北沢川緑道ユリの木公園
宮坂2丁目付近北沢川緑道でもこのあたりは都会的な趣きのある遊歩道だ。レンガタイルを敷き、芝生を植え、スツールが置かれていて、公園のような緑道となっている。近所の人々のゆきとどいた手入れで、いっそう心地よい憩いの空間となっている。(せたがや百景公式紹介文の引用)
1、ユリの木について


東側は世田谷線の山下駅前から始まります。
北沢川緑道は、代沢付近の桜並木に引き続いて2度目の登場です。場所的には、世田谷線の山下駅から小田急の経堂駅方面にかけてで、およそ600mほど直線的に緑道が続いています。
代沢付近では、桜並木と小川のようなせせらぎがあり、とても雰囲気のよい緑道となっていましたが、ここでは暗渠の上に緑道が整備されています。そして緑道に植えられている並木は、ユリの木・・・。
「えっ、ユリの木って、なに?」「百合といえば、球根から育つきれいな花の、いわゆる草としてなら知っているけど、百合に木なんてあるの?」と、緑道云々よりも、まずユリの木が木になった・・・、気になった人も多いかと思います。

ちょっと散りかけです・・・。チューリップの花にも似ています。
さて、ユリの木ですが・・・、他のサイトから仕入れた知識を自慢げに披露すると、ユリの木の正式な学名は「Liriodendron tulipifera」で、ギリシャ語の「leirion(ユリ)」と「dendron(樹木)」が語源となるモクレン科ユリノキ属の落葉高木です。外国では花の形からチューリップツリーと呼ばれているそうです。
花の開花は、5~6月頃。薄緑色でチューリップのような花を咲かせますが、高い位置にあるのと、葉っぱの色と似ているので、あまり目立ちません。花の香りも強烈ではないので、甘い香りに誘われて頭上を見上げるということもないです。

大きな葉を付けます。
「百合の木」ではなく、植物名が「ユリノキ」というのが正式なのですね。少々紛らわしい命名となっているのですが、これには有名な話があって、明治23年、後の大正天皇が小石川植物園を訪れた際に、日本最古のユリノキ種の木を見て、「ユリの木」と命名したそうです。
チューリップ自体がユリ科の植物なので、チューリップツリーでも、ユリノキ(ユリの木)でも、同じようなものかもしれません。
その他にも、この木は大きな葉を付けるのですが、その葉っぱの形から「半纏(はんてん)木」、「奴凧(やっこだこ)の木」、「軍配(ぐんばい)の木」とも呼ばれているようで、この植物の別称の多さにビックリさせられます。
2、北沢川緑道ユリの木公園について

せたがや界隈賞にも選ばれていました。

山下駅から西へ続く北沢川緑道は、ユリの木緑道ではなく、ユリの木公園と名付けられています。緑道自体が公園の管轄なので、公園と名がついていても不思議ではないのですが、600mと長い緑道なので、公園と名がついていることに少し違和感を感じてしまいます。
緑道内に設置されている通路は、わざわざ川のように蛇行させてあり、その路面にはレンガが敷き詰められています。ユリノキがそびえる並木と、レンガの道。木々の手入れも行き届いていて、ちょっとヨーロッパ的な雰囲気を感じる人もいるかと思います。
このレンガを敷き詰めた遊歩道と、ユリノキとの調和したデザインが評価され、第二回せたがや界隈賞も受賞しています。せたがや界隈賞は過去の遺物となってしまいましたが、現在でも受賞の記念板が設置されています。

*国土地理院地図を書き込んで使用
緑道ができる前は、どんな風景だったのでしょう。戦前の写真を見ると、まだ手つかずの昔の世田谷といった感じで、北沢川も蛇行して流れていて、周辺は畑ばかりです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
戦前後になると、北沢川が真っすぐに整備され、周辺地域も耕地整理が行われています。ただ、相変わらずこの界隈は畑ばかりです。

*国土地理院地図を書き込んで使用
1980年頃の写真では、北沢川が埋め立てられ、緑道となっているのが確認できます。そして、これは1960年代からそうでしたが、周辺はびっしりと住宅で埋め尽くされています。
緑道に等間隔で木が植えられているのを確認できるので、これがユリノキとなるはずです。植えられてからまだそんなに月日が経っていないので、枝ぶりも小さく、隣の木に届いていません。

道も木もまっすぐ伸びています。
なぜ緑道を整備するにあたり、ユリノキを街路樹に選んだのか。なぜ、世間で流行っている桜や、一般的なイチョウじゃなかったのか。興味を惹かれる部分です。
この緑道を整備するにあたって、行政と付近の住民との意見交換があり、行政が住民になんの木を植えたいのかを考えてもらうと、ユリノキを要望してきました。
誰が提案したんだろう。なんでユリノキだったのだろう。更なる疑問が湧いてきます。
これについては百景の冊子載っていて、住民で意見交換した際に、桜にしようか、世田谷区の木であるケヤキにしようかといった意見があったそうです。
しかし、どこもかしこも同じような木ばかりではなんだし、ケヤキは育つのに何十年もかかる。育ちがよくてモダンな木にしようではないかということになり、ユリノキになったそうです。
行政が候補と挙げていた中にユリノキがあったのか、自分たちで調べて提案したのかは分かりませんが、どこもかしこも桜並木やケヤキ並木、イチョウ並木、ハナミズキ並木では芸がないので、この地域ならではの特徴ができ、ユリノキを植えて正解だったのではないでしょうか。

道路に沿ってひたすらまっすぐ並木が続いています。
ユリノキは多くの大きな葉を付け、夏は涼しげな木陰をつくるので、街路樹にはふさわしい木だといえます。調べてみると、ユリノキが街路樹となっている場所はそれなりに各地にあるようです。
調べる前は、ユリノキの街路樹とはなんて珍しいんだろう。もしかして東京でもここだけだったりして・・・などと、意気揚々と調べ始めたのですが、もの凄く珍しい木でも街路樹でもなく、ガッカリしてしまいました。
東京でユリノキが街路樹となっているのは、皇居の周りの内堀通り(半蔵門から桜田門付近)や、赤坂の迎賓館前などです。って、例えを皇室関係ばかりにすると、ユリノキが高貴だったり、特別感があっていいですね。ちょっとした印象操作ですが、これって大正天皇の命名の影響でしょうか・・・。

緑一色からカラフルな並木になります。
春から秋までは緑一色の固い印象を受けるユリノキの緑道ですが、葉が紅葉する晩秋に訪れてみると、一転して明るい雰囲気になっていました。緑の印象が強烈だったので、ここまで雰囲気が変わっていることに驚きました。

緑から茶色まで様々な色で構成されています。
ユリノキは葉が大きいので、緑色の葉、黄色くなった葉、茶色くなってしまった葉の一つ一つが、遠目からでもはっきりとわかり、それがモザイク画、或いは点画のような感じになります。
世間一般的には、まだらになる紅葉というのはあまり美しくないのでしょうが、これはこれでありではないでしょうか。なんていうか、モザイクタイルをちりばめたようで、美しいというよりは、楽しい気分になります。こういった紅葉もいいものです。

この時期の散策は、落ち葉で歩きにくいという難点もあります。
ユリノキは落葉樹なので、紅葉した葉が地面に落ちるのは、自然の理。どさっといった感じで、緑道内に落ち葉がたまっていました。やはり一つ一つの葉が大きいのでかさばり、後片付けも大変です。
それに大きな葉というのは、風で飛びやすいです。奴凧(やっこだこ)の木といった別称もあるぐらいなので、並木に面していないお宅でも、風が強い日には凧のように風に乗って葉が大量に飛んでくるということがあるかもしれません。
後は、結構背が高くなる木なので、枝の剪定などの手入れが他の木よりも大変かもしれません。
3、感想など

一日ごとに色合いが異なっていて、朝の散歩も楽しそうです。
ユリの木ってどんな木だろう?と、興味津々に訪れたユリの木公園ですが、期待しすぎたせいか普通の木でした。でも、ユリノキについての知識が増え、町を歩いている際にユリノキが植えられていると、気が付くようになりました。ユリノキと知り合うきっかけになった場所になるでしょうか。
ユリノキはきれいな花を咲かせるわけでもなく、イチョウのようにきれいに紅葉するわけではありませんが、色とりどりに紅葉した様子はとても面白く感じました。
年ごとに変わるユリノキのモザイク模様は、ユリノキアートといった表現がピッタリ。日々の散歩もアート鑑賞のような気分になり、緑道を訪れるのが楽しくなりそうです。
せたがや百景 No.31北沢川緑道ユリの木公園 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 宮坂2丁目付近 |
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・アクセス | 最寄り駅は小田急線豪徳寺駅、世田谷線山下駅。 |
・関連リンク | ーーー |
・備考 | 5~6月頃がユリノキの花の開花時期 |