#27 五行山のワンコたち
ベトナム、ダナン 2000年2月Danang,Vietnam / Feb.2000
(*イラスト:ちゅんさん 【イラストAC】)
古都フエの滞在を終えた私は、同じくベトナム中部にある街・ホイアンに向かうことにした。この2つの都市はどちらも世界遺産になっているので、この都市間の移動は多くの観光客が利用する鉄板ルートになっている。
移動は直接向かうバスと、ツアー形式のものがあった。ツアーは途中にある街・ダナンなどの見所に寄りながら移動してくれるといった便利なもの。これを使わない手はない。
フエの少し南に位置するのが、港湾都市のダナン。フエとの間にはアンナン山脈があり、行き来するには険しいハイヴァン峠(Đèo Hải Vân)を越えなければならない。
このハイヴァン峠が壁となり、実質、フエとダナンで気候や風土が変わると言われている。
ツアーバスはフエを出発し、しばらく走ると、ひたすら登り坂が続いた。ハイヴァン峠の始まりだ。
私が訪れた2000年当時は、整備不良のトラックが盛大に黒煙を吐き出しながら坂を登っていくのが、ハイヴァン峠の日常になっていた。
私が乗ったバスもトラックよりはましではあったが、なかなか速度が上がらず、もどかしくなるようなノロノロ運転で坂を登っていった。このハイヴァン峠があるため、直線距離ではわずかな距離のフエ、ダナン間の移動は、とても時間がかかるものになっていた。
ちなみに、2005年にこの峠道を回避するハイヴァントンネル(6280m)が完成したので、そんな光景は過去のものとなっている。
ハイヴァン峠を無事に越えたツアーバスは、ダナンの街に入り、中心部から少し南にある五行山に立ち寄った。
ここは平地にぽっこりと岩山がそびえているといった不思議な地形で、頂が5つあることから風水の陰陽五行説にちなんで、五行山と名が付けられている。
古くから宗教の聖地として崇められ、幾つもの寺院が建てられている。その他にも仏像が安置されている洞窟や、ベトナム戦争時に爆撃で空いた大きな縦穴もあり、それなりの観光地となっている。
特筆すべきは、なんとこの山は大理石と石灰岩でできていること。そのため、英語では「大理石の山」を意味するマーブルマウンテン(Marble Mountain)と呼ばれている。
五行山(Ngũ Hành Sơn / Marble Mountain )、Vietnam Feb.2000
実のところ、自分で来たいと思ってやって来た場所ではないので、訪れた時点では「あまり面白そうな場所ではないな……」と、積極的に見て周ろうという気持ちにはならなかった。
とはいえ、じっとしていても退屈だ。せっかく来たことだしと、数ある寺院の中の一つに入っていくのだが、境内に入ってみるとワンコがたくさんいて驚いた。猫がたくさんいることはあっても、犬がこんなにいることは珍しい。一気にテンションが上がり、ちょっと幸せな気分になる。
結局、有名な洞窟には入らず、寺院のワンコたちと触れ合って過ごしただけで、集合時間になってしまった。
境内には、一見するとカラフルな犬のようにも見える姿があった。いや、よく見るとこれは狛犬……ではなく、中国神話に現れる伝説上の動物「麒麟」の置物だ。こういった置物なら、撫でても狂犬病の心配はない。
だが、境内にいるのは置物だけではない。生身の犬たちが放し飼いにされているのを見て、あからさまに嫌悪感を示す外国人観光客も少なくなかった。犬が近づいてこようものなら、凄まじい剣幕で物を投げつけるようにして追い払う人さえいる。
致死率の高い狂犬病のリスクを考えれば、それは一番安全で、確実な方法だろう。国籍も違い、育った環境も違うので、リスクの取り方、対応の仕方も違ってくる。正解は一つではないのだ。それはいろいろな土地を旅してきたので、十分理解している。
頭ではそうわかっているのだが……、犬好きの身としては、無邪気に尻尾を振っているワンコたちが完全否定される光景を目の当たりにすると、少し……、いや、かなり胸の奥にモヤモヤとしたものを感じてしまう。そう、なかなか割り切れないのだ。
#27 五行山のワンコたち