#47 マーライオン
シンガポール 2000年5月Singapore / May.2000
(*写真:PONmalaysiaさん 【イラストAC】)
シンガポールの象徴といえば、なんといってもマーライオン。マーライオンは上半身がライオンで、下半身が魚の姿をした空想上の生き物。簡単に書くなら人魚(マーメイド)のライオン版になる。
日本人的には、たてがみが長い髪のように見え、雰囲気的にアマビエ(疫病封じの妖怪)に似ているように感じる人も多いのではないだろうか。
このマーライオン。なぜライオンと魚が合体しているのだろうか。どういった由緒があるのだろうか。少しうんちくを書いてみよう。
シンガポールという国名は、マレー語の「シンガプーラ」が英語化したもの。「シンガプーラ」は、マレー語で「ライオンの町」を意味する。
シンガは、サンスクリット語で「ライオン」を意味する「シンハー」がマレー語で訛ったものである。シンハーといえば、タイのシンハー・ビールを思い浮かべる人が多いと思うが、シンハービールも同じくライオン(獅子)に由来している。
「ライオンの町」というからには、過去にライオンがたくさん生息していたと思いがちだが、スマトラの王子だったサン・ニラ・ウタマがシンガポール島に上陸した時に、ライオンらしきものを島の海岸で見つけたという伝説に由来している。
しかし、シンガポールにライオンがいた事実はなく、トラを見間違えたのでは……というオチもあったりする。
旧型(以下全て2000年のもの)
ライオンはいなかったけど、ライオンの名が付いた町、シンガポール。今ではマーライオンの像を筆頭に様々な見所が造られ、観光客が滞在を楽しんでいる。
しかし、昔はたいして目玉になるものがなかった。そこで観光政策の一環として、空想の生き物、マーライオンを生みだし、1972年、地元彫刻家のリム・ナン・センによって、アンダーソン橋近くの川沿いにその像が造られた。
とても有名な像だし、シンガポールを象徴する存在なので、シンガポールを訪れる旅行者の多くが見に行くことを楽しみにしているだろう。しかし、このマーライオン、旅人の間では「世界三大がっかり」の一つという、不名誉な称号を与えられてしまっている。
2002年に再開発によって海沿いの現在の場所に移されているので、私が訪れた当時と現在では設置されている場所や処遇が異なっている。
今でもそういう言われ方をしているのかはわからないが、期待して訪れると、「小さくてガッカリした」とか「いたって普通の像だった」などといった感想が多い。ビルの中に埋もれてしまう立地や、口から水を吹き出させるポンプが壊れたままになっていたことに問題があったともいえる。
こういう象徴的な観光オブジェは、そこへ向かいながら期待が高められていくので、対面したときには出発前よりも期待が何倍にも膨れ上がっているもの。なので、余程のものでない限り、例えばエジプトのピラミッドのような圧倒的な存在でない限り、なかなか期待に応えるのは難しいように思う。
下からライトを当てるので、かなり不気味……。アマビエのようでした。
それに三大ガッカリだと声高に言われていた頃は、シンガポールには現在のように世界的に有名な観光名勝がなく、マーライオンが訪れる人々の期待を一身に背負っていたという背景もある。
逆に、三大ガッカリとはどれだけガッカリするのだろう。と、ワクワクしながら訪れると、全然ガッカリしないじゃないかと、これまた微妙な感想になったりもする。なんとも厄介な称号が付けられたものだ。
この世界三大ガッカリという表現をしているのは、日本人の旅人(バックパッカー)だけだという説もある。では、なぜそのように言われるようになったのだろうか。当時、日本人の旅人がシンガポールで満足していたものはというと、実は吉野家の牛丼だった。
(*イラスト:おきあみさん 【イラストAC】)
この当時は東南アジアで日本の牛丼を食べられるのはシンガポールだけ。しかし、バックパッカーにとってシンガポールは物価が高いし、入国審査が厳しいし、見所が多くないしと、あまり魅力的な国ではなかった。
でも、訪れれば旅人のステータスである訪問国数が増えるし、吉野家の牛丼が食べられる。だったら頑張って行くかとなり、日系デパートにある吉野家で牛丼を食べて満足し、せっかく来たなら有名なマーライオンでも見て行くかという旅人が多かった。
長く海外を旅したことのある人しか理解しにくいかもしれないが、海外で食べる吉野家の満足感やインパクトに隠れる形で、マーライオンががっかりの象徴になってしまったというのが、理由の一つとして挙げられる。
もう一つは、予算の限られたバックパッカーは財布のひもが固い。要はケチなのだ。それゆえに、それなりに費用をかけてやって来たのに……といった思いも付け加わったのだろう。などと考察してみる。
(*写真:aona240さん 【イラストAC】)
ちなみに他にガッカリと言われているのは、デンマークのコペンハーゲンにある「人魚姫の像」と、ベルギーの「小便小僧の像」。実際に訪れたことはないが、写真を見る限りでは小さな像で、あまり存在感がない。
日本で言えば札幌の時計台とか、はりまや橋と同じような感じだろうか。広島の原爆ドームや宮島の鳥居でさえも「思ったよりも小さい」といった感想が多かったりする。そう、期待に胸を膨らませて訪れる旅人はわがままなのである。
*ユニバーサルスタジオができる前
小さくてガッカリとされていたマーライオンだったが、シンガポール市内のすぐ南に浮かぶセントーサ島には巨大なマーライオンの像が鎮座していた。
高さは37メートル。内部は展望台になっていて、夜にはライトアップやレーザー光線の照射など、スペックだけを見ればなかなか凄い。
しかし、これだったらガッカリしない……とはならず、「ただ大きいだけ……」という評価で、こちらの評判もあまりよろしくなかった。特に地元の人からは、マーライオンにしてマーライオンに非ずといった酷評を受けていたそうだ。
残念ながら、2019年に再開発が行われ、この巨大なマーライオンの像は新エリア(センサ・リッジウォークなど)の開発のため跡形もなく取り壊されてしまった。
#47 マーライオン