#10 大西洋とニャンコ
ポルトガル オエイラス 1997年11月Oeiras, Portugal / Nov.1997
(*イラスト:watageさん【イラストAC】)
日本は日の出ずる国とも言われている。これは聖徳太子が隋の煬帝に宛てた国書で、日本を「日出ずる国」、中国を「日沈む国」と位置づけ、対等な外交関係を求めたことに始まる。
もっと大きな視点、ユーラシア大陸に目を向けると、日本はその東に浮かぶ島。日の沈む国は、大陸の一番西に位置するポルトガルとか、大西洋に浮かぶ島国アイルランドやアイスランドだろうか。
日本人の視点からすると、そういったユーラシア大陸の西端の国々には、どこか親近感みたいなものを覚えたりする。特にポルトガルは古くから交流があるだけではなく、「天ぷら」のルーツがポルトガル料理にあったり、魚の干物文化が存在したりと、文化的な共通点を見出すことが少なからずあり、なおさら親近感が湧いてくる。
また、ユーラシア大陸東端の島国、日本からユーラシア大陸横断を試みる旅人は多くいるが、目指すゴール(目標)をユーラシア大陸最西端、ポルトガルのロカ岬に設定する人は多い。
そのポルトガルへはモロッコ旅行の際にスペインとともに訪れた。あくまでもサブの目的地だったので、あまり時間を割くことができず、2泊ほどしか滞在できなかった。
訪れたのは首都リスボン。15世紀から16世紀までの大航海時代に栄えた街で、当時の港は多くの貿易船で賑わい、街には世界各地の商品が集まり、莫大な富が集まった。
当時の大航海時代にまつわる建物が、今も多く残っている。それらの建物を訪れると、ある者はまだ見ぬ大陸を目指し、ある者はまだ見ぬ交易品を探しに……と、多くの冒険者が富や名声を得るために海原に繰り出していった様子が頭に浮かんでくる。旅や冒険を愛する人間にとっては、ロマンを掻き立てられる街だろう。
街並み自体もとても素敵だ。中世の面影が残る旧市街を中心に石造りの建物が並び、場所によっては石畳が敷かれ、とても情緒がある。自然と今回の旅のために購入した一眼レフカメラの出番も増える。
面白いのは、高い場所から眺めるとオレンジっぽい赤い屋根の建物が多いこと。街並みは狭くてごちゃごちゃしているが、統一感があるので美しく感じる。それとともに石州瓦など赤い瓦を使用している地域の人には、どこか懐かしさを覚える光景かもしれない。
とても美しく、歩くのが楽しい街なのだが、リスボンは「7つの丘の街」と言われるだけあって、異様に坂が多い。歩いて散策して回るのがしんどく感じるほどだ。
でも、面白いことに狭い坂にケーブルカーが設置されている。建物と建物の隙間のような坂をケーブルカーが進む様子は、リスボン独特の光景だろう。
とはいえ、全部の坂にケーブルカーが設置されているわけではないので、熱心に観光をしようとすると、足が棒になる覚悟をしなければならない。
ポルトガル滞在中は、リスボンの郊外というか、リスボン都市圏を構成しているオエイラスの町にあるユースホステルに宿泊した。
このユースホステルは海沿いにあって、とても開放感があった。しかも、建物がとてもお洒落。なんでも18世紀のカタラゼテ砦を改築したものだとか。ユースホステルとは思えないほど居心地がよかった。
なぜ市内ではなく、ここにしたのか。ユーラシア大陸西端のポルトガルで、大西洋を見ながら過ごしたいと思ったから。実は、この頃の私は「最西端」にこだわりがなく、ポルトガルのどこでもいいから大西洋を見られたらそれで十分満足だった。
ユーラシア大陸の最西端はロカ岬。リスボンからは少し離れているので、訪れるのにそれなりに時間がかかってしまう。
もしユーラシア大陸を横断してポルトガルにたどり着いたのなら、他の観光をそっちのけで訪れたと思うが、今回はついでみたいな感じでポルトガルにやって来た。
なので、わざわざ時間をかけて訪れる必要もないか……。ただの岬だし、時間もないし、行くのが面倒だし……と、何が何でも行きたいという気持ちは湧いてこなかった。
なぜなら、こうした場所は、訪れるまでの過程がその場所を脳内で徐々に神聖化していく。要は、苦労して辿り着くプロセスこそが大事で、それを積み上げたときにこそ相応の価値が生まれる場所なのだろう。
とまあ、私のこだわりはさておき、オエイラスのユースホステルに滞在した。その滞在中、宿の目の前を通っている海沿いの遊歩道をブラブラと散策していた時のことだ。
波を抑えるために大きな石が積み重ねられた岩場にふと目をやると、小さな子猫の姿があった。「えっ、なんでこんなところににゃんこが……」と、驚いた。
季節は11月の終わり。曇っていて風も強い。寒くないのだろうか。こんな日にこんな場所にいなくても……。他に落ち着ける場所がないのだろうか。色々と心配になってしまう。
最初は2匹の子供の黒猫がいたのだが、写真を撮っていたら茶トラの子もやってきて、黒猫たちに引っ付いてきた。
寒そうに身を寄せ合って「猫団子」になっている様子はとても愛らしい。しかし、それ以上に「何かしてあげられないだろうか」と気をもみ、心苦しさを感じてしまう。
さらには、少し離れた場所にいた親猫もやって来た。子供たちに手を出すな、という鋭い眼光を放ちつつも、「何かもらえないだろうか。暖かい場所を用意してくれないか」と期待しているような、切ない眼差しにも思えてくる。
とはいえ、私は通りがかりの旅人。何もしてあげることはできない。写真を撮った後は、後ろ髪を引かれながらその場を後にした。
心配になり、翌朝も同じ場所を訪れてみると、親子の姿はなかった。波にさらわれ、大西洋の藻屑に……。いやいや、きっと普段は別の場所で過ごし、地域の人達に面倒を見てもらっているのだろう。ポルトガルの人がそんなに冷たいわけがない。
猫の他にもウミネコなどの鳥たちが、風の強い海岸で波しぶきを浴びながら羽を休めていた。日本でもよく見る鳥たちだが、太平洋の反対側の大西洋で見ると、また違った趣を感じたりもする。
当時はデジタルカメラではなくフィルムで写真を撮っているというのに、何枚も猫や鳥の写真を撮ってしまったのは、もう間もなく帰国という状況で持参したフィルムに余裕があったから。
それとともに、この旅行のために安い一眼レフのカメラを買ったので、写真を撮るのが楽しくてしょうがなかったというのもある。今回の旅は私の一眼レフデビューの旅でもあったのだ。
#10 大西洋とニャンコ