慶元寺三重塔の見える風景
せたがや地域風景資産 #2-29畑の間の土の道
喜多見4-16-25(農業公園周辺)稲荷塚古墳緑地を視点場とした地域風景資産である。平成 12 年に開設した稲荷塚古墳緑地からは慶元寺の三重塔を背景に畑が広がっている風景を眺めることができる。喜多見地区は農村としての歴史を長く有する地区である。慶元寺は地区のコミュニティの場であり、15世紀から続く歴史がある。喜多見地区の歴史的な環境を感じとれる場所である。 (紹介文の引用 1-26)
慶元寺に接する畑の間を、氷川神社方面から稲荷塚古墳方面へと抜ける、土の小道である。道沿いには四季折々の花が咲き、野鳥に出会える、ステキでホッとする場所である。喜多見の原風景ともいえる風景である。(紹介文の引用 2-29)
1、慶元寺三重塔が見える畑

*それぞれ国土地理院地図を書き込んで使用
喜多見は江戸時代に喜多見藩があったり、古墳が多く残っていたりと、世田谷の中でも独特の歴史や文化を持った土地です。
その喜多見の文化の中心は、喜多見氷川神社とその隣にある慶元寺で、多くの文化財や伝統的な芸能や風習が残っています。
これらの寺社を訪れたときに驚くのが、この二つの寺社の周りには豊かな自然が多く残っていることです。

歴史を感じる通りです。
世田谷区内では広大な敷地を持つ豪徳寺と九品仏浄真寺は別として、多くの寺社では境内のすぐ脇まで住宅が迫っているのが実情です。簡潔に言うなら、住宅地の中に寺社が埋まっているといった表現が適切でしょうか。
境内がそういった状態なので、参道はよりひどく、取り壊されたり、家が並んでいるといったケースが多くなっています。
境内の敷地は何とか維持できても、参道の景観を保つ金銭的余裕がなかったり、参道を取り壊して、その売った土地で境内や建物の整備を行ったりと、苦しいやりとりをしているのが小さな寺社の現状です。
そういった状況の中で喜多見のこの二つの寺社は、比較的昔ながらの参道、そして周辺の景観が今でも保たれています。特に慶元寺では寺所有の雑木林以外にも、周辺に畑が多いのが特徴です。

*国土地理院地図を書き込んで使用

畑の向こうに三重塔と立派な木々が見えます。
喜多見氷川神社や慶元寺は今でも多くの氏子や檀家に支えられ、伝統行事も多く、今もなお畏敬の念を住民が感じているといった事が寺社を大事にしよう、周辺の環境を良くしておこうといった事につながっているのかもしれません。
そういった様子がせたがや地域風景資産に選定されていて、すぐ近くにある稲荷塚古墳緑地から畑越しに五重塔が眺める風景は「慶元寺三重塔の見える風景」として、その畑の脇を通り、慶元寺裏手を抜け、氷川神社の前に出る土の道は「畑の間の土の道」は第二回目の選定で選ばれています。

緑の中にある佇まいはいいものです。
この他にも「喜多見・歴史の道、慶元寺・氷川神社界わい」が二回目の選定で選ばれているので、この付近は風景資産多発地帯となっています。
最初に風景資産を知ったときは同じような項目ばかり選んでどうするの?と、批判的な印象を持ったのですが、調べてみるとちゃんとした理由がありました。
この付近を含め喜多見4、5丁目は総面積約50ヘクタールのうち今なお約1割を農地が占めるといった農業の盛んな地域で、「農の風景育成地区」に指定されています。
これは都市の貴重な農地を保全し、農のある風景を維持していくために東京都が創設した制度で、比較的まとまった農地や屋敷林が残り、そして特色ある風景を形成している地区を指定したものです。
ファミリー農園も多くある事から一般の区民が農地に触れ合える地域にもなっています。

ここから慶元寺の三重の塔がよく見えます。

少しこんもりとしていて、上に石碑が置かれています。

埋葬品などは郷土資料館に展示してあるようです。

木々の花と合わさってちょっと楽し気な雰囲気です。
そういった素晴らしい農業環境の保全と地域の景観を守るために、平成25年5月に東京都が創設した「農の風景育成地区制度」の第一号に指定され、東京「農」の風景・景観コンテストでも東京都都市整備局長賞を受賞しました。
その取り組みの一つとして、現在「慶元寺三重塔の見える風景」と「畑の間の土の道」から見える慶元寺横の畑付近に世田谷区立喜多見農業公園ができました。
実際に訪れたことはないのですが、道沿いに案内板があり、公園なので開園時間内であれば自由に畑を見学できるようになっているようです。当然ですが、畑内の立ち入れは駄目です。
この畑は現代の農風景の保全と農作業体験を目的としたもので、いわゆる一般に貸し出ししているファミリー農園とは違い、農作業体験用の畑になっています。そして田んぼがある次大夫堀公園と機能分担もしています。
いまいち農業公園である意義がわかりにくいですが、慶元寺の三重の塔が住宅地に埋まってしまい、境内に入らないと見えないよりは遠くから見える方がいいし、今後、こういった施設で農を活かした地域づくりを期待したいところです。
今後は「慶元寺三重塔の見える風景」といった消極的なタイトルではなく、「慶元寺の五重塔が見守る畑」といったタイトルがふさわしいと感じるような風景になるといいですね。
2、畑の間の土の道について

慶元寺の脇、稲荷塚古墳緑地から喜多見氷川神社の鳥居前へ続いている道です。
稲荷塚古墳緑地から喜多見氷川神社の鳥居に抜ける小さな土の道が風景資産に選ばれている畑の中の道です。
何て言うか、感想に困る道です。田舎ではどこにでもあるような田や畑の脇にある道なのですが、田畑が少なくなった今の世田谷では珍しい道になるのでしょうか。
とはいえ、他の地域からやって来て、この道を歩き、この道は素晴らしい・・・と、感動する人も少ないような気もします。

季節の花があると、そろそろ苗を植えようかといった目安になります。

雨や雪の日は地面が泥だらけになるので、長靴が必須です。
現在の世田谷では、辺りを見回しても家とアスファルトの道路ばかり。並木となっている桜やイチョウなどで季節を感じるぐらいとなってしまいました。
桜並木やイチョウ並木などと同じように、いや、それ以上に畑には季節があります。
種まきをする前の土だけの状態。芽が出て季節が進んでいく感じ。花が咲き、作物が立派に育った状態。そして実がなって収穫する段階。
そういった様子を眺めながらしっかりと季節を感じながら歩くことのできる道は、やはりいいものです。
3、感想など

さりげない風景を探しながら歩いてみてください。
昔は畑だらけ、いや畑しかないような世田谷が、今では住宅で埋まり、畑がこういった風景資産に選ばれているのも面白い気がします。
こういった畑の道は、日々通っていてこそ微妙な季節の移り変わりや四季を感じられるものです。
田畑というのは百姓の日々の農作業と季節の移り変わりで成長していくものです。しかも田植や作付けの時以外はその進展は遅く、気が付いたら作物が成長し、風景が変わっているといった感じです。
日々の生活で通り、通りながら畑の様子を見て、畑と対話することで得られる風景の良さ。この風景を選んだ人の意図はそういったところにあるのでしょうが、北海道のように辺り一面が畑ならいざ知らず、普通の散策人が都会の農業の風景を散策の目的地にしたり、風景として評価するのは難しい事のように思います。
せたがや地域風景資産 #1-26慶元寺三重塔の見える風景 せたがや地域風景資産 #2-29
畑の間の土の道 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 喜多見4-16-25(喜多見農業公園) |
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・アクセス | 最寄り駅は小田急線喜多見駅。駅から離れています。 |
・関連リンク | 喜多見ポンポコ会議、世田谷区立 喜多見農業公園 |
・備考 | ーーー |