子供たちが面白そうに眺めていました。

安く売られているので人気です。
園芸高校には、世間的に有名な盆栽やら貴重な植物があったりしますが、在籍している生徒にとっての本当の自慢は、自分たちが丹精や愛情を込めて育てたり、作ったものではないでしょうか。
秋に行われる園芸展では、そういった生徒たちが作った食品や植物が販売され、訪れる地元の人に大人気です。というより、これを目当てにしている人が多いので、行列ができるほどです。
規模的には農大の収穫祭には及ばないものの、手軽な値段で花の苗が買えたり、松やバラなどの植物を観賞できたりするのが、園芸展の良さです。それと一生懸命販売したり、実演してくれる生徒さんの初々しさも好感が持てる部分でしょうか。
5、感想など

世田谷で一番素晴らしいイチョウ並木のように感じます。
園芸高校の広い敷地には多くの種類の樹木や植物が植えられていて、都会のオアシスといった存在となっています。
立派なイチョウ並木があったり、貴重な品種が植えられているバラ園があったり、珍しい種類の木や貴重な植物もあり、敷地内を歩いていると、ミニ植物園を散策してる気分になれます。
高校なので、普段はなかなか入ることができませんが、園芸展などの学校の開放日に合わせて訪れてみてください。
せたがや地域風景資産 #1-15園芸高校の並木とみどり空間 2025年5月改訂 - 風の旅人
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