若者と下北沢のまち
下北沢の駅周辺一帯本多劇場、ロングラン・シアター、ザ・スズナリなどの劇場があり、演劇の新しいメッカとなっている。まちにはたくさんの若者が訪れ、ユニークな店も目立っている。探れば探るほど、多くの顔を見つけることのできるまちといえるだろう。(せたがや百景公式紹介文の引用)
1、下北沢の町と若者

下北沢の町は道が狭く雑踏感があります。
全部で100の項目がある「せたがや百景」。その中で唯一抽象的な項目が、この「若者と下北沢のまち」です。他は、これだといった「もの」があったり、過去にあったのですが、この項目に関しては、町全体と若者って・・・あまりにも抽象過ぎるような気がします。
抽象的な項目なので、人それぞれに解釈が違ってくるのは当然で、今の下北沢を見てそう感じる人、または時代の流れを感じながら解釈する人、若者からの視点に、年長者からの視点など、人それぞれの「若者と下北沢」があると思います。もちろん全くそう感じない人もいることでしょう。

再開発前は高架橋がギリシャ神殿風になっていました。
私が知る下北沢は1990年ころからなので、あまり古くからのことは分かりませんが、その頃からごちゃごちゃした町だなと感じていました。しかもちょっと怪しい店とかも多く、私の中の印象は、何でもありな町でした。
近年では消防法とか、建築法とか、その他もろもろの法律が厳しくなり、老朽化した建物の建て替えも進み、また大きな再開発も行われ、1990年ころと比べると、随分と町並みが落ち着きいたと感じます。
それとともに町から怪しい部分が減っていき、下北沢にあった強烈な個性が薄まり、今どきの町になりつつあるのかな・・・などと感じたりします。


時間によっては渋谷のスクランブル交差点状態になっていました。
時代の流れといえば、小田急線が地下を走るようになり、町から踏切が消えてしまいました。ごちゃごちゃした町並みの中に踏切があると、一層雑踏的な情緒が増し、いい意味で下北沢らしさというか、魅力の一つだったように思います。
もちろん、そんなノー天気なことを思っているのは、時々散策に来る人間ぐらいでしょう。電車のラッシュ時には踏切がなかなか開かなく、人も車も大変そうでしたから。

ファッション関係の店が多いです。
下北沢に多いのは、ファッションの店と飲食店です。場所によってはお洒落な店が並び、まるで原宿や渋谷を歩いているような感じを受けます。百景の紹介文にあるように、昔から個性的な店が多かったのですが、今ではより若者志向となり、変わった外観や強烈な個性を放つような店が増えたかな・・・といった印象です。
そういった店では、物珍しさや斬新さに惹かれた若者が足を止め、服や雑貨など品定めをしています。今どきの言葉で言うなら、SNS映えするような店や商品が流行っているといった感じでしょうか。

下北沢になぜ若者が多いのか。その理由の一つに、京王井の頭線と小田急線が交わる乗換駅ということが挙げられます。
沿線に学校が多く、高校生が乗り換えついで友人などと途中下車し、町歩きを楽しんでいるのは、昔からの光景です。そんなにお金のない高校生には、通学定期で行ける町というのは、親しい友人と休日になんとなくぶらぶらするのにも最適です。
この界隈で言うなら渋谷や新宿も同じでしょうが、渋谷や新宿は人が多く、歩くだけで疲れます。その点、下北沢はそんなに混雑はなく、日常の延長的な感じで気軽に立ち寄れます。

学生が多い町といえば、中古品。古着屋は今でも多いですが、1990年代には、CDやDVD、本、ゲームなどの中古を扱った店が多く、充実していたように思います。
実は、それを目当てに私は下北沢に来ていました。でも、今ではそういった店はあまり見かけなくなってしまいました。これは下北沢に限らず、時代の流れというやつになるのでしょう。


乗り継ぎ駅という利便性も大事ですが、流行に敏感な若者を惹きつけるには、やはり町自体が魅力的で、楽しくないとダメです。
若者の文化といっても、10年ひと昔。想像以上に代替わりが激しいものです。流行りを追いかけ、流行に合わせていても、すぐに次の流行が来てしまいます。伝統云々よりも、斬新さとか、柔軟さが必要になります。
そういう意味では下北沢は自由な部分があり、新しい文化をどんどんと取り入れ、新しい店がどんどんオープンし、新しいイベントなども次々と行われています。更には、若い人が街づくりの会議に参加したり、積極的にイベントの運営に加わっていたりします。
若者が多く、若者の活気で溢れている下北沢。若者が集まれば、更に若者を呼び込むといった好循環が起こっているのでしょう。そういったエネルギッシュな町の雰囲気に、若い人好みの流行やお目当ての店が並んでいること。更には、少し非日常的に感じる雑踏感のある町並みが加わったのが、下北沢の魅力になるるのではないでしょうか。
2、演劇の町、下北沢

下北沢といえば、演劇の街。町中に劇場があり、演劇団の事務所なども多くあります。・・・って、実は演劇に関心がなかったので、私は知りませんでした。
今でも下北沢には幾つかの劇場があり、そのほとんどが本多劇場グループのものです。この本多劇場の創始者は、本多一夫氏。映画俳優をしていた方で、自分が若い時に苦労した経験から、若い演劇人に発表の場を与えたい!との思いで、下北沢駅周辺に貸し劇場を次々に建てたそうです。
下北沢で演劇を行う人たちにとっては、演劇の神様的存在になっているのではないでしょうか。

演劇の町下北沢の本山的存在です。


ここは昭和のまんまの雰囲気が残っています。

ビルの三階にあります
演劇のような芸術の分野は、安定的に需要があり、今も昔も普遍的なもの。などと、芸術に疎い人間としては思ってしまうのですが、流行ったり、廃れたりと、時代の荒波にもまれながら今に至っているようです。
演劇は、出演するキャストだけではなく、衣装や大道具などの裏方、演技の指導者や照明などと、多くの人が携わり、多くの手間と費用がかかります。なので、見に来る人が少なければ、あっという間に立ち行かなくなってしまいます。
厄介なのが、劇団、劇場ともに特殊な存在なので、一度廃止にしてしまうと、復活させるのが難しいことです。そのまま消えてしまう場合が多いです。

路地を散策していると劇団やダンススクールが多いのに気が付きます。
廃れた時代を乗り越え、コロナ禍も耐え、今なお多くの劇場が下北沢に残っていることを考えると、下北沢の町は演劇の町として演劇に関わる人、見に来る人に定着し、もはや下北沢になくてはならない文化となっているように感じます。
というより、逆境を乗り越えてきたからこそ、多くの人から演劇の町と認められているのでしょう。それとともに、演劇が常に身近な存在であるからこそ、下北沢の町が個性豊かな雰囲気の町となっているのかもしれませんね。

演劇祭の期間はちょっと華やかです。
毎年2月には、町をあげて下北沢演劇祭が行われます。といっても、演劇がいつもよりも多く上演されるといった感じなので、町を歩いてもいつもよりポスターが多いぐらいしか変化を感じないでしょう。
演劇を上演する劇場は、一番大きな本多劇場で収容人数が380人、後は100人前後の小劇場です。超有名な劇団の大舞台は期待できませんが、その分、手頃な値段で、気軽に若手劇団員の演劇を楽しむことが出来ます。
デートで映画を見に行く予定を演劇に変えてみてはどうでしょう。目の前で実際に行われる人間の演技は、意外と強く、後々まで記憶に残るものです。後で振り返った時に、思い出に残るデートになるかもしれません。それに映画ではなく、演劇に誘うと、異性から魅力的な人間に思われるかも?(勝手な想像・・・)
とまあ、デートはさておき、演劇の街下北沢。せっかくなので一度は演劇を見に出かけてみるのもいいのではないでしょうか。何か新しい発見や出会い、感情や心境の変化があるかもしれませんよ。
3、下北沢音楽祭とパレード

音楽祭のパレードと言えばやはりこの名物おじさん
7月の第1週に行われる下北沢音楽祭も、近年では演劇祭と並んで下北沢の顔となりつつあるようです。
音楽祭の期間中には、町の何カ所かにステージが設置され、地元のバンドマンや団体、学生などによる演奏が行われます。
町の中が音楽一色とまではいかないまでも、屋内で行われる演劇祭とは違い、町の中が音楽によって活気づいているように感じます。

楽器は各々が持ち寄ったものなので多彩です
その音楽祭では下北沢らしいと言うか、とても面白い音楽パレードが行われます。クリーンクリーンパレードと名付けられ、環境美化推進をテーマに掲げながら町をパレードするといったものです。
パレードでの演奏の中心は、ニューオリンズスタイルのバンド「ブラックボトムブラスバンド(BBBB)」と区立富士中学校ブラスバンドで、それに楽器を持った有志が加わり、また商店街や町会などの協力を得て町を演奏しながら歩きます。

今では下北沢のイベントには欠かせない存在ですね
下北沢の環境美化と言えば、日頃下北沢の町でゴミ拾い活動を続けているNPO法人のグリーンバード 下北沢チーム抜きでは語れません。今や彼らは下北沢のイベントには欠かせない存在となっています。
このパレードにもグリーンバードのメンバーが加わっていますが、音楽パレードは音楽のできる人に任せて、ゴミのポイ捨て禁止などの横断幕やのぼりを掲げていました。いつもは縁の下の力持ち的な存在ですが、このときはちょっと輝いて見えました。
こういった華やかで、若者が活躍するイベントはいいものです。実は、影で清掃活動をしたり、イベントの準備をしたり、町の協議会などに参加して町づくりを真剣に考えているのも若者なのです。下北沢を歩く度に、若者の街下北沢という謳い文句をあちこちで実感します。
4、イベントなど

熱気に溢れていました。
下北沢はとてもイベントの多い街です。イベントの多い街というのは街が活気のある証であります。
これは私の経験則ですが、イベントの多い町には柔軟な思考を持った人が多いです。新しいことを行うにはパワーが必要だし、新しいことをやることに対してのネガティブな意見への対応、イベントでの苦情対応、関係各位の調整を行うには、柔軟さが求められるからです。
下北沢のいいところは、イベントを運営する側に比較的若い人が多く、まずは「やってみよう」と、失敗も成功の基といった感じで、勢いや情熱を感じるところです。
例えばサンバパレード。一回目は夏まつりに合わせて行われたのですが、太鼓の音が劇場やスタジオに入り込み、問題になりました。でも、サンバがやりたい。ってことで、今では秋に行われるカレーフェスティバルの明るい時間帯に行われていたりします。

駅前の再開発でできたスペースで行われます。今では大きなイベントになっているようです。
下北沢で行われるイベントは、この項目の演劇祭や音楽祭、そして他の百景の項目に登場する節分の天狗道中、夏の下北名物阿波踊り、北沢八幡神社の秋祭りとあり、町をあげての大きな行事が多いです。
この他にも、夏には下北沢あずま通り商店街主催の夏祭りが行われ、シモキタ音頭で盆踊りが行われたり、サンバパレードという新しい試みが行われたり、路上でゆかたクィーンコンテストやストリートライブが行われていたりします。
下北沢には多くの商店街があり、多くの人が訪れるし、若者も多い。商店街ごとに独自にイベントを行いやすい環境があるといえます。下北沢の町自体が大きな演劇場といった感じなのかもしれません。

細い道沿いでやっていました。
商店街を中心とした数々のイベントは、演劇や音楽といった芸術活動、若者のファッションなどといった文化に負けないぐらい魅力的なものです。
イベントに参加したり、イベント目的で訪れる若者も多く、イベントをきっかけに、下北沢の町を好きになったり、関心を持つ若者も出てくることでしょう。
そして、下北沢で暮らしたい。下北沢で働きたい。下北沢の町をよくしたい。などと思う若者も出てくることでしょう。下北沢の町には、下北沢の町を愛し、町をどうしたいといったビジョンを描ける若者が多いのが、とても素晴らしく感じます。
5、感想など

こういった店も下北沢の町ではあまり違和感がありません。
アジアの雑踏が好きな私にとっては、細い路地が入り組んでいるごちゃごちゃした町並みやら、生活感漂っている町の雰囲気、町歩きをしているときに感じる楽しさや高揚感、町の匂いといったものが下北沢の魅力に感じるのですが、感じ方は人それぞれです。
個性的なお店がいっぱいあるから好きだという人もいるかもしれませんし、ごちゃごちゃしてあまり好きではないという人もいることでしょう。ぜひ好きになって欲しい町でありますが、人間関係でも相性といったものがあるように、町との相性というものもあります。
もし面白い街と感じたのなら様々な楽しみ方がある町なので、自分の好きを色々と探求し、町のイベントなどにも積極的に参加してみてください。多様性があって懐の深い街ですよ。
せたがや百景 No.12若者と下北沢のまち 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 下北沢の駅周辺一帯 |
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・アクセス | 最寄り駅は下北沢駅。 |
・関連リンク | 下北沢一番街、下北沢南口商店街、下北沢東会・あずま通り商店街、本多劇場グループ、グリーンバード(下北沢) |
・備考 | 下北沢演劇祭は2月中、下北沢音楽祭は7月第1週 |