#7 砂漠のロバ
モロッコ マハミドなど 1997年11月Mhamid Morocco / Nov.1997
(*イラスト:こびとのくつやさん 【イラストAC】)
日本人が砂漠の動物をイメージする場合、多くの人はラクダを真っ先に思い浮かべるだろう。隊商(キャラバン)がラクダを引き連れて、月夜の砂漠を移動している様子などは、頭に思い浮かべる定番の砂漠の情景になるだろう。
しかし、実際にエジプトやモロッコの砂漠のオアシスを訪れてみると、ラクダではなくロバが多い。ロバ……。日本だと馬や牛が家畜の主役なので、あまりロバは馴染みがない。なので、馬の小型版とか、馬の廉価版といった印象を持ってしまう人が多いと思う。
西洋の有名な旅の諺では「ロバが旅に出たところで馬になって帰ってくるわけではない」とある。明らかに馬が上で、ロバは下の存在になっている。私も旅をするまではこういった認識を持っていた。
旅先で見かけるロバは、荷車を引いていたり、人や荷物を背に載せていたり、畑を耕すのを手伝っていたりと、様々な場面で活躍していた。
「あれ、なんでロバばっかりなの……」「砂漠といえばラクダじゃないの……」と、あまりロバが砂漠で活躍しているイメージがなかったので、ロバが至る所で働いている様子を見て驚いてしまった。それと同時に、「思っていたのと違う……」と少しがっかりしてしまった。
ロバはウマ科に分類されるが、その原産地をご存じだろうか。ブレーメンの音楽隊などヨーロッパの話によく登場していたので、私はてっきりヨーロッパ由来の生き物だと思っていたのだが、北アフリカの乾燥地帯にいた野生のロバ(アフリカノロバ)を家畜化したものだった。
それが中東、そしてヨーロッパにと広まっていった。なので、訪れたエジプトやモロッコの乾燥した土地にロバがたくさんいても、おかしいことではない。
ロバは馬よりは2回りくらい小型なので、走力や絶対的な馬力では劣るものの、強靭な生命力を持ち、粗食に耐える頑丈な体を持っている。なにより砂漠のような過酷な環境に適応している。乾燥地の荷役動物としては適任で、だからこそ各地で重宝されている。
興味深い話があったので紹介しておこう。風刺や寓話で愚鈍に描かれがちなロバだが、実は非常に賢く、砂漠で井戸掘りを行う習性があるのだ。
掘るのは1~2メートルほどの穴で、この井戸のおかげで他の動物たちにとっても貴重な水場ができる。水が貴重な砂漠において生態系の重要な役割を担っている動物なのである。
モロッコの南側にはサハラ砂漠が広がっている。サハラ砂漠の玄関口と呼べるオアシスの一つが、観光客に人気のある町、マハミドだ。
マハミドを訪れると、やはり多くのロバを目にした。ここでは道が悪いのもあり、荷車を引くよりも、直接ロバに物を乗せて運んでいる人が多かった。
ブラブラと夕方の町外れを散歩していると、ロバに乗った少年と出会った。その少年は「うちの自慢のロバだぜ」と自慢気な表情でロバを紹介してくれた。ここでは人とロバは仲良しのようだ。
ロバに乗っている写真を撮って欲しそうにしていたので、撮ってあげると、「あなたも乗ってみなよ」と、勧めてくれた。
せっかくの機会だ。少し乗せてもらおう。馬よりも小さいので、大人が乗ったらフラフラとしてしまうのではないかと心配していたのだが、実際にまたがってみると、それは杞憂だった。
とてもがっしりしていて、目線が高くなりすぎることもなく、とても安定感があるのだ。「ロバって凄いんだな」と心底見直してしまった。
マハミドは砂漠目当てでそこそこ観光客が訪れる町。ロバ以外にも砂漠ツアーなどで使われるラクダが放牧されていたり、食用などで飼育されている羊の群れがのどかに歩いていたりと、砂漠のオアシスらしい光景が随所にあり、とても落ち着く心地がした。
とはいえ、何もない町なので、夜は早く、やることも限られる。仕方ないので、部屋でゆっくりと日記でも書こうと試みるのだが、外からはロバの大合唱が聞こえてきてなかなか筆が進まない。
実は、発情期のロバの鳴き声は凄まじいのだ。鳴き声は「ヒーホー(hee-haw)」という独特なもので、これがとんでもなく大音量で響き渡る。
これは異性を惹きつけたり、自分の存在をアピールしたりするためのものなので、一匹が鳴くと、集落全体であちこちからロバが鳴き出す。そのけたたましさときたら想像を絶する。日本で野良猫の発情期の鳴き声で悩まされる人もいるかもしれないが、あんな生易しいものではない。
賑やかな都会からやって来た人は、砂漠の村に2日も滞在すれば、その静けさと退屈さに耐えかねて街を去りたくなるのが普通だが、ロバの発情期に来てしまったら、喧しすぎて去りたくなってしまうかもしれない。
#7 砂漠のロバ