大ケヤキのある散歩道
奥沢2丁目12~22番に東西にのびる道路この界わいは、海軍村と呼ばれていた。大正13年に、海軍士官の親睦団体「水交社」に事務所を置く水交住宅組合によって住宅地として開発された場所である。洋風住宅が多かった。大ケヤキは保存樹木の指定を受けている。No.386 (紹介文の引用)
1、大ケヤキのある散歩道について

*国土地理院地図を書き込んで使用
世田谷区の南端に、奥沢の町域があります。その奥沢の2丁目にあるケヤキのある風景が、地域風景資産に選ばれています。
世の中には色々といい風景というのがありますが、感じ方は人それぞれです。例えば写真の話ですが、自分で撮った写真を自分が見て、なんていい写真と判断するのは何の問題もないのですが、自分がいいと思った写真でも、見せられた人がいい写真と感じるとは限りません。
むしろ、「いい写真だろ」と、得意気に写真を見せられても、見せられた人がいい写真と感じなければ、単なる迷惑行為です。
風景でも、そこに暮らす人にとっては、いい景色や思い出の詰まった風景と感じても、他から訪れた人には「なんだ~。たいしたことないじゃない。」って感じることもありますし、その逆で、土地の人にはあきりたりな風景が、他の地域の人には、素晴らしい風景と感じたり、珍しい風景に感じることもあります。
この「大ケヤキのある散歩道-けやき道」もそうで、ケヤキのある散歩道というからには、きっと感動するほどの大ケヤキの木があるのだろう。少なくとも松原のミニイチョウ並木(せたがや百景32)よりも、感動的な風景となっているはず。などと思いながらと訪れたのですが、・・・どこ?もしかしてこの木のこと・・・といった失望を感じてしまいました。

ケヤキの木はあるけど、普通の・・・、いや高級住宅地といった感じです。

この地域に多い、海軍村の象徴であるシュロの木もあります。
ただ、訪問してからしばらくして、この項目の特集が組まれた風景づくり通信を読む機会がありました。それを読むと、「選定後すぐに所有者が土地を売却してしまい、新しい所有者に事情を説明し、なんとかケヤキの木だけはお願いして残してもらった」と書かれていました。
その際に、ケヤキの木の位置も変わってしまい、現在のようなありふれた住宅地といった感じの風景となってしまったようです。寛容な方が新たな土地の所有者となられてよかったですね。風景は変わってしまいましたが、ケヤキが残されたのですから。もし、私なら・・・。

*国土地理院地図を書き込んで使用

*国土地理院地図を書き込んで使用
なんだ。そういうことだったのか・・・。これで納得しました。さすがに現状では、散歩道の象徴と呼ぶのにふさわしいとは言えない風景でしたから。
今後、今回のように土地の所有者が変わったり、大きな敷地が分譲されることで、その土地に生えている大きな木の扱いに困るということが増えていきそうです。
大きな木は場所をとるだけではなく、木の葉で庭が陰になったり、枝の剪定やら落ち葉の手入れ、鳥が多く訪れれば糞害にも気を付けなければなりません。それ相応の覚悟と財力と、寛容性がないと、手に負えないでしょう。

この界隈は敷地に立派な木があるお宅が多いです。

段々と少なくなってきましたが、緑に囲まれた家もあります。
ケヤキのある風景はいまいちでしたが、それは表面的な部分に過ぎず、地域風景資産の対象となっているのは、もっと目に見えにくい部分にもありました。
それは、ボランティアによる町の落ち葉掃きプロジェクトを始めとした、地域をあげての緑の保全活動です。

*国土地理院地図を書き込んで使用
この大ケヤキがある周辺は、奥沢海軍ゆかりの村があった古くからの住宅街であり、各お宅に立派な垣根や樹木がある地域でもあります。(*風景資産2-13参照)
そういった緑豊かな環境も、住民の高齢化や相続等で手放す人が増えると、敷地を分譲したり、再開発されたりすることも多くなり、徐々に緑が少なくなってきました。
そこで、町全体で各個人の家にある木を守ったり、緑を増やそうといった活動をはじめる事になりました。とはいえ、2017年の航空写真を見ても、まだまだ緑が多く残っていることが分かります。

緑に囲まれてとてもいい雰囲気の掲示板です。
具体的には、土地所有者の負担を軽減しようと、区の「地域の絆再生支援事業」の助成を受けて、地元の有志などで落ち葉掃きを行っています。
日本の木は落葉樹が多く、葉が落葉する秋には落ち葉の掃除が大変です。特にお年寄りだけで守っている家では、道路などに散らばった落ち葉を掃除するのが、苦痛な作業になります。これを助け、木を切らなくてもいいようにし、木のある町の風景を守っています。
桜並木など、公道の樹木の落ち葉掃きを地域で行っている事は多くても、個人の土地を含め、町全体の落ち葉掃きを行っている地域は、とても珍しいのではないでしょうか。

(*イラスト:ACworksさん 【イラストAC】)
こういうのは一人でやろうと思うと苦痛に感じますが、みんなでやれば意外と楽しかったり、地域の絆が強まったりするものです。とてもいい試みだと思います。
また、街角に掲示板を設置したり、花の苗の交換を行ったり、奥沢グリーンマップを作成したりといった活動も行っているようです。
2、感想など

枝ぶりが寂しい時に訪れたので、いまいち雰囲気を感じられなかったです。
風景資産に選ばれている大ケヤキは、他の地域から訪れる人、いわゆる散策目線で見るなら、少し残念な姿になってしまいました。
でも、それはそこで暮らしている人たちには表面的な問題でしかなく、むしろ緑を守ろうといった住民活動の象徴になっているのかもしれません。
地域の思いが詰まったからこそ地域資産に選定されたケヤキの木。今後も地域の結束を強めるシンボルとして、この場所にあり続けてもらいたいものです。
せたがや地域風景資産 #1-20大ケヤキのある散歩道 2025年5月改訂 - 風の旅人
・地図・アクセス等
・住所 | 奥沢2丁目23-21(大ケヤキ)道15~22番付近 |
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・アクセス | 最寄り駅は東急大井町線緑が丘駅、あるいは目黒線奥沢駅。 |
・関連リンク | 土とみどりを守る会 |
・備考 | 選定当時と風景が変わっています。 |