旅人が歩けばわんにゃんに出会う
東京編 世田谷2 豪徳寺界隈
世田谷区の豪徳寺やその界隈で出会った猫などの写真を載せています。
2、招いてくれない猫(世田谷区 豪徳寺参道 2008年11月)

世田谷線の宮坂駅の北側を横切っている道は、城山通りと名がついている。世田谷に城山通り・・・。城下町がない土地柄なので、城山の名に少々違和感を感じるが、この城山が示している城は、戦国時代にあった吉良家の居城、世田谷城のこと。
もっとも、江戸時代になる前に廃城になってしまっているので、土塁のようなものが少し残っているだけである。
その城山通りに豪徳寺の参道の入り口がある。参道の両脇には背の高い黒松が並び、まるで松のトンネルのよう。とても雰囲気のいい参道で、世田谷の風景資産にも選ばれている。

豪徳寺の参道を歩くと、少なからず凄いといった感想が出てくるはずだ。世田谷区内で自信を持って自慢できる参道になる。
気にして歩く人はあまりいないと思うが、土地が少なく、地価の高い東京で、お寺や神社の参道を維持するのは、とても苦労する。境内は維持できても、参道まではなかなか手が回らないからだ。
例えば、この松の並木のすぐ横に大きなマンションが建ってしまうと、一気に景観がぶち壊しとなってしまうし、日当たりの加減で松が枯れてしまうかもしれない。
住宅地に埋まってしまうと、木の枝の処理とか、手入れと維持にお金や労力が費やされることになり、だったらと木を伐採したり、土地を売却してしまう神社などもある。
これだけ立派な参道が残っているのは、関係者の並々ならぬ苦労と努力があったから。という話を聞き、なるほどな・・・と感心してしまった。

ここ豪徳寺が猫寺となったキッカケは、江戸時代に遡る。天下分け目の関ケ原の戦いが終わると、徳川の治世となり、都は江戸に移された。
古くから徳川に仕えてきた信頼の厚い譜代大名は、本国とは別に戦略的に重要な江戸近辺に所領をもらった。
世田谷を与えられたのは、彦根藩の井伊家。井伊家の二代目の藩主直孝が世田谷に赴任してきて間もないころ、慣れない土地を歩いていると、朽ちそうになっている寺の門前で手招きをする猫がいた。

不思議に思いながら中に入り、住職の接待を受けていると、突然天候が変わり、激しい雷とともに大雨が降ってきた。
これは助かった。あのまま歩いていたらひどい目に遭っていた。この寺が世田谷城が廃城となってから苦境にあえいでいた豪徳寺だった。
この縁をきっかけに、豪徳寺を関東での井伊家の菩提寺とすることにした。それ以降、寺の経営は上向き、住職は猫に助けられた恩に報い、猫が亡くなった後に招福観音として祀ったとかなんとか。

(*イラスト:佐桃冬雪さん 無料イラスト【イラストAC】)
それから400年ほど経った2008年のこと。一人の旅人が城山通りを歩いていると、豪徳寺の参道の入り口で一匹の猫が佇み、熱心に通りに目を向けていた。
誰か探しているような感じだ。もしかして寺に招く人を物色しているとか。「猫殿。ここに稀代の旅人がいるぞ。」と、さりげない感じで近づいてみるものの、全く興味を示してくれない。それどころか、猫の前に立つと、プイっと横を向いてしまった。

Gotokuji Temple(豪徳寺)、Tokyo Nov.2008
どうやら身分が高くないと、ダメのようだ・・・。寺の住職から、「寺の利益になるような身分の高い人か、多額の寄付をしてくれる人以外連れてくるな。観光公害になる。」などと、きつく言われているのかもしれない。
猫さん。「長生きするものは多くを知る。旅をしたものはそれ以上を知るというではないか。旅人の知識は偉大だ。」などと、一生懸命、アピールするものの、
「そんなのしったこっちゃにゃい。今の世の中はスマホという便利なものがあるから、旅をしなくても知識は得られるにゃ。」と、自身の毛繕いをする始末。ダメだ。こりゃ。あまりしつこいと嫌われる。
というより、これでは無理やり亀を助けているといった外道な浦島太郎状態ではないか。見苦しい。諦めることにした。

この豪徳寺門前での猫の出会いは、もの凄く偶然と言えるし、そうでもないとも言える。
豪徳寺のある場所は、元々世田谷城だった場所。豪徳寺のすぐ近くには世田谷城の一部を利用した世田谷城址公園がある。広大な豪徳寺、そして世田谷城址公園。付近には緑の多い烏山川緑道や世田谷八幡宮もある。猫が暮らすには十分な土地があるので、この付近は野良猫が多い。
2000年前後の話になるが、家賃が安かったので、友人がこの付近に下宿していた。そして、夜な夜な大合唱する猫に苦しんでいた。また、道路でひかれている猫を見るのも辛いと言っていた。今はどうなっているかわからないが、一昔前はこの付近は本当に猫が多かったのだ。
3、たまにゃん祭り(世田谷区 豪徳寺商店街 2009年5月)

招き猫で有名な豪徳寺の玄関口の一つが、小田急線の豪徳寺駅。そして、お膝元となるのが、駅から豪徳寺へ続いている豪徳寺商店街。大きな商店街ではないが、商店街を挙げて様々なイベントを行っているので、私の中では元気や楽しさを感じる商店街といったイメージになっている。
小田急線を利用して豪徳寺へ向かう場合は、この豪徳寺商店街を抜けて行くのが一般的だが、豪徳寺の入り口は商店街に近い北側にはなく、反対側の南にしかない。なので、ぐるっと広い敷地を回らなければならなかったりする。
結果、世田谷線の山下駅から宮の坂駅の一駅分歩くことになるので、思っていたよりも遠かった・・・と感じる人が多い。

豪徳寺商店街では、招き猫の豪徳寺にあやかって、5月の第二日曜日に豪徳寺たまにゃん祭りを行っている。たまにゃんとは、豪徳寺の白い招き猫を模したマスコットの名になる。
お祭りが大好きな日本人。一年中、日本各地で無数の祭りやイベントが行われているが、猫に関わる祭りというのは意外と少ない。そういう意味では、このイベントは貴重な存在となり、商店街の活性化にもつながりそうだ。なかなかいい目の付け所だと感じる。


たまにゃん祭りは、商店街を車両通行止めにして行われる。商店街の路上には、物産展、アートショップ、猫グッズの販売店、飲食などの店、フリーマーケットなどが並び、ステージではバンドなど演奏が行われ、よさこいなどのパレードや子供たちが楽しめるようなスタンプラリーなども行われる。

あれ、猫のイベントを名乗っているけど、猫ってたいして関係なくない?ただ人間が楽しんでいるだけのイベントじゃない。そういう声も聞こえてきそうだ。
まあ、ぶっちゃけると、内容的には普通の商店街イベントとなるだろう。ただ、私が訪れたときは猫の無料健康相談なんていうことをやっていた。通りがかった時は誰も相談を受けていなかったが、猫のイベントらしい試みだ。
とはいえ、犬と違って猫を連れて外出する人は少ないので、猫を診てもらうというよりは、飼っている猫の愚痴を聞いてもらうような感じになるだろうか。それよりも、この機会にこの界隈にいる野良猫たちが健康診断を受けに来て欲しいなと思ってしまう。
この他にも、年によっては猫の譲渡会が行われていたりと、人も猫も笑顔になれるようなイベントを目指しているそうだ。
東京編 世田谷2(豪徳寺界隈) 世田谷3(寺院)につづく