烏山西沢つつじ園(烏山つつじ緑地)
北烏山6-15、164月から5月の初め、満開時の西沢つつじ園は色彩の乱舞する華やかさでおおわれる。ツツジ、サツキの品種も多く、愛好家はもちろん多くの人々が訪れる。入り口付近の年を経たカラタチの大木も珍しい。園内では苗木の販売も行われ、遠くから買い求めに来る客もあると聞く。(せたがや百景公式紹介文の引用)
1、西沢つつじ園と烏山つつじ緑地

*国土地理院地図を書き込んで使用
甲州街道の烏山総合支所入り口交差点の北側に、高層ビルのエルザ世田谷タワーがあります。この界隈には他に背の高い建物がないので、遠くからよく目立ち、烏山を訪れるときにランドマークにしています。
その高層ビルの奥にあるのが、昭和大付属烏山病院。発達障害の分野においては、とても権威のある病院になるようです。この烏山病院の北側に、この項目の西沢つつじ園があります。

看板が昭和のままでえらく古びていました。
西沢つつじ園と名が付いていますが、公園とか、有料の植物園ではなく、この土地の持ち主、西沢さんの個人的なつつじ畑になります。
とはいえ、ツツジ園を名乗っているだけはあり、ちょっと広めの庭にツツジが植えてあるといったものではなく、この界隈がツツジだらけになっていて、西沢さん宅にいたってはツツジの中に埋まっているといった状態です。
知らずに訪れると、いや、なにこれ。凄いんだけど・・・。ってな感じで、驚くこと間違いなしです。ただし、花が咲いている季節のみです。しかも花が一斉に咲く、4月中旬~下旬にかけてだけです。それ以外は緑が多い地味な風景になります。

とても敷地の大きな家です。
なんでこんなにツツジだらけなの。地主さんが道楽で自分の土地にツツジを植えたものなの?と、思ってしまう人もいるようですが、西沢さんは植木屋なので、このツツジ群はいわゆる植木展示場になり、また苗から植木を育てる場所でもあります。
「庭園にツツジを植えたいのですが・・・」と注文が入ると、「どのぐらいの大きさが希望ですか」となり、「じゃ、この大きさのツツジにしましょう。」といった感じになります。
西沢さんの好意で、植木を買う気がなくても、自由にツツジ畑の中に入って散策できるようになっていますが(西沢さんの敷地は一部のみ)、植えられているツツジは商品なので、くれぐれも見学の際には枝を折ったり、ツツジを痛める様な行為はしないように気を付けましょう。

西沢さん宅の隣です。
西沢さん宅の東側には、約1000平方メートルの烏山つつじ緑地があります。ちなみにいうと、西沢さんの敷地は約3000平方メートルあるそうです・・・。
烏山つつじ緑地は、区が管理する公園となっています。といっても、もともとは西沢さんの土地になり、今でも境界に柵などは設置されていません。
相続の際に区に売ったのでしょうか。それとも、区が長期借款しているのでしょうか・・・。その辺の事情は分かりませんが、烏山つつじ緑地内は、歩道がちゃんと整備されているので、車いすの方や足の悪い方でも移動しやすいようになっています。しかも、所々にベンチも設置されているので、花を見ながら休憩もできます。

写真入りなのでツツジの勉強ができます。
緑地内には、ツツジの種類が写真入りで載っている解説板もあります。このツツジきれいだな、なんて花だろう?と思ったら案内板で品種を調べることができ、花の勉強にもなります。
解説版によると、クルメ、キリシマ、リュウキュウなどといった有名種から、滅多に名を聞かない無名種まで、西沢つつじ園、烏山つつじ緑地合わせて約100種類2万本のツツジが植えられているそうです。
とても種類が多いことに驚きますが、一昔前はもっと凄かったそうです。なんでも西沢さんが商売を熱心にしていた昭和時代は、少なくとも120種類以上はあったとか。
庭というのは、究極の趣味の世界。趣味の世界では、珍しい品ほどよく売れるものです。なので、多くの品種をそろえ、そういったニーズにこたえていたそうです。
現在では、そこまで商売を熱心にしているわけではなく、珍しかったり、育成が難しい品種は全部売れてしまい、この数に落ち着いているそうです。とはいえ、これだけの品種がそろっている植木屋は23区内ではここだけでしょう。遠方からわざわざ買い求めにくる客がいるというのも納得です。

色が飽和している感じです。周りの家もさりげなくおしゃれです。
なぜこれほどの規模のツツジ畑がここに出来たのか。どうしてここまでツツジにこだわっているのか。これだけ立派なツツジ園を見てしまうと、色々と興味がわいてくるというものです。
せたがや百景が選定された頃の談話を読むと、もともと西沢家は農家だったそうです。親戚が植木をやっていたことから、先代が太平洋戦争前から植木をやりだしたそうです。
この頃は区内に鉄道がどんどん施設され、宅地開発がどんどんと進められていました。そういった家の庭木の需要もあったそうですが、それよりもあちこちに小学校が建ち、校庭や敷地に植える植木の需要が多く、リヤカーに苗木を載せて、ケヤキや椎木を植えて周る忙しい日々を送っていたことが思い出に残っているとのことでした。
しかし、戦争が始まり、食糧難の時代になったことから、再び畑に戻し、芋や野菜などを植えていたそうです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
戦争が終わってからも畑を続けていましたが、親戚などの話では、日清・日露戦争後には植木の相場が上がり、儲かったとのこと。その話を聞き、終戦してから5、6年後、先代は亡くなっていたので、自力で再び植木屋を始めたそうです。
戦後の写真を見ると、畑の一部が植木用になっているのが分かります。この時は移行中といったところでしょうか。何を植えていたのかは分かりませんが、ツツジ自体は元々畑の周りに生えていたそうです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
戦後の混乱が落ち着くと、予想通り、あちこちに家や建物が立ち、植木の需要が増えました。植木屋としても軌道に乗り、どんどんツツジを植え、種類や数を増やしていったそうです。
なぜツツジを選んだのか。なぜツツジ専門店になってしまったのか。それは、植木屋を再開するにあたって、先代ほどの知識もないし、手がかからなく、素人にも手入れができ、気楽に扱え、しかも需要があるものにしようと考え、ツツジになったそうです。
ツツジはとても丈夫な木なので、少々乱雑に扱っても枯れることはありません。しかも、大きな庭、小さな庭に関わらず、どんな庭にも必要な植木となります。例えば、名の知れた大名庭園でも、必ずツツジやサツキの下草が植えられています。ということで、ツツジばかりを植えていたら、ツツジ専門店になってしまったそうです。

小さな苗から育てていきます。
しかしながら、商売になったのは昭和の頃の話。地価の高い世田谷で、これだけ広い土地を使ってツツジを売っても商売にならないそうです。これだけの土地があれば、大きなマンションでも建てれば儲かるんじゃない。というのは、誰しも考えることでしょう。まさにその通りだそうです。
でも、農家の血筋なのでしょうか。他にも土地を持っている地主の余裕というやつでしょうか。土をいじっているほうが好きだということで、半分趣味みたいな感じで、継続しているようです。とはいえ、相続の回数を重ねると、土地は減っていくので、いずれは・・・ということになってしまうかもしれません。
2、ツツジの季節の西沢つつじ園

東京23区内でのツツジの見ごろは、だいたい4月中旬から5月の頭にかけてというのが、定番でした。ここ西沢つつじ園でも4月29日の昭和の日が一番の見頃となり、5月のゴールデンウィークまでは見ごろが続いていました。
しかし、最近では気候変動によって、つつじの開花が早まり、4月中旬ごろに見ごろを迎えることが多くなりました。桜は年によってばらつきが大きいものの、4月になってから気温が一気に上がる気候は、もはや普遍的な気候になりつつあります。
なので、昭和時代のように4月29日に訪れても、多くの花がしおれてしまっていて、全体的にくすんだ感じになっていたり、ゴールデンウィークにはもう花が落ちてしまい、ガッカリということも多いです。訪れるなら4月に訪れることを強く推奨します。

色が飽和している感じです。周りの家もさりげなくおしゃれです。
見ごろの時期に訪れると、辺り一面が色とりどりのツツジであふれかえっています。種類の多さや色の違いから、目に入ってくる色が飽和してしまうぐらいの色鮮やかな光景です。
23区内では、お寺や神社、庭園などがツツジの名所として知られていますが、そういった場所は同じような種類のツツジが咲いていたり、木々の下草といった感じで植えられています。あくまでもツツジは庭園などの美しさを引き立てる、縁の下の力持ちといった存在です。
もちろん、それが庭園として正しいツツジの植え方になるのですが、ここでは禁断のというか、ツツジがメインで植えられています。というより、正式にはツツジ畑なので、ほぼツツジしかありません。なので、青空に生えるツツジがとても美しく感じます。まるでツツジの絨毯といった感じです。

思いっきり飛び込んでみたくなるような光景です。
ここのツツジ園は世田谷の誇りと書くと語弊がありそうですが、少なくとも烏山に暮らす人たちにとっては誇りであり、愛され続けている場所であるようです。
訪れると、特に年配の方が多いのですが、毎年毎年楽しみにしている様子がありありと伝わってきます。子供を連れた老人が、子供に「ここは東京で一番きれいな場所なんだよ。」といった言葉をかけている光景などを見ると、微笑ましくなってきます。

20号沿いにあるランドマーク的存在のエルザ世田谷です。

それなりに降ると、つつじ緑地以外は足元が悪くなります。
また病院が近いこともあって、点滴をしたままの患者さんや入院着を着た車いすの方などが散歩していたり、介護施設からやってくる団体さんの姿も見かけます。元気に咲くツツジから元気を分けてもらってくださいといったところでしょうか。
このように地元の人にとってツツジの咲く季節にはとてもいい散歩コースとなっていて、この時期だけは遠回りしてもこの前を通って行く人も多いようです。

そこそこ人出がありました。近年ではゴールデンウィークには枯れていることも多いです。
近年では、情報サイトや情報誌、SNSなどで取り上げられるようになったので、わざわざ区外から訪れる人も多くなったようです。世田谷のローカルな名勝が多くの人に知れるのはうれしいことです。
ちなみに、すぐ近くにある烏山寺町の妙寿寺でも色とりどりのツツジを見ることができます。なんと檀家である西沢さんの寄進によるものです。まだ若い木が多いのですが、後十年後には迫力ある風景となり、人気スポットになっているに違いありません。
普段は公開されていませんが、もしツツジの時期に客殿の公開が行われることがあるなら、無理をしてでも足を運んでみてください。2階から見るツツジは絶景です。

小さな苗木が500~千円ぐらいです。大きいものは応相談だそうです。
また、土日に訪れるとツツジの販売をしています。小さな苗木ですが500円~千円程度で買うことができます。少し大きめのは応相談といった感じです。
買うときによく聞こえてくるのが、「どれくらいでここに咲いているぐらいな立派なツツジに成長しますか?」といったような事。
敷地内にあるものの中には80年とかの大きなものもあります。そこまではいかなくても、それなりに大きく、立派に育てたいものです。

これは結構気が長い話で、最低15年ぐらいはちゃんとお日様を当てて育てないとダメなようです。西沢さん曰く、本当に満足いくものは20~30年育てたものだとか。
育てるコツは、二月の寒肥と、花が終わってからのお礼肥の、年二回の肥料と、花が終わってから刈込みをすること。基本的には丈夫な木なので、これだけきちんとやっておけば、毎年きれいな花を咲かせてくれるそうです。
年配の方で満足がいくものを育てたいのなら、子に託すしかないですね。そんな冗談がよく聞こえてくるのは、やはり購入しようとする方に年配の方が多いからです。
若い人は買いたくても、世田谷で一軒家で、しかも日当たりのいい庭付きの家というのは、相続しない限りなかなか厳しいものがあります。
3、感想など

この時期は時々写真を撮りに出かけてしまいます。なんというか、色鮮やかだとファインダーを覗いていても楽しくなってくるものです。
絵的には、やっぱり庭園とか寺院などに比べると、平坦で単調に感じますが、混雑していないことが、一番うれしいです。のんびりと辺り一面の色とりどりのツツジの中で、絵になりそうな花がないかなと捜しながら写真を撮るのは楽しいものです。
私的にはツツジの細長い雌しべと雄しべが妙にそそって好きです。普段は花を大きく撮ることはあまりしないのですが、ここではいつの間にか夢中で花を撮っている私がいたりします。


世田谷区内には梅の羽根木公園、桜の砧公園、園芸高校のバラ園、瀬田フラワーランド、芦花公園の花の丘など四季の花が楽しめる公園、あるいは紅葉の豪徳寺や九品仏浄真寺などと花や樹木を楽しめる場所が多くあります。もちろん有名なところに比べると規模は劣りますが、ひどく混雑していなく、手軽に楽しめるのがいいです。
この西沢つつじ園も、植えられているツツジよりも人の方が多いのでは・・・なんていう混雑はなく、手軽にツツジを楽しめる素敵な場所です。
きっと一度来てしまうと、また次の年も来たくなってしまうでしょう。とても気持ちのいい場所ですから。ぜひツツジの季節に足を運んでみてください。少し交通の不便な場所になりますが、それだけの価値はあるかと思います。
せたがや百景 No.41烏山西沢つつじ園 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 北烏山6丁目16−10、16-6(烏山つつじ緑地) |
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・アクセス | 最寄り駅は京王線千歳烏山駅。駅から少し離れています。 |
・関連リンク | 烏山つつじ緑地(世田谷区) |
・備考 | ーーー |