世田谷散策記 タイトル
せたがや地域風景資産 #2-7

登録有形文化財の萩原邸

三宿1丁目15-2

三宿の静かな住宅地の路地に面して建つ萩原邸は、大正13年に建築家フランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新の設計で建てられた近代住宅で、ライト建築の特徴が見られます。国の「登録有形文化財」になっています。(紹介文の引用)

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1、萩原邸について

三宿の萩原邸の写真
萩原邸(2011年)

路地の奥の方にあります。

三宿の住宅地の中に、国の登録有形文化財に指定されている萩原さんのお宅があります。

文化財に指定されているし、どこぞの有名な方が設計したという話。とんでもなく凄い建物なんだろうな。きっとひときわ目立っているんだろうな・・・と、期待しながら訪れました。

萩原邸があるのは入り組んだ路地の奥。スマホがなかった時代なので、まず、たどり着くのに苦労しました。地図を片手にたどり着いてみると、想像していたほど特別な感じではなく、普通の住宅とあまり変わらない佇まいのお宅でした。

近年では建築方法や建材の進化、パソコンやインターネットの普及で柔軟にデザインが行えるようになり、建築家やデザイナーも独自性を出すために様々な努力をしているので、世田谷の住宅地を歩いていると、凝った建物がよく目に入ってきます。

そういった建物を常日頃見慣れているのと、ちゃんとした知識がなかったので、最初に対面した時の第一印象は「確かに立派な邸宅なんだけど・・・、なんか普通な感じ。本当にここだよね・・・。」といったものでした。

建築に興味がある人ならともかく、私のように知識のない人間がこの建物の前を歩いても、特に気にすることなく通り過ぎてしまうのではないでしょうか。

三宿の萩原邸 路地にある様子の写真
路地にある様子

 遠目で見ると、二階に大きな窓がある家といった感じです。

なぜこの建物が登録有形文化財に指定されているかというと、近代建築の三大巨匠といわれるアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新氏の設計によるものだからです。

ライト氏の建築は水平を強調するデザインが特徴的で、日本では帝国ホテル、山邑邸、自由学園明日館などが知られています。

そういった視線で改めて萩原邸を見ると、屋根や玄関、窓枠などの水平が強調されているのが分かります。

それを踏まえたうえで、少し離れて日本の住宅地のカクカクした区画や塀などを含めて見てみると、水平が強調されている分、その存在がひと際引き立っているような・・・感じがします。あくまでも素人意見ですが・・・。

三宿の萩原邸 横から見た萩原邸の写真
横から見た萩原邸

想像していたよりも普通の感じのお宅です。

この建物は大正13年に設計されたもので、昭和7年に2階部分の増築が行われました。これは予め予定されていた増築で、2階部分を増築する前提で設計されていたようです。

その後は暮らす人とともに歴史と小さな修繕を積み重ねていき、平成3年(1991年)には、音楽室の増築と母屋の大規模な修繕が行われました。

外観的には、水平基調が強調されている以外では、後で増築された二階部分の窓や屋根が大きいのが目につきます。増築部分も遠藤新氏が手がけたのでしょうか。それとも別の方がデザインを合わせて設計したのでしょうか。ちょっと気になります。

それ以外は、遠藤氏の建築の特徴である周囲の環境と調和する「有機的建築」の思想や、「外部に対して圧迫感を与えない意匠」の通りといった感じで、悪目立ちすることもなく、普通な感じの家といった感じでしょうか。

思ったよりも存在感がないというか、大きさ的にも・・・と思ったのですが、航空写真を見ると、路地から見える部分は少しだけで、奥にも家が続いていて、広い庭もありました。有名な建築家に依頼するぐらいですから、当然というか、古くからのお屋敷になるようです。

2017年の萩原邸の航空写真(国土地理院)
2017年の萩原邸

国土地理院地図を書き込んで使用

萩原邸の間取り(萩原家住宅の資料より引用)
萩原邸の間取り

*萩原家住宅の資料より引用

内部の書斎には、遠藤新設計の本棚や家具類も当時のままの姿で残されているそうです。そういった家具も含めて、平成12年(2000年)に国の登録有形文化財に指定されました。

私が訪問した2011年時には、敷地内に子供用の自転車などが置かれていたり、お洒落な植木鉢や置物が置かれていて、生活感を感じられる状態でした。当然、内部の見学はできませんでした。

ただ、NGO団体のせたがや街並保存再生の会の町歩き見学会などで内部を見学できたり、20名ほどの観客を募集して「大正ロマンあふれるサロンコンサート」といったプロの演奏家を招いたコンサートを広い音楽室で行ったりしていました。

家主が内部を公開するのに前向きな方のようなので、建築に興味のある方はそういった機会などを利用すれば内部を見学できたり、家主にお話を伺うことができました。

ヴァイオリニストのイメージ(*イラスト:*ぱんこ*さん)

(*イラスト:*ぱんこ*さん 【イラストAC】

萩原邸の家主、萩原さんって何者。文化財になるようなしっかりとした家に住んでいるし、とても社交的な方だし・・・と、興味がわいてきます。

2024年にホームページの更新をしようと、久しぶりに検索をしたら、新たに萩原邸の公式サイトが出来上がっていました。それを見ると、音楽家(ヴァイオリニスト)の萩原淑子さんの実家になり、この家を建てたのは祖父になるようです。

プロフィールを見ると、萩原さんは高校からヨーロッパに渡って、在学中から音楽活動をしているといったなかなか凄い人。いわゆる一流の音楽家です。ただモノではないと感じていましたが、萩原邸に音楽室があったり、コンサートが行われていた理由が分かりました。

現在は文化財となっている住居では暮らしていなく、有料の貸しスタジオ的に使用されているようです。公式サイトには萩原邸の内部の写真がたくさん載っているのですが、それを見ると、建物内は大正ロマンとか、雰囲気のいいレトロな喫茶店といった感じで、とても素敵な空間になっていました。

2、感想など

三宿の萩原邸 ニャンコと萩原邸の写真
ニャンコと萩原邸

猫が置物などに交じって萩原邸の警備をしていました。

キャロットタワーの展望台から世田谷を眺めると、見渡す限り地面が住宅で埋め尽くされていることにビックリします。

木を隠すなら森の中。建築を隠すなら住宅地の中に・・・。って、隠しているわけではありませんが、これだけ建物が密集している状態では、遠藤新の設計で建てられた名建築も多くある住宅の一つ。特に目立たないのが現状でしょうか。

素人目にはあまり特別感がなかった建物ですが、ここの家主さんがこの建物に深い愛情を持ち、とても大切に使い続けていることはしっかりと感じました(2011年時点)。

現在では住まいとしては使われていないようですが、個人の家主さんにここまで大事にされてきた建物も少ないのではないでしょうか。

せたがや地域風景資産 #2-7
登録有形文化財の萩原邸
2025年5月改訂 - 風の旅人
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・地図・アクセス等

・住所三宿一丁目15-2(個人のお宅です)
・アクセス最寄り駅は田園都市線池尻大橋駅、三軒茶屋駅。
・関連リンク萩原家住宅 公式サイト
・備考登録有形文化財。個人のお宅なので内部は公開日以外非公開です。
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