#39 猿の町、ロッブリー
タイ ロッブリー 2000年10月Lopburi,Thai / Oct.2000
(*イラスト:asakuracさん 【イラストAC】)
昔からタイは微笑みの国と言われている。人々は優しく、寛容で……などと思うかは、やはり出会った人次第になるだろう。詐欺に遭ったり、トラブルに巻き込まれた人は、「何言ってるんだ。タイ人は最低だ!」となるかもしれない。
ただ、寛容な部分は事実で、とりわけ動物に対しての寛容度は日本と比べ物にならない。町を歩いていると、野良犬や野良猫を目にする機会が多い(*宗教的な理由もある)。
そんなタイでは猿が人間と共存している町がある。それはなかなか興味深い。ぜひともこの目で見ておきたい。ということで、訪れてみることにした。
猿の町として名をはせているのはロッブリー。アユタヤよりも少し北に位置している。
町を歩くと、猿だらけ……ということはなく、ロッブリー駅の北側にあるプラカーン祠及びプラーン・サームヨート遺跡がねぐらとなっていて、その周辺に猿が多かった。
ロッブリー(Lopburi / ลพบุรี)、Thai Oct.2000 *All below
歩いていると、屋台の横で何かをもらえないかと、猿たちが待っていた。その様子はなかなか微笑ましく、まるで犬や猫のようだった。このように大人しければ、猿も可愛らしく思えるものだ。
ここにいる猿はカニクイザルという種類。広く東南アジアに分布していて、浜辺に生息している個体はカニを食べることからカニクイザルという名が付いたという。ただ、これは例外的な行為で、普段は植物を中心とした雑食だそうだ。
プラーン・サームヨート遺跡を訪れてみると、猿の遺跡と化していた。日本でこういう場所を訪れると、「持ち物に注意しましょう。特に眼鏡をかけている人は気を付けてください」と、注意を受けるのだが、ここではそんな注意書きはない。というより、あまり猿たちは人間に興味を示さず、そばを歩いてもどこ吹く風だった。
それにしても……、ほどほどに猿がいるのなら、「わぁ~、猿がさくさんいる。面白い」とか、「遺跡に猿がいると南国的な雰囲気がしていいね」などと好意的に思うものだが、沢山の猿が遺跡を占拠するようにいると、そんなほのぼのとした感情は湧き上がってこない。
圧倒的な数の猿に対して、人間は自分一人。「人間、何しにやって来た。ここは我々の場所だ!」というような圧を感じ、怖く感じるのだ。そう、まるで自分が動物園の猿山に入り込んでしまったかのような気分になる。
一般的に猿は手を器用に使えたり、高い所へ軽々と登れる分、犬や猫よりも悪さの度合いが強い。人間との共存は難しそうに感じるが、遺跡やその周辺以外では猿に出会う事もなかったので、当時は人間と猿がうまく折り合いをつけ、共存できているように見えた。
なので、猿がいる町というのも個性があってなかなか面白い。さすが微笑みの国タイだな……と感心し、ロッブリーを後にした。2000年当時はそんなのどかな時代だったのだ。
しかしその後、状況は一変する。観光客による餌付けが一般化し、猿が激増。増え過ぎて困っていたところへ新型コロナウイルスの世界的な流行が発生した。
餌をくれていた観光客が激減し、餌が足りなくなった猿が暴徒化し、人間社会へ生活圏を広げてきたので、町は混乱に陥ってしまった。
「猿に占拠された町」「猿害に苦しむ町」そんなセンセーショナルな見出しのニュースが、やがて世界中を駆け巡ることになる。
しかし、タイ政府も黙ってはいなかった。2024年から猿の大規模捕獲作戦が行われ、捕獲された猿は避妊を施し、保護施設に送られていった。その効果が表れ、まだ一部には猿がいるものの、昔のように穏やかな町に戻ったとのことだ。
微笑みの国の住民であるタイ人をもってしても、猿と共存するのは難しかったようだ……。この顛末は人類にとっていい教訓になるかもしれない。
#39 猿の町、ロッブリー