世田谷散策記 タイトル
せたがや百景 No.14

天狗まつりと真竜寺

移転(旧所在:北沢2-36-15)

小田原大雄山最乗寺の分院真竜寺は昭和4年に下北沢に建てられた。小さな石段を上がって境内に入ると、大きな天狗の面が目につく。節分の日の天狗まつりには、天狗の面と大天狗、裃姿の年男などが豆をまきながら商売繁昌、家内安全を祈り、商店街を練り歩く。(せたがや百景公式紹介文の引用)

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1、真竜寺と大雄山最乗寺

下北沢 真竜寺の門前
真竜寺の門前

在りし日の様子。現在では存在しません。

下北沢の北口の商店街から少し外れた一画に、小田原大雄山最乗寺の分院、真竜寺(真龍寺)がありました。昭和4年に建てられた曹洞宗のお寺になります。

真竜寺の周囲はマンションなどが建ち並ぶ住宅地兼、商業地。建物に囲まれた一画に忽然とお寺があるといった立地で、敷地内には墓地もなく、とても小ぢんまりとしたお寺でした。

残念ながら2019年に取り壊され、廃寺。跡地はマンションになっています。詳しい事情は知りませんが、移転先は小田原の最乗寺ということなので、体よく言えば、役割を終え、故郷に戻ったという事になるのでしょう。

下北沢真竜寺 天狗のお面が収められている建物
天狗のお面が収められている建物

今はなくなってしまった真竜寺ですが、過去の様子を書いていくと、境内に入ってまず目に入るのが、大きな天狗のお面が置かれている神輿舎のような建物でした。

中を覗くと、赤い大きな天狗のお面がドンと祀られていて、お面の他にも葉団扇や高下駄も置かれていました。

下北沢真竜寺 大きな天狗のお面と高下駄と葉うちわ
大きな天狗のお面と高下駄と葉うちわ

設置されている解説によると、天狗の長い鼻は商売繁盛を、葉うちわは平和を、高下駄はどんな困難にも負けない勇気を表しているとの事です。

天狗の鼻には別の意味もあったりします。当たり障りなく書くなら子孫繁栄・・・ってな。

この天狗のお面などは、天狗まつり実行委員会が寄贈したもので、節分時に行われる天狗まつりに使用されます。廃寺になった後も、商店街が引き取って保管しているので、現在でも引き続き祭りで使用されています。

下北沢 真竜寺の本堂と賽銭箱
真竜寺の本堂と賽銭箱

葉団扇の紋が目をひきます。

天狗の面が置かれている建物の後ろに、木造の本堂がありました。恐らくこの地に建立された当時の建物だと思われます。

建物自体は普通のお寺の堂宇で、目がいってしまうのは、賽銭箱。大きな天狗の団扇が前面につけられています。

大雄山最乗寺 奉納された巨大な下駄
奉納された巨大な下駄(大雄山最乗寺)

巨人用といった感じです。

大雄山最乗寺 奥の院へ続く階段
奥の院へ続く階段(大雄山最乗寺)

雰囲気はいいけど・・・汗。

この寺に天狗に関するものが多いのは、小田原大雄山最乗寺の分院にあたることに関係しています。大雄山最乗寺は、小田原の北、足柄の山の中にある古くから霊験新たかな修験場です。東京から近いので行かれた方も多いでしょうが、うっそうとした森の中にあり、神秘的な雰囲気満点のお寺です。

ここには巨人が履くような大きな下駄が奉納されています。そして、その周りは多くの鉄やアルミの下駄が奉納されていて、その様子は圧巻です。

奥の院まで行くのにとんでもなく長い階段を登らなければならなかったりと、ちょっと体力が必要なお寺ですが、世田谷つながりということで、次に訪れる目的地の候補にしてはどうでしょう。

下北沢 真竜寺 夏まつりの縁日で賑わう境内(2009年)
夏まつりの縁日で賑わう境内(2009年)

昭和信金さんのイベントです。

この真竜寺の境内では、夏まつりの縁日が行われたり、音楽祭では演奏のステージが設けられたりと、天狗まつり以外でも地域のイベントの場として使われていました。

この界隈は住宅が密集していますので、こういったイベントが行える場がなかなかありません。止む得ない事情があったことだと思いますが、地域に開かれていたお寺がなくなってしまったのは、地域にとって大きな痛手となっているはずです。

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2、しもきた天狗まつり

しもきた天狗まつり 天狗まつりのポスター
しもきた天狗まつり 天狗まつりのてぬぐいと提灯
天狗まつりのてぬぐいと提灯

グッズが販売されたり、年々華やかになっています。

真竜寺では、節分の頃の週末に一風変わった節分行事、「しもきた天狗まつり」が行われていました。

真竜寺は廃寺となってしまいましたが、元々、商店街が先頭になって行事を行っていたので、お寺から天狗の面などを引き取り、現在でも同じような規模で行われています。

しもきた天狗まつりのメインイベントは、商店街を練り歩く天狗道中。大きな天狗の面と共に、大天狗や裃姿の年男など100人あまりが下北沢の商店街を練り歩き、豆をまいて商売繁盛や家内安全を願います。

賑やかな下北沢の町を天狗などが練り歩くということで、とても盛り上がるイベントになり、年々賑やかに、そして知名度が上がっています。

しもきた天狗まつり 真竜寺本堂の豆煎り釜
真竜寺本堂の豆煎り釜

天狗まつりに関してですが、この行事はきちんと節分の日に行われる訳ではなく、節分に近い週末に行われています。ですから正統派の節分行事というより、どちらかというと商店街主催のイベント色の強い行事となっています。

以前は、まず真竜寺で式典や豆炒り式などが行われ、その後、隊列を整えて天狗道中が下北沢の町へ繰り出していましたが、今では駅前の特設会場からの出発となっています。

しもきた天狗まつり 天狗道中の先頭
天狗道中の先頭

結構長い列になります。

この行事は、真竜寺のあった一番街商店街の管轄となり、天狗道中は小田急線の北側にある商店街を練り歩きます。だいたい阿波踊りが行われるエリアと同じです。

私が訪れたときは、先頭は商店街会長だったでしょうか。そして区議会議員の人や天女役?の人などが続き、白い衣装をまとった太鼓部隊が続き、赤い面を付けた大天狗、黒い面を付けた小天狗、そして大勢の年男、年女が続いて、しんがりに大きな天狗の面を載せた山車が続いていました。

しもきた天狗まつり 天狗道中の様子
天狗道中の様子

通りがかった人は何事かと足を止めていました。

しもきた天狗まつり 行列の後ろから
行列の後ろから

行列に参加するとこんな感じで下北沢の町が見えます。

町をパレードしながら盛大に豆をまくという節分行事は、他ではあまりないと思います。しかも、節分なのに天狗様が主役というのも、珍しさに拍車をかけています。

調べてみると、真竜寺が建てられた昭和4年頃から行われていたとか。実は、伝統ある行事という部類になるようです。

ただ、昭和40年頃から昭和53年までは中断していたので、現在行われているのは、第二期天狗道中といった扱いになるようです。

しもきた天狗まつり 天狗様が見守る豆まき
天狗様が見守る豆まき

所々で止まって整列した後に豆をまきます。

所々で豆をまきつつ進み、何カ所かの決められた場所で一列に年男や年女が並んで大々的に豆をまきます。

ここでの特徴は「鬼は外」と言わない事です。それは真竜寺の守護神である道了尊の化身、天狗に関係していて、威徳と神通力で厄災を追い払ってくれるのです。(*道了尊とはお寺の守護を願い天狗となって昇天したといわれる道了薩たという方のこと)

それに、真竜寺を開いた道海禅師の教えにも、「心の中に福が充満すれば、鬼は自ら退散していく」とあり、「鬼は外」と言う必要がないから言わないのだそうです。

しもきた天狗まつり 豆まきの様子
豆まきの様子

楽しそうに豆まきをしている感じでした。

しもきた天狗まつり もらった豆
もらった豆

豆まきを行うと、何処でも同じで熾烈な争奪戦となりますが、ここでは景品の入った袋などはなく、下さいと頼めば豆をくれます。なので、笑顔で豆まき特有の争奪戦を楽しんでいるといった感じでした。

でも、商店街を回り、真竜寺(現在は特設会場)に戻ってから行われる豆まきは違うようです。ここからが本番といった感じで、この時は景品の引換券が入った袋などが混ぜられるようなので、熾烈な奪い合いの豆まきになるのではないでしょうか。(こちらの方は訪れたことはないので、詳しくはわかりません。)

しもきた天狗まつり 大天狗と天狗の面
大天狗と天狗の面

下駄が高いので歩くのが大変です。

行列についていきながら行事の様子を見ていると、天狗パレードをお目当てに来ている人が楽しんでいるのは当然ですが、たまたまこの行事に遭遇し、せっかくだからと豆まきに参戦し、楽しんでいる人も多かったです。

「あっ、なんかやっているよ。」「あっ、天狗だ。」「ねぇねぇついて行ってみようよ」といった若い人の会話がよく聞こえてきました。そうやって下北沢のファンがどんどんと増えていくのでしょうね。いいことだと思います。

しもきた天狗まつり お掃除部隊(グリーンバード)
お掃除部隊(グリーンバード)

パレードが通過した後はお掃除部隊が活躍します。

豆をまきながら商店街をパレードするといった行事は、全国的にも珍しいです。その理由は書くまでもないのでしょうが、後処理が大変ということにつきます。

行列が通り過ぎると、当たり前のように商店の人が道に出てきて、ほうきで道を掃き始めるといった光景は、下北沢らしい光景となるでしょうか。町全体で協力して行事を行っている感じが、とっても素敵です。

更には、ここでは強力な助っ人がいたりします。それはグリーンの22番のゼッケンを付けている下北沢で掃除活動を行っているグリーンバード(green bird)の下北沢チームの皆さんです。

パレードが通過すると、彼らが落ちた豆をせっせと掃除していきます。人の足で踏まれてつぶされているので、これが地味に大変な作業です。見かけたら是非応援して下さい。

それにしても・・・、大量の節分豆が潰されると、辺りに節分豆の強烈な匂いが漂います。こんなに節分豆って強烈な匂いがするんだ・・・と、ビックリしました。

3、感想など

しもきた天狗まつり 商店街を進む天狗の面
商店街の細い路地を進む天狗の面

真竜寺はなくなってしまいましたが、しもきた天狗まつりは健在です。下北沢の町を天狗が練り歩く。そう聞くと何かワクワクしてきませんか。そう、面白そうだと思ったら出かけてみましょう。誰でも楽しめるし、何より見ていて楽しい豆まきです。豆を拾えれば更に楽しい気持ちになれます。

地域で協力して盛り上がり、そして参加する人が楽しめる行事はいいものです。町中で撒いた豆の処理が大変だとは思いますが、今後も地域で協力して続いていってほしい行事です。

せたがや百景 No.14
天狗まつりと真竜寺
2025年5月改訂 - 風の旅人
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・地図・アクセス等

・住所ーーー(旧所在:北沢2-36-15)
・アクセスーーー
・関連リンク下北沢一番街
・備考2019年に廃寺
天狗まつりは節分前の週末
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