世田谷散策記 世田谷の秋祭りのバーナー
秋祭りのポスター

世田谷の秋祭り File.6

野沢稲荷神社例大祭

8月、世田谷で一番最初に御神輿が担がれるお祭り。暑さに負けない氏子たちの団結した神輿渡御が行われます。

鎮座地 : 野沢2-2-13  氏子地域 : 野沢1~4丁目
御祭神 : 倉稲魂神  社格 : 旧野沢村村社
例祭日 : 8月第四日曜日、前日は宵宮
神輿渡御 :宮神輿、子ども太鼓山車、太鼓車
祭りの規模 : 小規模  露店数 : 15店程度
その他 : 奉納演芸(カラオケ、獅子舞)、ビンゴ大会、プロ演芸などが行われます。

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*** 野沢稲荷神社の写真 ***

野沢稲荷神社の写真
神社の入り口

普段はひっそりとしています。

野沢稲荷神社の写真
社殿と社務所

社殿前に背の高い木があります。

野沢稲荷神社の写真
神楽殿のある広場

境内には銀杏の大木が多いです。

庚申塔の写真
境内の隅にある庚申塔

野沢村の名が入った古いものです。

* 旧野沢村と野沢稲荷神社について *

世田谷区の環七通りは古くからラーメン激戦区として知られ、国道246号より南側にも多くのラーメン店が並んでいます。その南端付近にあたるのが龍雲寺交差点で、そこから少し入ったところに野沢稲荷神社があります。

旧野沢村の村社だった神社ですが、その創建についての詳細は明らかではなく、駒繋神社から分かれたものだとか、かつての本殿は若林の稲荷を移したものが使われていたとか言われています。現在の社殿は東向きに建てられていて、境内には本殿と拝殿、神楽殿、社務所があります。

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本殿の覆屋は昭和51年に鉄筋コンクリートで作られたもので、内に明治33年に造られた本殿が祭られています。この本殿は一間社流造の総欅造りで、屋根は柿葺、壁や脇障子などに彫刻が入るといったものです。拝殿も同時期のものですが、昭和41年に茅葺から銅板葺にされました。本殿部分と拝殿部分の外観が木造とコンクリートと極端に違うのは珍しいというか、違和感があります。神楽殿も明治後期のものですが、同じく昭和41年に茅葺から銅板葺に替えられました。

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境内の外側、敷地の北側の角には小さなお堂の中に庚申塔が祀られています。庚申塔には「元禄八年野沢村」と刻まれていて、17世紀末には野沢村が成立していたことを示す貴重な資料となっています。ちなみに世田谷には馬引沢(現在の上馬、下馬)、深沢、奥沢、北沢など起伏が激しい土地から沢がつく名前が多いのですが、ここ野沢はこの地を開拓した葛飾領東葛西の野村治郎右衛門と六郷領の沢田七右衛門の二人の名字をあわせて命名されたそうです。

*** 秋祭りの様子 ***

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
神社前の通りと太鼓車

提灯が灯り、路上にも何軒か出店が出ます。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
夜の拝殿

参拝者の長い行列ができる事はありません。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
例大祭

日曜日の朝行われます。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
獅子舞の奉納

お囃子の南風連による演技です。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
宵宮の素人奉納演芸

演技者が楽しそうだったのが印象に残っています。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
ビンゴ大会

景品が掛かっているので盛り上がってました。

野沢稲荷神社の秋祭りの様子を写した写真
プロによる奉納演芸

日曜日の夜に行われ、なかなか賑わっていました。

* 野沢稲荷神社の秋祭りについて *

世田谷区内の秋祭りは9月初旬~10中旬の間に集中して行われますが、野沢稲荷神社の祭礼は一足早い8月第4週の日曜日とその前日に宵宮行われます。区内では東玉川神社でも8月の後半に例大祭が行われていますが、こちらは御神輿が出ないので、ここ野沢稲荷神社の神輿渡御が世田谷の秋祭りの先陣を切る形になります。もっとも神輿渡御だけでいうなら、8月の第1週目に行われるせたがや区民祭で幾つかの町会が集まって神輿の連合渡御を行っているので、そちらの方が先になりますが、やはりこれはあくまでもイベント的要素が強いものです。

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野沢稲荷神社の祭礼は、かつては9月17、18日に行われていましたが、毎年のように雨に祟られるということで、8月の第四週末に行われるようになったそうです。でも近年の野沢稲荷の祭礼は雨が絡むことが多いような気もしますが、まあ自然のことはしょうがないですね。

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まず宵宮の土曜日の午後一時から子供太鼓山車が運行されます。今日、明日は祭りですよ!といった寄せ太鼓的な感じの巡行です。そして太鼓車が戻ると、昼間は子供たちのための遊び場となり、ゲームや子供カラオケ大会が行われます。

そして夕方からは大人の時間。神楽殿で奉納の踊りやカラオケなどが始まります。途中7時からは南風連によって獅子舞が奉納されます。その後もカラオケなどが続き、8時半になるとビンゴ大会が始まります。ビンゴカードは18時頃に無料で配られるそうです。さすがにこれは景品が掛かっているのでみんな真剣なこと。なかなか盛り上がっていました。戦前には神楽が盛んに行われていたといった記録がありますが、残念ながら今では行われていません。

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本祭の日は10時から関係者が集まって拝殿で祭礼が行われます。そして昼の12時から神輿が運行されます。さすがに8月の暑い中に行われる神輿渡御は半端なく暑いです。もちろん見ているだけでも暑いです。そういった暑さが人々の熱気となり、祭り全体として盛り上がっている感じがします。

神輿は夕方遅く神社に戻ってきます。そして夜は奉納演芸が行われるのですが、2日目はプロによる出し物、大道芸が行われます。年によって違うかと思いますが、パントマイムだったり、バルーンアートだったり、漫才だったりするようです。

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露店は15店程度といった感じでした。境内だけではなく、神社の前の通りにも数店並びます。全体的には訪れる人はそこまで多くない感じです。特に昼間はその年の暑さにもよりますが、わざわざ暑い中祭りに出かけようという気にはならないはずです。

日が陰る夕方以降になるとぼちぼちと人が集まってきます。しかしながら神社が立地しているのが駅から遠い場所なので、通りがかりの人や遠方の人が来るのではなく、周辺の人がぞろぞろと集まってくるだけといった感じです。なので、「あ~こんばんは~」「あ~何々さん」なんて声があちこちから聞こえてきます。そういった感じなので、人はそんなに多くはありませんが、仲間うちというか、同じ町内に暮らすもの同士というか、訪れる人が笑顔で気兼ねなく楽しんでいるといった雰囲気でした。

*** 野沢稲荷神社の神輿渡御 ***

*** 宮神輿渡御 ***

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
運行前の挨拶

まもなく出発です。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
境内でのもみ

数周してから神社を出ます。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
鳥居くぐり

神輿が大きいので大変です。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
大神輿の渡御

提灯が先導します。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
大団扇

暑いときは効果的です。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
中御輿の渡御の様子

大神輿と比べると小さく感じます。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
龍雲寺境内で

周囲が緑なのでなかなか絵になっています。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
神社に戻ってきた御輿

出発時に比べて担ぎ手が増えていました

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
境内での最後の揉み

ちょうど差し上げているところです。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
宮入の様子

比較的簡単に収めていました。

野沢稲荷神社の神輿の写真
野沢稲荷神社の神輿

大、中、小と揃っています。

野沢稲荷神社の太鼓車の写真
太鼓車

大正15年新調の古い太鼓です。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
太鼓引きの行列

多くの子供が参加していました。

野沢稲荷神社の神輿渡御の写真
お囃子車

野沢稲荷神社の南風連が努めます。

野沢稲荷神社の宮神輿は大、中、小の三種類の神輿があります。基本的には毎年大神輿が使われますが、2010年のように中神輿を修復した記念などといった特別な事情があるときには中神輿が運行される事があります。

大神輿は昭和2年に行徳・後藤直光によって建造されたものです。台座が二尺八寸、延軒屋根の勾欄造りで、背か高く、鳥居、胴、台座などの木彫が見事な神輿です。特に鳥居や胴に巻き付いている龍の彫刻は存在感があります。中神輿も同じ制作者によるもので、大神輿をそのまま少し小さくしたような感じです。

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太鼓は古く大正15年新調の文字があり、近年修復を行ったようできれいな状態を保っています。太鼓は神輿と一緒に渡御せず、前日の宵宮に2時間ほど町内を回ります。結構参加する子供が多くてビックリしました。まあよく考えると、秋祭りといっても子供はまだ夏休みの最中ですね。夏休みの最後の想い出を・・・といった感じでしょうか。

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大人神輿は日曜日に運行されます。12時に担ぎ手が集合し、出発前の挨拶などが行われ、宮出が行われます。まずは境内を回り、社殿や神楽殿に神輿を差し上げて挨拶をします。境内があまり広くないし、まだ担ぎ始めなのでゆっくりとした感じで行われます。そして神社の外へ出るのですが、大神輿の場合だと結構高さがあるので、鳥居をくぐるのにかなり低い位置まで神輿を下げなければなりません。担ぎ手の人も体勢が悪くなるので、大変そうでした。

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神社を出ると最初の休憩所の龍雲寺へ向かいます。さすがに真夏の、しかも真昼の神輿渡御は暑く、すぐに担ぎ手の半纏は汗で濡れていきます。晴れている時などは大きな団扇で風を送りながら進むこともあります。

龍雲寺まではそんなに距離はなく、すぐに着いてしまうのですが、神輿はそのまま門をくぐってお寺の境内へ入っていっていきます。お山入りといった感じで、そのまま本堂の前で収めて休憩。あまりこういう場面を見たことがなかったのでビックリしました。古くからの野沢での習慣なのでしょうか。

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神輿は野沢の町域を回り、夕方18時過ぎに神社に戻ってきます。この頃になると宮出ししたときに比べ担ぎ手の数が増え、賑やかで、威勢のいい渡御となります。もちろん少し涼しくなったというのもあるでしょう。

神社に帰ってくると、まずは神社前の神輿舎で差し上げて、そして宮出しと同じように神輿を鳥居にくぐらせます。その後は境内を回って最後の揉みを行ったり、社殿や神楽殿に差し上げの挨拶を行ったりします。訪れたときは後の時間が迫っていたのか、毎年こんなものなのかわかりませんが、あっさりとした感じで締めていました。もう少し宮入が盛り上がってもいいかなと感じましたが、境内が狭かったり、その他もろもろの事情があるのかもしれません。

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神輿や太鼓の先導を務めるのはあまり知名度はないかと思いますが、野沢稲荷神社のお囃子、南風連です。平成8年に結成したと言うことなので、まだ若い団体のようです。小中学生のメンバーもいて、こちらは小南風連となり、月3回ほど指導を受けているようです。宵宮の子供の引く太鼓車の先導時には小南風連がメインで、本祭の神輿渡御の時は大人の南風連がお囃子を行っていました。

* 感想など *

野沢稲荷神社の例大祭は世田谷で一番早く神輿渡御が行われます。8月下旬と9月第一週とでは、もちろんその時々によって違うでしょうが、残暑が厳しい近年では同じ暑さ、いや9月の方が暑いといった事もあったりします。でもやはり8月というカレンダー上の数字が気持ち的に暑さを増しているのは確かです。

しかも宮出しが昼間の12時という一番暑い時間帯。根性がなければすぐに気持ちが折れてしまいそうです。吹き出す汗。多くの水分補給が必須ですが、体調のことを考えるとビールなどのアルコールを飲む事は危険で、昼間は控えている人がほとんどです。

ただその分担ぎ手が真剣に御神輿を担いでいるというか、団結しているというか、暑いからこそいい雰囲気の神輿渡御に思えました。こういった厳しい環境の中でこそ生まれる団結心とか、絆とかがあるのかもしれません。

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神輿の休憩所が龍雲寺というお寺の中というのには驚きましたが、この龍雲寺では8月上旬(たぶん第一週の週末)に盆踊り大会が行われます。場所は境内ではなく、環七の龍雲寺交差点のところにある大駐車場です。これが世田谷でも屈指の規模を誇る盆踊り大会で、賑わいは野沢稲荷神社での秋祭りの比ではありません。

野沢地域では盆踊り大会と野沢稲荷神社の祭礼と8月に2度も祭りを楽しむことができます。真夏に熱い地域、そして暑さに負けない熱い人々。そんな言葉が似合うのが野沢なのかなと感じました。

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<世田谷の秋祭り File.6 野沢稲荷神社例大祭 2012年8月初稿 - 2015年10月更新>