#29 ムイネのワンコたち
ベトナム ムイネ 2000年3月、2001年9月Mui Ne,Vietnam / Mar.2000,Sep.2001
ベトナムの南部、ホーチミンから東へ100キロほどの海沿いに、ビントゥアン省の省都ファンティエットがある。このファンティエットから東へ15キロほど進んだ小さな半島部分に、ムイネの町がある。
ムイネはベトナム語でMũi Né。簡単そうだが意外と発音が難しく、日本語の「眠いね(ねむいね)」から最初の「ね」を取った「むいね」の発音がしっくりくる。そのため「ムイネー」と書いてあるものが多いが、個人的には「ムイネッ」と短く切る方が適切だと思っている。
などと少し通ぶって書いたのは、ここにほんの少しの間だけ暮らしていたことがあるからだ。その時に撮った犬の写真を紹介していこう。
ムイネには半島で守られた大きな湾があり、天然の港を利用して古くから漁業が盛んに行われてきた。
私が訪れた2000年当時は、「少し大きめの漁村」と表現するのがぴったりな規模だった。それが今やホーチミンから気軽に訪れることのできるビーチリゾート地として人気が高まり、国内外からの観光客が急増している。
ベトナムの経済成長も相まって、文字通り急激な発展を遂げているようだ。現在では「小さな町」あるいは「活気あるリゾートの町」と表現するほうがしっくりくるかもしれない。
ムイネ(Mui Ne / Mũi Né)、Vietnam Sep.2001
私が訪れたときはまだ漁村の色が濃く、水揚げされる浜では魚を人力で運んだり、選別したり、干したりと、素朴ながらもとても活気にあふれていた。
そういった風景の中にワンコがいたりすると、とてもノスタルジックな光景に感じる。昔の日本の漁村もこういった風景にあふれていたに違いない。
ムイネ(Mui Ne / Mũi Né)、Vietnam Mar.2000
ムイネ(Mui Ne / Mũi Né)、Vietnam Mar.2000
夕方の浜辺は、西日を浴びながら子供たちが遊びまわったり、地引網で漁をしたり、網の手入れを行ったり、体を洗うのを兼ねて海に入ったりと、漁村ならではの素敵な情景になる。私のお気に入りの時間帯だ。
ムイネの海の風景や漁村の情景は本当に魅力的なのだが、唯一、どうしても目をつぶれない部分がある。それは、浜辺に異様なほどゴミが多いことだ(陸地にも多いが……)。
日本の感覚でゴミが多いと書いても、ちょっと多い程度に感じる人が多いと思うが、ここはビックリするほどゴミだらけ。「自分たちの海なんだからもっときれいに使おうよ」と切に思ってしまう。
ムイネ(Mui Ne / Mũi Né)、Vietnam Sep.2001
ムイネは大きな湾があり、天然の漁港ではあるが、岸壁の整備された港ではない。船は沖に係留(沖止め)したり、浜に上げて保管している。
船を沖に出したり、浜に上げるのは人力。シーソーのように揺らしながら移動させる。また沖の船へ行くときには、お椀のような丸い舟を使う。これがまるで佐渡のたらい舟のようで、面白い。
ムイネがビーチリゾート地として人気となったのは、ビーチだけではなく、ムイネの町の北側に広がる大きな砂丘の存在もある。
ここの砂は少し赤みがかっていて、「赤い砂丘」とも呼ばれていてなかなか美しい。砂の丘が重なり合う様子を眺めたり、高く盛り上がった砂の山に登ったりするのもいいが、ここでは様々なアクティブな体験もでき、リゾート地ならではの非日常体験を満喫できる。
ムイネで暮らす人にとって砂丘は、人が暮らしにくい不人気の土地だった。リゾート地として注目を浴びるようになってから、道路が整備されたり、リゾートホテルが建てられるようになったが、元々は、空いた土地を利用して砂丘の隅に墓地が造られていた。
観光客が訪れる砂丘のメインスポットを外れると、たくさんの墓地が目に入る。ここでは土葬が一般的なので、地面が掘りやすく土地も豊富な砂丘付近は、色々と都合が良かったのだろう。
ベトナムの葬式では、家から出棺し、墓地まで葬式行列が行われる。ここムイネの場合は砂丘や海が背景となるので、その様子はなかなか絵になっており、どこか幻想的な光景だった。
ムイネ(Mui Ne / Mũi Né)、Vietnam Sep.2001
私が滞在していたころはまだ写真が貴重な時代だったので、葬式を行う場合は写真屋に撮影の依頼をするのが一般的だった。当時お世話になっていた滞在先が写真家のお宅だったため、期間中に何度か撮影の依頼が舞い込んできた。
滞在させてもらっている手伝いを兼ねて私も同行したのだが、暑い土地柄、葬式行列が始まるのはだいたい朝の5時や6時。朝が苦手な身としては、起きるのが非常に辛かった。
ある葬式行列では、ワンコが行列に混じっていた。子どもたちについてきたのかと思ったら、先頭へ躍り出て、行列を先導し始めた。ワンコの気まぐれというやつなのだろう。けれど、もし故人に並々ならぬ愛情を持っていたのだとしたら、それはとても温かい話だ。
私はそんな想像を巡らせながら、ワンコの後ろ姿をカメラのファインダー越しに追いかけていたのだった。
#29 ムイネのワンコたち