* 世田谷区役所について *
世田谷の行政の中心地は・・・、って書くまでもないのでしょうが世田谷4丁目にある世田谷区役所です。第2庁舎には区議会が入っているので、ここで高給取りの区議が区民のための政治や条例について一生懸命話し合っている・・・・はずです。
それよりも一般の人が区役所といって真っ先に連想するのは戸籍関係でしょうか。入籍、除籍、在籍証明等々の事務手続きを行っている場所となるのですが、そういった戸籍の管理はもちろん、区立の学校、公園、道路、果ては景観などといった事まで様々な区内の事柄の管理も行っています。
ちなみに室町時代から江戸時代以前の行政の中心は世田谷城になり、現在の世田谷城址公園や豪徳寺のある豪徳寺2丁目で、区役所からは烏山川緑道を挟んだ西側です。江戸時代になると代官屋敷となり、ボロ市で有名なボロ市通りがある世田谷1丁目になり、区役所からは世田谷線や世田谷通りを挟んだ南側になります。そう考えると昔から変わらず区役所の近辺が世田谷の中心だったといえます。
行政の中心である区役所なのですが、区民の方で内部にまで訪れたことがあるというのはどれ位の割合になるのでしょうか?思っているよりも少ないように思います。地方ではありえないのですが、人口の多い都会では総合支所や出張所が多くあり、区役所のある周辺の住民以外はわざわざ区役所へ訪れなくても自転車に乗って近くの出張所で各種事務手続きを済ますことができるようになっています。
って、ちょっと皮肉めいた書き方になってしまいましたが、これは地方に住んだ人間の視点です。でも実際問題として住民を79万人も抱えると混雑を避けるためにも一箇所に集中させるわけにもいかないといった事情もあります。
どうしても区役所まで来なければならない用は・・・、なんでしょう?冊子とかを見たのですが、事務手続きは全部出張所で行える感じです。区政への相談とかそういった類ぐらいでしょうか。ただ周辺に都税事務所とか、法務局の出張所、年金事務所などがあるので、相続などで一度に手続きをしたいといった場合などは便利です。
区役所の一角というか、隣接するような形で世田谷区民会館があります。この区民会館は世田谷区役所と同時期に建てられたもので、区役所と一体感のあるデザインとなっています。
内部は座席数が1200もあるホールがあり、これは区内最大級の大型施設となり、コンサートや集会などといった比較的大きなイベントが開催されます。世田谷区で育った人で多くの人が関わることで言うなら成人の日にはここで成人式が行われます。こういったイベントで区民会館を訪れたときに区役所に訪れたというか、見たといった人も多いかもしれません。
さてタイトルになっているけやき並木ですが、世田谷通りから区役所へ続いている道側に立派なケヤキが並んでいます。区役所のケヤキと聞いてこのケヤキを思い浮かべた人も多いはずです。区民会館が建てられたのが昭和34年、そして区役所第一庁舎が建てられたのが昭和35年になり、その時に植樹されたものです。
ケヤキといえば世田谷区の樹。そういった事情で植えられたのかと思ったのですが、区の樹として指定されるのは後の昭和43年でした。ケヤキの木が多い土地柄なので、特に理由もなく植えられたのでしょうか。それとも防災のためでしょうか。空襲の際に大ケヤキのおかげで焼失を免れたといった話は区内にもいくつかありますし・・・、とあれこれ考えてみるものの、資料がないのでわかりません。
区役所と区民会館が接する中庭は開放感ある広場となっていて、こちらにもケヤキが植えられています。こちらのケヤキは第一庁舎が建てられた昭和35年当時の写真には写っていないので、後年に植樹されたことになります。
昭和44年にはこの広場と道路を挟んだ向かいに第二庁舎が建てられているので、その時に広場も一緒に整備されたのかも・・・。って勝手な想像です。あまり資料がないので色々と曖昧ですが、この広場に立つと周囲に独特の風景があり、これが風景資産の本題になります。
広場について書く前に、まずこの区役所と区民会館の建物をどう感じますか。いずれも打ち放しコンクリートで仕上げられているので、いかにも昭和的な建物であり、特に区役所の方はかつて日本中にあった典型的な役所っぽい建物にも感じます。
でもそこまで建物から圧迫感を感じないし、むしろとても調和された印象を受けるのではないでしょうか。もちろんこれは私の感じた印象なので、人それぞれ印象は違うかもしれませんし、全く印象にも残っていないという人もいるかもしれません。
この区役所や区民会館の建物を手がけたのは建築家前川國男氏で、ル・コルビュジエに師事した経歴を持っています。ル・コルビュジエは「デザイナーのふりをした芸術家」と評された人物です。現在の感覚ではデザイナーというと機能美とか調和とか斬新さとかそういった美しさを組み込むデザインをする人といった認識が一般的ですが、昔はいかに予算内で材料を機能的に組み合わせるということを考えるのが役割でした。今で言うならエンジニアといった感じです。そういった無駄のない機能的な建造物の中に自分の感性をさりげなく取り入れたのがル・コルビュジエで、彼に師事した前川國男氏が手掛けたこの区役所の建物群にも見受けられます。
そういう観点で見てみると、コンクリートむき出しの建物ながら隅に取り付けられている煙突のような円筒部分などはユニークであり、区民会館の方も上部のコンクリートがひだのようになっている部分はシンプルかつ美しいものです。細かく見ていくとキリがないのですが、コンクリートを打ち放しにすることで工費を節約し、機能的なことを求められた工業製品の中に最大限の芸術性を組み込んだといっても過言ではないかと思います。だから広場に立ったときにコンクリートむき出しといった建物に囲まれていながらも、寒々しいイメージとか、圧迫感をあまり感じないのです。