世田谷散策記 ~せたがや百景~

せたがや百景 No.94-1

野毛の善養寺

善養寺の境内には、都の天然記念物に指定されている高さ22.6メートル、幹回り5.25メートル、樹齢六百年を越えるカヤの巨木が株を広げている。雄株で一年おきに実を結び、実のたわわな枝を手にとれる。巨木そのものが風景になっているといってよい。六所神社では夏の大祭に、みこしを多摩川の中にかつぎ入れ、水神祭りを繰りひろげる。(せたがや百景公式紹介文の引用)

・場所 :野毛2-7-11(善養寺)
・備考 :六所神社は次項No.94-2で紹介しています。

***  このページの内容  ***

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* 野毛の善養寺について *

野毛善養寺 丸子川にかかる大日橋の写真
丸子川にかかる大日橋

朱色なのでよく目立っています。

六郷用水の名残である丸子川に沿って細い道が続いています。この道は岡本では民家園の前を通り、二子玉川の辺りでは行善寺坂から下ってきた大山道と交差し、上野毛では自然公園の前を通り、野毛では第三京浜をくぐり、そして善養寺の前にやってきます。

ここには一際目立つ赤い橋が架けられていて、これが善養寺の参道となる大日橋です。この丸子川は仙川付近から始まり、途中に道路用の橋、民家へのアプローチの橋と何十もの橋や橋もどきが架かっていますが、その中でも一番目立つ橋はやはりこの朱色の大日橋です。

ちなみにこの丸子川沿いの道はかつての「いかだ道」とかぶる部分が多い道です。いかだ道はかつて奥多摩で伐採した木をいかだのように組んで多摩川の下流に流していた時に、いかだに乗っていた筏師が歩いて奥多摩へ戻る際に使っていた道の事です。大蔵の永安寺から野川へ向かい、宇奈根、喜多見と続いていました。

かつてこの道沿いには筏師が宿泊した施設、筏宿などがありました。野毛は喜多見と同様にいかだ道の面影が比較的後年まで残っていた地域で、この善養寺の並びにも筏師がよく利用するそばや(いかだ宿)があったそうです。

野毛善養寺 山門付近の様子の写真
山門付近の様子

左は客殿で、この付近は大きな石像が多く置いてあります。

善養寺はあまり知名度のある寺ではありませんが、本当に楽しいお寺です。なんていうか、まるで境内が石像のテーマパークといった感じでしょうか。

せたがや百景に出てくる中では世田谷観音を個性的なお寺として紹介していますが、ここもなかなか個性的で、ちょっと怪しげでもあり、インパクトのあるお寺です。この他に区内では玉川大師や大蔵妙法寺の回転大仏なども個性的な存在となるでしょうか。

野毛善養寺 六所神社側の入り口の写真
六所神社側の入り口

六所神社側は墓地の入り口にもなっています。

この楽しい?お寺の由緒について書いていくと、正式には影光山仏性院善養密寺で、真言宗智山派に属しています。ちょっと怪しい雰囲気は密教からのものです。

真言宗智山派という事なので京都の東山七条にある智積院が総本山になります。これは等々力の満願寺と同じで、古い記録では満願寺の末寺と記載されているものもあります。

本尊は大日如来坐像。開山は祐栄阿闍梨で、慶安五年(1652年)に深沢から遷化(移転)したとか。

ただそれ以前の記録は残っていないので、どういう状況でここに移転してきたのか、どういった由緒があったのかは分かりません。

一応、「新編武蔵風土寄稿」には、深沢村からここに移され、鎮守六所神社の神輿を入れる神輿堂閻魔堂があったことや「表門柱間九尺」と現在の赤い山門の事が記されています。

野毛善養寺 金の守護神の写真
金の守護神

守備隊長といった感じです。

野毛善養寺 銀の守護神の写真
銀の守護神

こちらは副隊長でしょうか。

境内について書くと・・・(正直ネタバレみたいになるのであまり書きたくないのですが)、丸子川に架かる大日橋を渡ると左右の高いところから対になっている煩悩の象徴とされる石羊がこちらを見下ろしています。本物のヤギのような眼をしているので、結構不気味です。

そしてその後ろには守備隊長のような金の剣と銀の剣を持った巨人が入ってくるものに対してにらみを利かせています。

橋を渡ると木の陰から石像が出てくる感じなので、初めてこの寺に、しかも大日橋からやってきた人はここで少なからず動揺をすることでしょう。

野毛善養寺 海駝の写真
海駝

架空の獣が山門を守っています。

正面にある門に向かって進むと、門の前で正義や公正を象徴である祥獣の海駝がこちらを睨み付けています。

この海駝は朝鮮半島に伝わるのもので、本場の中国では牛や羊の姿をしているのですが、獅子の姿をしているのが特徴です。真贋を見極める能力があるとされる事から朝鮮では魔除けとして狛犬のように建物の前に置かれることが多いそうです。

丸っこい感じの像なので、見方によって愛くるしいような、妖怪のようで不気味なような、なんとも不思議な像です。

野毛善養寺 儒教的な石像と枝垂れ桜の写真
儒教的な石像と枝垂れ桜

「御用はなんですか?」といった執事のような役割でしょうか。

海駝の横には大きな人型の石像が配置されています。これが大きくて大陸の儒教的な風体なので更に非日常的な印象が上積みされていきます。

とはいうものの、この石像は儒教的で温厚な顔をしています。ここまでの他の石像が寺の門番といった感じで眼光が鋭かったり、威圧感が凄いのに対して、この像は「ようこそいらっしゃいました。ご用は何でしょう?」といった執事っぽい雰囲気なので、少しホッとし、気分的に落ち着く人もいるかと思います。

野毛善養寺 亀王の像の写真
亀王の像

枝垂れ桜の下で大きなカメの王様が睨みを利かせています。

海駝と儒教的な石像の右側、駐車場の方には大きな亀の石像、亀王があったり、小さな人型の石像が幾つもあります。本当にこれでもかといった感じで驚きの連続です。

この亀の置物の横に並ぶ木は枝垂れ桜で、春になるととてもきれいです。桜の木の下の大亀。絵になっているような、なっていないような・・・、よくわかりませんが、桜の時期に訪れてみてください。

野毛善養寺 赤い山門の写真
赤い山門

野毛で一番古い建造物になるようです。

海駝の守る階段を上っていくと、赤い門があります。これが「新編武蔵風土寄稿」に出てくる古い門です。記録と同じサイズや格好である事から野毛で一番古い建造物とされています。

この門の前には大陸的な石像と狛犬が並べて置いてあります。これらの像は長い月日の雨風によって溶けつつあり、なかなか味があります。恐らく現在置いてある大きな門番的な石像や海駝の元祖ではないでしょうか。そんな朽ち加減と配置に感じます。

野毛善養寺 ガネーシャの写真
ガネーシャ

象の頭を持ったヒンドゥー教の有名で人気の神です。

野毛善養寺 獅子吼の写真
獅子吼

南インド舶来のようです。よりライオン的な獅子像です。

門を入って左側に社務所、奥に大きな本堂があります。この辺りにもまた多くの石像やら仏像やらと多くの置物が置いてあります。

特に社務所のところに置かれているヒンドゥー教の神であるガーネーシャ(象の顔をした神)の大きな像は異彩を放っている感じです。この他にも南インドの獅子吼などが置かれていて、門をくぐると中国からインドに雰囲気が変わるといった感じです。

野毛善養寺 本堂と石仏の写真
本堂と石仏

奈良の唐招提寺金堂をモデルに造られました。

本堂は奈良の唐招提寺金堂をモデルに造られたそうで、大きく立派な瓦ぶきの寄棟造りの屋根には一対の金色の鴟尾(しび)が誇らしげに輝いています。

本堂前や横の方にも石像が多く置いてあり、ここにはインド仏教的な像が多くなっています。

野毛善養寺 鐘楼の写真
鐘楼

中興400年慶讃記念として造られた立派な鐘が吊るされています。

本堂の斜め前には新しめの梵鐘堂と鐘があります。これは平成10年に善養寺中興400年慶讃記念として造られたもので、梵鐘の長径は3尺(約90センチ)、重さが250貫(約1トン)といった立派なものです。

この鐘は京都の太秦で鋳造されたもので、なんでも黄鐘調という稀な響きを出す平成の名鐘だとか。どんな音色なのか是非聞いてみたいと思い、除夜の鐘を聴きに訪れたのですが、私には普通の鐘との違いが分かりませんでした。

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* 善養寺のカヤと枝垂れ桜 *

野毛善養寺 天然記念物のカヤの木の写真
都天然記念物のカヤの木

立派な大木です。

善養寺の境内、赤門の後ろ付近に大きく立派なカヤの木が聳えています。このカヤの木は古くから善養寺のシンボルであり、都の天然記念物に指定されています。

このカヤは樹齢は700~800年といわれ、高さ約23m、幹周りが5mちょっとあるようです。あまり木には詳しくないので当たり前の事なのか、変わっているのかよくわかりませんが、設置されている解説によるとこの木は雌株で、隔年で実を結ぶとの事です。

野毛善養寺 たま坊とカヤの木の写真
たま坊とカヤの木

根元にはかっぱのたま坊がいます。

カヤの木といえば同じく都の天然記念物に指定されている九品仏のカヤの木も有名です。

木の大きさでは九品仏の方に軍配が上がりますが、立地の良さ、崖線上にあるので遠くから見える、目印(ランドマーク)になるといった大木の特長を生かしているのはこちらです。かつては多摩川を行き来する船からよく見えて、目印になっていたそうです。

このカヤの木の前にはなんと多摩川の精、たま坊の像があります。その姿はなんとカッパで、愛らしい姿から参拝する人が水をかけていきます。

そういえばかつてはゴマアザラシのタマちゃんが多摩川に現れ世間を賑わせましたが、今思うと懐かしいですね。

野毛善養寺 枝垂れ桜と大カヤの写真
枝垂れ桜と大カヤ

枝垂れ桜が並び、背後には大きなカヤの木が聳えています。

境内を入って右手に駐車場があります。その斜面のところに枝垂れ桜が並んで植えられています。

駐車場から見ると、天然記念物の大カヤの前に枝垂れ桜が並んでいるといった感じなので、なかなか絵になっています。

野毛善養寺 枝垂れ桜が咲く様子の写真
枝垂れ桜が咲く様子

もう少しお寺の建物や石仏の傍にあれば絵的にいいのですが。

桜がもう少し境内の中、石像などのある場所にあれば桜と特徴のある境内がうまくマッチングするののでしょうが、枝垂れ桜とその他の要素が別々にあるといった感じなのがちょっと残念なところです。

枝垂れ桜以外にもふつうの桜も駐車場の丸子川側に一本あります。

* 善養寺の行事 *

野毛善養寺 除夜の鐘の様子の写真
除夜の鐘の様子

平成10年に中興400年慶讃記念として造られた鐘です。

善養寺では地元の檀家さんを中心に小規模ながら年間幾つかの行事が行われています。

大みそかに除夜祭が行われます。ここの鐘は京都の太秦で鋳造されたもので、黄鐘調という稀な響きを出す平成の名鐘と言われています。

鐘の音は湿度とか、周囲の反響とか様々な要因も絡んでくるのでしょうが、普通の人がこの鐘は明らかに凄いというぐらい聞き分けられるかと言うと難しいかもしれません。

野毛善養寺 紫燈大護摩御祈祷の写真
紫燈大護摩御祈祷

元旦に行われる護摩です。

元旦には元旦紫燈大護摩御祈祷が行われます。祭主の住職が檀家さんなどが祈願した護摩を燃やし、この一年の息災などを祈ります。

ここのは境内での小規模な護摩ですが、これを大掛かりなのが燃やした後を山伏や信者が歩くといった火渡りになります。

野毛善養寺 お施餓鬼大法会みたままつりの写真
お施餓鬼大法会みたままつり

供養の塔婆が本堂前にずらっと並びます。

7月1日にはお施餓鬼大法会みたままつりが行われます。元旦の紫燈大護摩御祈祷とこの日は多くの檀家さんが集まります。

施餓鬼は簡単に言うと自分の先祖、そして全ての霊の供養の儀式で、釈迦の教えに基いたものです。塔婆供養も行われ、墓に立てかける塔婆がたくさん本堂前に並びます。

野毛善養寺 六所神社の神輿の写真
六所神社の神輿

境内が休憩所になります。

お寺の行事ではありませんが、野毛六所神社の祭礼の時には神輿の休憩所になるので、境内は多くの担ぎ手で溢れます。

巨大な石像に見守られながら神輿が担がれる様子はなかなか面白い光景です。

* 感想など *

野毛善養寺 多摩川の精 たま坊の写真
多摩川の精 たま坊

腹巻を着せてもらい、数珠も頂いたようです。

野毛の国分寺崖線にある善養寺。初めての訪問の時はどういう寺か知らずに訪れたので、境内にある大きな石像の数々に驚きの連続でした。私のように何も情報を得ずにいきなり訪れてほしい寺ですが、現在ではスマホなどで情報を得てから訪れる人がほとんどでしょうか。

変わった寺といった印象が強い寺ですが、野毛を中心とした檀家さんにしっかりと守られたお寺でもあります。行事はもちろん、普段でもお参りしていく地元の方の姿を見かけます。

中でも大カヤの木の下にいるたま坊は人気で、多くの人が桶に組んである水をかけています。ある時訪れたら手には数珠を、おなかには腹巻がまかれていました。地元の人に愛されているんだなとホッコリとしてしまいました。

せたがや百景No.94-1 野毛の善養寺
ー 風の旅人 ー
2018年6月改訂

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* 地図、アクセス *

・住所野毛2丁目7−11
・アクセス最寄り駅は東急大井町線等々力駅。
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