* 下北沢の町と若者 *
せたがや百景に中にあって唯一抽象的な項目がこの「若者と下北沢のまち」です。他のものはこれだといった「もの」があったり、過去にあったのですが、これは町全体と若者って・・・あまりにも抽象過ぎるような気がします。
抽象的な項目なので、人それぞれに解釈が違ってくるのは当然で、今の下北沢を見てそう感じる人、または時代の流れを感じながら解釈する人、若者から見た目線に年寄りから見た目線など人それぞれの「若者と下北沢」があると思います。もちろん全くそう感じない人もいることでしょう。
下北沢の町は昔からごちゃごちゃした町でした。ちょっと怪しい店とかも多く、私の昔の印象は何でもありな町といった感じでした。
近年では消防法とか、建築法とか、色々と法律が厳しくなり、老朽化した建物の建て替えも進み、また大きな再開発も行われ、昔に比べると随分町並みが落ち着いたと感じます。
時代の流れとともに町から怪しい部分が減っていき、町から放たれる強烈な個性が薄らぎ、今どきのきれいな感じの町になりつつあるように思います。
時代の流れといえば、小田急線が地下を走るようになり、町から踏切が消えてしまいました。ごちゃごちゃした町並みの中に踏切があると、一層雑踏的な情緒が増し、いい意味で下北沢らしさというか、魅力の一つだったように思います。
もちろんそんなことを言っていられるのは時々散策に来る人間ぐらいっだと思います。電車のラッシュ時には踏切がなかなか開かなくて、人も車も大変そうでした。
下北沢に多いのはファッションの店と飲食店です。場所によってはお洒落な店が並び、まるで原宿や渋谷を歩いているような感じを受けます。もちろん昔から個性的な店が多かったのですが、より若者志向や変わった外観や個性的な店が増えたかなといった印象です。
そしてそういった店では多くの若者が物珍しさや、斬新さにひかれて足を止め、服や雑貨など品定めをしています。今どきの言葉で言うならSNS映えするような店や商品が多いって感じでしょうか。
下北沢になぜ若者が多いのか。一つに乗客の多い京王井の頭線と小田急線が交わる乗換駅というのがあると思います。
沿線に学校が多く、時間のある高校生が乗り換えついで友人などと途中下車などをして町歩きを楽しんでいるのは昔からの光景です。そんなにお金のない高校生には定期で行ける町というのは、親しい友人と休日になんとなくぶらぶらするのにも最適です。
もちろんそういった利便性も大事ですが、やはり流行に敏感な若者に支持されるというのは、町自体が魅力的でなければなりません。
若者の文化といっても10年ひと昔。想像以上に代替わりが激しいものです。流行りを追いかけ、流行に合わせていてもすぐに次の流行が来てしまいます。町自体にも伝統云々よりも柔軟さがないと駄目です。
若者の町=若者に魅力ある町=活気がある町=時代の流れとともにどんどんと進化している町。とまあやはり行き着くところは、新しい文化をどんどんと取り入れ、若者の活気で溢れている雰囲気がする町が下北沢で、下北沢の魅力ということになるでしょうか。
* 演劇の町、下北沢 *
そして下北沢といえば何と言っても演劇。・・・って、実はあまり演劇に関心がなかったので私は知りませんでした。
今でも多くの劇場が下北沢にあるのですが、そのほとんどが本多劇場グループとなっています。
本多劇場の創始者である本多一夫氏は、元映画俳優です。自分が若い時に苦労した経験から若い演劇人に発表の場を与えてやろうとの思いで下北沢駅周辺に貸し劇場を次々に設けたそうです。
きっと下北沢で演劇を行う人たちにとっては演劇の神様的存在となっているのでしょう。
演劇は流行ったり、廃れたりと時代の荒波にもまれて今に至っているようです。
演劇は出演するキャストだけではなく、衣装や大道具などの裏方、指導者や照明など多くの人が携わり、多くの手間と費用がかかります。
見に来る人が少なければあっという間に立ち行かなくなり、劇団、劇場とも特殊な存在なので、一度廃止となってしまうとなかなか新しくというわけにもいきません。
底の状態を経てもなお多くの劇場が下北沢に残っていることを考えると、下北沢の町は演劇の町として演劇に関わる人、見に来る人に定着し、もはや下北沢になくてはならない文化となっているように感じます。
演劇の発する文化的パワーは意外と強いです。表情や表現が豊かで、一つの動作をオーバーアクションに演じるところがそう感じるところなのですが、下北沢が個性的な雰囲気の町となっているのは演劇から影響を受けているといった一面もあるのかもしれません。
毎年2月には町をあげて下北沢演劇祭が開かれます。といっても演劇がいつもよりも多く上演されるといった感じなので、町を歩いてもいつもよりポスターが多いぐらいしか変化はありません。
演劇を上演する劇場は、一番大きな本多劇場で収容人数が380人、後は100人前後の小劇場です。超有名な劇団の大舞台は期待できませんが、その分、手頃な値段で気軽に若手劇団員の演劇を楽しむことが出来ます。
そんなに値段は高くないので、デートで映画を見に行く予定を演劇に変えてみてはどうでしょう。目の前で実際に行われる人間の演技は意外と思い出と印象に残るもので、後々思い出に残るデートになるかと思います。それに映画ではなく、演劇に誘うとカッコいいと思われるかも?
* 下北沢音楽祭とパレード *
近年では7月の第1週に行われる下北沢音楽祭も演劇祭と並んで下北沢の顔となりつつあるようです。
音楽祭の期間中には町の何カ所かにステージが設置され、地元のバンドマンや団体、学生などによる演奏が行われます。
町の中が音楽一色とまではいかないまでも、屋内で行われる演劇祭とは違って町の中が音楽によって活気づいているように思えます。
その音楽祭では下北沢らしいと言うか、とても面白い音楽パレードが行われます。クリーンクリーンパレードと名付けられ、環境美化推進をテーマに掲げながら町をパレードするといったものです。
パレードでの演奏の中心はニューオリンズスタイルのバンド「ブラックボトムブラスバンド(BBBB)」と区立富士中学校ブラスバンドで、それに楽器を持った有志が加わり、また商店街や町会などの協力を得て町を演奏しながら歩きます。
下北沢の環境美化と言えば日頃下北沢の町でゴミ拾い活動を続けているNPO法人のグリーンバード、下北沢チーム抜きでは語れません。今や彼らは下北沢のイベントには欠かせない存在となっています。
このパレードにもグリーンバードのメンバーが加わっていますが、音楽パレードは音楽のできる人に任せて、ゴミのポイ捨て禁止などの横断幕やのぼりを掲げていました。いつもは縁の下の力持ち的な存在ですが、このときはちょっと輝いて見えました。
こういった華やかなイベントは若者にふさわしく感じますが、影で清掃活動をしたり、イベントの準備をしたり、町の協議会などに参加して町づくりを真剣に考えているのも若者なのです。本当に下北沢を歩く度に若者の街下北沢という謳い文句をあちこちで実感します。
* イベントなど *
下北沢はとてもイベントの多い街です。イベントの多い街というのは街が活気のある証であります。
これは私の経験則ですが、イベントの多い街は柔軟な思考を持った人が多いです。そうでないと新しいことをやることでの苦情やらの対応、関係各位の調整がうまくいかないからです。
実際に下北沢のイベントはイベントを運営する比較的若い人やイベントに参加する若者が多く、このことからも若者の町下北沢がふさわしく感じます。
下北沢で行われるイベントは、この項目の演劇祭や音楽祭、そして他の百景の項目に登場する節分の天狗道中や夏の下北名物阿波踊り、北沢八幡神社の秋祭りは町をあげての大きな行事です。
この他にも夏には下北沢あずま通り商店街主催の夏祭りが行われ、シモキタ音頭で盆踊りが行われたり、サンバパレードという新しい試みが行われたり、路上でゆかたクィーンコンテストやストリートライブが行われていたりします。
下北沢には多くの商店街があり、多くの人が訪れるし、商店街ごとに独自にイベントを行いやすい環境があるといえます。下北沢の街自体が演劇場といった感じなのかもしれません。
こういった商店街を中心とした数々のイベントは演劇や音楽といった芸術活動、若者のファッションなどといった文化に負けないぐらい魅力的なものです。
このように多角的な魅力が下北沢が多くの人をひきつける要因になっているのは確かです。
そしてイベントに参加する若者が多いということは、町に関心を持つ若者が多くなるということでもあります。イベントを通して町の事情や生活する人を知り、町をどうしたいといったビジョンを描ける若者が多いのも下北沢の強みなのかもしれません。
* 感想など *
アジアの雑踏が好きな私にとっては、細い路地が入り組んでいるごちゃごちゃした町並みやら、生活感漂っている町の雰囲気、町歩きをしているときに感じる楽しさや高揚感、町の匂いといったものが下北沢の魅力に感じるのですが、感じ方は人それぞれです。
個性的なお店がいっぱいあるから好きだという人もいるかもしれませんし、ごちゃごちゃしてあまり好きではないという人もいることでしょう。ぜひ好きになって欲しい町でありますが、人間関係でも相性といったものがあるように、町との相性というものもあります。
もし面白い街と感じたのなら様々な楽しみ方がある街なので、自分の好きを色々と探求し、町のイベントなどにも積極的に参加してみてください。多様性があって懐の深い街ですよ。
せたがや百景No.12 若者と下北沢のまち
ー 風の旅人 ー
2018年11月改訂