松原のミニいちょう並木
松原6-22、23付近松原の住宅街のなかにかわいらしいイチョウ並木がある。戦前、別荘の敷地のなかに植えられていたものが、戦後の住宅地化のなかで生き残って、今の姿になった。まちの小さな一角に季節の訪れを告げ、付近の人々から親しまれている。また戦災から焼け残った昭和初期のモダンな住宅が見られるのも楽しい。(百景紹介文の引用)
1、松原のミニいちょう並木について

何とか車が通れるほどの狭い路地にイチョウが並んでいます。

右の2本が上の写真の左2本のイチョウになります。
左の3本が下の写真の3本になります。
このお宅は雨どいの掃除とか大変そう・・・と思ってしまいます。

かつてはこちらの路地にもイチョウが多く並んでいたようです。
松原の住宅街の中、奥まった細い路地に、小さなイチョウ並木があります。これが本当に人目に付かないような細い路地で、大きな目標物もないので、なかなかたどり着けませんでした。
車一台が何とか通れるような狭い路地にイチョウの木が10本程度並んでいる様子は、窮屈というか、狭い分、迫力があるというか、品があるというか、可愛らしいというか、まあ感想は人それぞれでしょう。ただ、植えてある間隔が狭いので、窮屈そうだなというのは多くの人が感じると思います。

一番上の写真の奥の部分です。狭い間隔で並んでいます。

望遠で切り取ると、それらしい並木になります。

反対側(南側)から見た様子です。
なんでこんな狭い路地にイチョウが並んでいるの?ケヤキだったら、昔の屋敷林とか、神社の参道だった名残りかもと思うのですが、イチョウだと、とても不自然です。
これは百景の文章にあるように、別荘地のお屋敷に植えられたものの名残りとなるようです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
古い写真を見ると、とんでもなく大きなお屋敷があり、敷地内に植えられているように見えます。というより、この界隈には大きなお屋敷が幾つかあるので、明治とか、大正時代には、この地は別荘地として流行っていたのでしょうか。
一体誰の土地?と気になるのですが、佐々木さんという方の別荘になるようです。学者の家系で本宅が青山にあったそうです。
イチョウの木は、昭和7年、子供の誕生を記念して苗木を購入してきて、植えたそうです。植えたのは敷地内で、外苑のイチョウ並木に憧れ、庭先に道を造ってイチョウ並木道にしたとか。
お金持ちの考えることは、スケールが違いますね・・・。というより、広大な土地を持っていないとできないことです。それとともに、イチョウの間隔が狭いのは、おそらく素人作業とか、イチョウの事をあまり知らない庭師の作業だったからなのでしょう。

*国土地理院地図を書き込んで使用
戦後の1940年代後半になると、付近に住宅が増えます。ミニイチョウ並木のあるお屋敷も様子が少し変わっていて、写真が不鮮明なのではっきりわかりませんが、大きな建物がなくなっているように見えます。
戦後になると、この界隈も騒々しくなり、別荘地を手放し、その土地を分譲したのでしょう。お金持ちは痕跡を残すのを嫌う人も少なくないから、建物も壊したのかな。と、すぐに思ったのですが、違いました。
なんと空襲に遭われ、別荘の建物が焼けてしまわれたとか。しかも青山の本宅の方も焼けてしまったということなので、とても大変な思いをされたようです。
別荘に使っていた建物は焼けてしまいましたが、敷地内に賃貸用に作っていた住居のうち6棟は無事でした。イチョウ並木が火を防いでくれたようです。戦後、佐々木家は松原へ移住し、その建物で暮らしました。

*国土地理院地図を書き込んで使用
1960年代になると、完全にお屋敷の土地は消滅し、今と同じような住宅地となっています。イチョウの木も確認でき、北側の道路には今よりも多く残っていたように見えます。
ちなみに、イチョウ並木のある道は、私有地にあった道路、いわゆる私道でしたが、後に区道に変更されています。
それから、百景の紹介文には、昭和初期のモダンな住宅が・・・・とありますが、これはイチョウ並木に気をとられてしまい、よく分かりませんでした。
このモダン住宅とは、佐々木家が賃貸用に作っていた住居の事で、選定当時は昭和11年に建てた西洋風洋館があったようです。いつ建て替えたのかは分かりませんが、あの狭い路地で気が付かなかったということは、訪れた2008年には、もう存在していなかったのでしょう。
この界隈は、1950~60年代に一斉に分譲された感じなので、今ある住宅はその時に土地を購入した人たちが建てた家屋が多いようです。
それも月日とともに古くなり、最近の様子をグーグルマップのストリートビューで見ると、モダンな感じの住宅がイチョウ並木の路地に並んでいるようです。現在では、時代が一回りして、令和のモダンな住宅が・・・といった感じのようです。

並木の中ほどにあるアパートです。名前の通り銀杏だらけでした。
モダンな住宅は気が付きませんでしたが、並木の途中にあった銀杏ロッヂには目を奪われてしまいました。なんかいいですね。名前の通り、銀杏に埋まっていました。
きっと道路の方も、大量に落ち葉が舞い落ちた日には、一面黄色の絨毯になってしまう事でしょう。イチョウの落ち葉が降り積もる細い路地。なかなかロマンチックに感じます。
しかし、落ち葉を掃除する近隣の住民の方は大変です。それに、イチョウがなければ道幅が広がり、車の出し入れが楽だったり、もう一回り大きな車を購入することもできそうです。
世代交代が進み、イチョウ並木の歴史を知らない今の人からすると、道楽でイチョウの木なんて植えるから、庶民が迷惑するんだよ。などと、金持ちが植えたイチョウの木を恨めしく思っているかもしれませんね。
2、感想など

部分的に切り取れば立派なイチョウ並木に見えるかも。
スマホのGPS機能とかない頃、バイクで紙の地図を見ながらこのミニイチョウ並木を目指したものの、見事に迷子になってしまいました。まさかこんなに細い路地だとは思っていなかったし、何よりこの辺は一方通行が多く、地元の人に道を聞いて、何とかバイクを押してたどり着けました。
実際にイチョウ並木を見ると、本当にミニイチョウ並木なんだ・・・と、納得。そして紅葉には微妙に早かったとはいえ、写真を撮っていても誰にも出会うことがありませんでした。
たどり着くことに苦労したせいか、ここは都会の路地の奥地にある秘境なのかもしれない・・・。などと、ちょっと探検気分で楽しむことができました。
とても小さな景色で、正直、感動的な景色とは程遠いのですが、楽しみ方は工夫次第。ミニいちょう並木らしい楽しみ方や、自分なりの面白さを探してみてください。それが散策の楽しさです。
せたがや百景 No.32松原のミニいちょう並木 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 松原6-22、23付近 |
---|---|
・アクセス | 最寄り駅は小田急線梅ヶ丘駅、あるいは井の頭線東松原駅。 |
・関連リンク | ーーー |
・備考 | ーーー |