#20 サパのワンコたち
ベトナム サパ 2000年2月Sa Pa,Vietnam / Feb.2000
国土が南北に長いベトナム。その最北部の山岳地帯、中国との国境近くにサパという町がある。サパの標高は1,600mあり、気温が高くなる夏には絶好の避暑地となることから、古くから高原リゾートとして人気を集めている。
この町を特徴付けているのが、周辺の村々に暮らす少数民族の存在だ。特に市場の近くを訪れると、独特な民族衣装を着た人々が行き交う姿を目にする。
モン族にもいろんな種族の人たちがいるようだが、顔立ちだけでは外国人に違いを判別することはできない。部族ごとに着る服に特徴が見られ、それで判断するしかない。
サパの町でよく見かけるのは黒モン族で、その名の通り、黒い民族衣装を着ている。黒い民族衣装を着た人たちが、連れだって町の中を歩き回っている様子は、色が黒だけに最初は少々ネガティブなイメージを持つかもしれない。
しかし、日本人は比較的早くこの光景に慣れると思う。見慣れてくると、その黒い衣装がどこか日本の学生服のようにも見えてくるからだ。そう頭が認識すると、先ほどの警戒心が消え、まるで活気のある学生街を歩いているような感覚になり、親近感がわいてくる。
サパ(Sa Pa)、Vietnam Feb.2000
サパでは民族衣装を着た人が多いと書いたが、それは中心部にある市場周辺の話で、それ以外の場所ではあまり姿を見かけない。伝統的な生活習慣を守っている人たちは市内から離れた少し山間にある集落に暮らしていることが多いようだ。
その代わりワンコの姿をよく見かける。……というわけでもないのだろうが、市街地から外れた通りを歩いていると、2匹のワンコに遭遇した。自然な感じで道路脇にたたずんでいる様子がのどかなサパの雰囲気に合っていたので、カメラを向けてみた。
交通量の多いハノイでは野良犬を見かけなかったが、こういった田舎では野良犬もよく見かける。実際のところ、野良犬というよりは、かつての日本のように放し飼いにされているだけのようだ。
日本をバイクで旅しているとき、放し飼いの犬が走っているバイクをめがけて吠えながら走ってきた経験を何度かしたことがある。バイクはバランスで乗る乗り物。突然犬が飛び出してくると、ビックリしてバランスを崩しそうになる。本当に怖いのだ。
ところが、ここサパのワンコたちは対照的で、バイクや自転車がすぐ脇を通り抜けても大人しくしていた。これなら安心……とは思うが、かつての恐怖心があるだけに、バイクに乗っているとき、道端に犬に限らず動物の姿が見えると、やはりハラハラしてしまうものである。
サパの町の郊外には畑が広がり、モン族の集落が点在している。サパの魅力として、モン族の人たちが丹精込めて開墾した丘陵の段々畑のある風景も挙げられる。
彼らは市場で野菜を売ったり、買い物をしに町にくるので、市場周辺で民族衣装を着た人をよく見かけるというわけだ。
こういった段々畑や、豊かな自然、のどかな農村風景を求めて、サパ周辺を巡るトレッキングも人気となっている。
私もせっかくなのでサパ周辺の山を歩いてみることにした。あまり山奥まで行くと大変なので、近場の集落をぐるっと周る手軽なルートにした。
歩いてみると、素朴な風景の連続だった。山間にひっそりと家があったり、簡素な橋が架けられている風景などは、あまりの素朴さに心にしみわたるような感動を覚える。
また、歩いていると黒い民族衣装を着た黒モン族の子供たちによく出会った。彼らはこのトレッキングルートを歩いて町に出かけているのだ。その様子は山に暮らす民という言葉がふさわしい。
いいトレッキングができたのだが、ちょっと不満を言えば、私が訪れたのは冬なので、山に緑が少なく、段々畑も土色に染まっていて、お世辞にも鮮やかとは言えなかった。これが暖かい時期だったらもっと素敵だっただろうな……と思わずにいられなかった。
ただ、ベストシーズンを外したのは確かだが、気温が低くて歩きやすいのと、観光客が少ないので、どこも混雑していないし、あまり地元の人にうっとおしがられない点ではよかった。
このトレッキングの最中のことだ。山道を歩いていると、所々に民家があった。日本のように仰々しく囲いがあるわけではないので、道を歩いていると自然と家や庭の様子が見えてしまう。見ていると民家では水牛などの家畜や食用の豚、鶏を飼っていることが多い。
その番をしているのがワンコたちだ。家の前で立ち止まると、「怪しいやつが来た!」とばかりに勢いよく吠える優秀なワンコもいれば、「なんだ。観光客か」といった様子で全く関心を示さない賢いワンコもいる。
なかには近づいても寝そべったままのワンコもいた。番犬として大丈夫だろうかと心配してしまうが、実は全て状況を把握して、一番楽な無関心を装っているのかもしれない。こうしてワンコたちを観察していると、その性格が三者三様で面白い。
最後に、ワンコたちが番をして守っている柵の中では鶏が子育てをしていた。カルガモの子育てなどは見かけたことがあるが、ニワトリが子育てをしている光景を見るのは、今回が初めてだった。
ほのぼのとして可愛らしいと思うと同時に、こういう光景を見てしまうと、鶏肉が食べられなくなりそうだ。今後の献立に少々不安を感じてしまう……。
素朴な風景が多く、ワンコとの出会いも多く、いい思い出が多かったサパのトレッキングだったが、唯一の困った思い出はこの親子との出会いだろうか。
#20 サパのワンコたち