#9 コルドバの白鳩
スペイン コルドバ 1997年11月Cordova, Spain / Nov.1997
(*イラスト:johanさん【イラストAC】)
ヨーロッパは多くの国が密集している。日本は狭い国土といった言い回しをよく聞くが、ヨーロッパの国々で日本以上の国土面積を持っているのは、ロシア、ウクライナ、フランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェーのみ。世界全体でみても61位。上位三分の一に入っているので、そこまで卑下する必要もなかったりする。
ヨーロッパは小さな国が多くある分、それぞれの国で統一した民族性や文化を持っていて、一枚岩で団結している・・・と考えてしまうのが、単一民族である日本人の標準的な考え方なるだろうか。
しかしそんなことはない。更にそれぞれの国の中に少数民族がいたり、国の中で言語や文化が明確に分かれていたりして、隙あらば独立を試みたりしている。それが陸続きの大陸で、戦争を繰り返してきた歴史を持つヨーロッパなのだ。
(*イラスト:ちゅんさん【イラストAC】)
スペインはその最たるで、スペインは情熱的な国とか、フラメンコや闘牛の国といったイメージを持つが、ヨーロッパにある国の中でも文化が強く混じり、ごたごたの多い国になる。
なかでも北部のバスク地方と、バルセロナを中心としたカタルーニャ地方は、独自の言語や文化を持ち、長年分離独立運動を行っている。独立運動まではいかないが、南部のアンダルシア地方はイスラム教の支配下にあったこともあり、イスラム色の強い文化が残っている。
色々な文化や民族が交じり合っていることで、世間一般的には自分の国に誇りを感じる人の割合が他のヨーロッパの国々に比べて低く、国としてのまとまりも弱いと言われている。
スペインの中でイスラム色が強いのが、セビリア、マラガ、コルドバ、グラナダなどといった町を擁する南部アンダルシア地方。スペイン屈指の観光地となっていて、イスラムとキリスト教が融合した建物や町並みは魅力的だ。
なぜこの地にイスラム文化があるのか。それは711年にイスラム教徒がイベリア半島に侵攻し、現在のアンダルシアを中心に高度な文明を築き、その支配が1492年まで、およそ800年間も続いたから。
グラナダにあるイスラム建築の最高傑作と称されるナスル朝の王宮であるアルハンブラ宮殿。コルドバにあるメスキータ(大モスク)、セビリアにあるアルカサールとヒラルダの塔は、世界的に名が知られる観光名所となっている。
コルドバの観光の目玉はメスキータ。8世紀にモスクとして建設された建物を、後にキリスト教の大聖堂として改修し、使用された。イスラムとゴシック・ルネサンス様式のキリスト教大聖堂が融合が素晴らしく、世界遺産にもなっている。
城壁のような石壁で囲まれているメスキータの横の通りを歩くと、観光用の馬車が待機していた。石畳と歴史的な建造物に囲まれた中に馬車がいる様子はとても雰囲気よく感じる。
石造りの建物が並ぶ古い町並みを馬車に乗って見学して回るのも、タイで象に乗ったり、エジプトでラクダに乗るような感じで、いい思い出になることだろう。
コルドバの町は石造りの建物が多く、とても雰囲気がいい。また、イスラム建築のパティオを取り入れた建物が多くあることでも知られている。
そんな雰囲気のいい町を歩いていると、教会前の広場にワンコがいた。柴犬ぐらいの大きさの犬が野良犬としてウロチョロしている場面にはよく出くわすが、そこにいたのは小型の愛玩犬。
飼い主がいて放し飼いをしているのか、野良犬状態なのかはわからないが、このサイズの犬がウロチョロしているのは珍しい。お洒落な町並みにはよく似合っているが、事故などに遭わないだろうかと心配になってしまう。
コルドバの町で印象深かったのは、白い鳩がいたこと。それも一匹や二匹ではなく、まとまった数の集団でいた。
町には多くの公園が整備されている。庭園という名になっていたりするのは文化の違いになるのだろうか。その公園をブラブラと歩いていると、当たり前な感じで白い鳩の集団がいて、驚いた。
人によく慣れているようで、市民の人が餌をあげていたりする。風景に馴染んでいる感じが素敵というか、生活や心が豊かに感じてしまう。鳩が白いから、より芸術的というか、文化的に感じてしまうのだろう。まあこれは私の思い込みが大きいだろうが・・・。
白鳩がいたのは一カ所ではなく、ブラブラと歩いていると、「あっ、ここにもいる」といった感じで、ちょくちょく見かけた。
何でスペインには白鳩が多いのだ。気になって調べてみると、興味深いことが分かった。鳩は平和の象徴として認識されている。なぜそうなったのか。旧約聖書の「ノアの箱舟」で平和の象徴的な記述があることが、大元になる。
マドリードの美術館には反戦の象徴といえるピカソのゲルニカ(絵画)が飾られている。そのピカソが1949年のパリで開催された国際平和会議のポスターを手がけ、このポスターに白い鳩の絵を描いた。
このことから鳩、特に白い鳩が平和の使者というメッセージが宗教や民族を越え、世界中に浸透した・・・と言われている。日本でも広島で行われる平和記念式典でも鳩が飛ばされている。
ちなみに、スペイン人のピカソは大のハト好きで、アトリエでも飼っていたし、娘にもスペイン語でハトを意味する「パロマ」という名前をつけていたそうだ。スペインに白鳩が多いのは、ピカソの影響が大きいのかもしれない。
コルドバの中心部の南側をグアダルキビル川が流れている。その川にはローマ橋が架けられている。といっても、ローマ時代の橋が残っているのではなく、オリジナルがアウグストゥス帝の時代にローマ人によって造られたということになるようだ。
夕暮れ時にローマ橋を訪れると、夕日を背景にローマ橋が水面にも映り、なかなか素敵な光景になっていた。
これは素敵だと感動していたら、ブーン・・・と遠くから不快な音が聞こえてきた。何だろうとその方向を見ると、空から黒い影がこっちにやって来る。あれは鳥か、飛行機か・・・というのは、子供の頃に流行ったセリフだが、黒い影がこっちに迫ってくる状況では、このセリフが自然と口から出てくるものだ。
黒い影の正体は鳥。恐らくムクドリになるだろう。そのムクドリの集団はローマ橋までやっていて、橋付近を飛び回り始めた。黒い雲のように形を変えながら空を動き回るムクドリ。夕日を背景にしているせいもあるが、その様子は美しくもあり、不気味でもあった。
もしこの集団が襲い掛かってきたら人間なんてひと塊もないだろうな・・・。考えなければいいのに、そんなホラーな事を想像してしまうと、足が震えてくる。
離れたところを飛んでいるうちは、不気味ながらも見ていられるだけの余裕があったのだが、頭上に集団がやって来ると、音が凄いだけではなく、頭上から糞などが落ちてきそうなことに不安を感じる。
これだけの数の鳥がいるのだから、ちょうど私の頭上で粗相をしてしまうやつがいるかもしれない。海外に来てまでそんな悲劇的なことにはなりたくない。というより、こんなところにぼんやり立っていたらいい的になる。逃げるが勝ちだ。と、そそくさとこの場から退散した。
#9 コルドバの白鳩