世田谷散策記 タイトル
せたがや百景 No.70

岡本三丁目の坂道

せたがや地域風景資産 #1-23

岡本の富士見坂

岡本3-33付近

国分寺崖線には多摩川沿いに下る坂道が何本も通っている。岡本3丁目の坂道はなかでも勾配が強く、急な坂をたどるとき国分寺崖線の斜面を実感する。坂上からは丹沢の山々も眺望できる。(せたがや百景公式紹介文の引用)

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1、岡本三丁目の坂道について

岡本付近の地図(国土地理院)

国土地理院地図を使用

砧公園や大蔵総合運動場の南側、東名高速を挟んで岡本の町域があります。小さな町域で、この界隈に住んでいないと、岡本?どこ?ってな感じでしょうか。たぶん、世田谷区内の地名の知名度ランキングを付けるとしたら、岡本やその横の鎌田、宇奈根は、後方争いをするのではないかと思われます。

岡本町域は国分寺崖線の端に位置していて、町域を谷戸川、丸子川、仙川が流れています。これらの川が大地を深く削っているので、とても坂が多い土地になっています。

車が一般的ではなかった時代には、「坂が多くて苦労するから、岡本には嫁にやるな」と言われていたとか。交通の便の悪い土地なので、問題は坂だけではなく、繁華街まで行くのが大変という意味もあったことでしょう。

岡本三丁目の坂道
岡本三丁目の坂道

坂の右側は歩行者用の階段になっています。

そんな坂が多い岡本には、昭和の時代にドラマや特撮などのロケに使われたり、最近でも面白スポットとしてバラエティー番組で紹介されるような、ちょっと名が知れている坂があります。

それは岡本三丁目の国分寺崖線にある坂、通称「岡本三丁目の坂」です。東京23区内でも屈指の急坂となり、坂の脇には歩行者用の階段が設置され、車道には滑り止めの付いた舗装がされています。

百景の挿絵では車が坂を登っていますが、現在は下りのみの一方通行となっています。もし車で登った場合、登った先の交差点が全く見えないので、とても危険です。いい決まりだと思います。

かなり強烈な印象を与える坂道で、昔から特撮やドラマなどの撮影に使われてきました。例えば、世田谷が世界に誇る特撮、ウルトラマンシリーズでは、撮影所から近い瀬田から成城付近の坂がよく使われています。その中でも、この坂と成城のお茶屋坂はちょくちょく登場しています。道が直線的で、撮影映えするのでしょう。

ちなみに、ウルトラマンの撮影は、この坂からほど近い大蔵の東宝ビルト撮影所で製作されていました。(*現在では取り壊され、成城の東宝撮影所内に移転しています。)

岡本の町は撮影所から近いし、交通量が少ないしと、この三丁目の坂以外でもさりげない場面などでよく登場しています。撮り直しなどのちょっとした撮影がしやすかったのでしょう。(*昔の路上ロケは、今ほどきびしくなかった。)

岡本三丁目の坂 坂を下から見上げた図
坂を下から見上げた図

壁のような坂に映った自分の影を入れてみました。

話を坂道に戻すと、東京都内、いわゆる23区内は、渋谷、赤坂、四谷、世田谷・・・などと、坂や谷の名が付いた地名をよく目にします。その名の通り、東京は小さな起伏が多く、坂がとても多いです。

なんでも、名前の付いている坂道は800以上もあるとか。特に、江戸時代、武家屋敷の多かった文京区・港区・新宿区・千代田区あたりに多く、古風な名が付けられている坂を多く目にします。

坂が多い東京ではありますが、古い時代は道路の舗装技術がなかったので、階段は造れても急な坂は作れませんでした。いくら坂が多くても岡本三丁目の坂を越えるような坂は東京にないだろう・・・。

なんて思いながらインターネットで検索してみると、23区内で車が通れる一番の急坂とされているのは、豊島区にある「のぞき坂」で、勾配は13度(22%)あるようです。

実際にこの坂を訪れたことはありませんが、23区内に岡本三丁目の坂よりも強烈な坂があることに驚きました。

無名坂(岡本)
無名坂(岡本)

坂に無名塾があったことから名づけられました。

岡本三丁目の坂には勾配表示板が設置されていないので、どれくらいの傾斜があるのかわかりませんが、同じ岡本にある急な無名坂には、21%の表示板が設置されています。この坂をそのまま延ばしたら岡本三丁目の坂と同じような感じになりそうなので、恐らく似たような勾配ではないかと推測できます。

これを参考にすると、21%の勾配は100mで21m上がると言うことなので、サイン、コサイン、タンジェントを駆使して角度の計算すると、11.8°といった計算になります。適当な推測ですが、これと同じ程度か、もう少し小さい数字になるかと思われます。

岡本三丁目の坂 桜の季節
桜の季節

ミニ桜並木になっていたりします。

実際に岡本三丁目の坂を通行してみると、坂の上に立ったときに吸い込まれそうな気分になります。車で通ると、重力に従って加速がどんどんついていくのがよくわかります。

前傾姿勢で乗るバイクだと、まさにジェットコースター、いや、スキーのジャンプ台を滑走しているような気分といった感じでしょうか。

フレームとブレーキが華奢な自転車だと、坂の途中でスピードが出過ぎて、もしブレーキが壊れたらと思うと、少なからず恐怖とか、身の危険を感じます。

実際、坂の途中で自転車を停めて写真を撮ろうとすると、スタンドをかけても自転車がズルズルと下っていってしまう状態です・・・。安全のために子供には絶対に自転車で通らせたくない坂です。

岡本三丁目の坂 坂を登る
坂を登る

小学校の6年間で健脚になりそうです。

逆に登りの場合は、目の前に壁が聳えている・・・といった気分です。普通に登る分にはまだいいのですが、自転車を押しながら坂を登ると、自転車が重力で重く感じ、結構足にきます。

ある意味いい筋トレ場所であり、早朝など坂を自転車やランニングで登ってトレーニングをしている人もいます。

岡本三丁目の坂 下校時の坂道
下校時の坂道

みんなで登れば楽しい・・・かも。

坂の下には玉川幼稚園をはじめ、砧南小学校、中学校があります。登校時間には坂を下っていき、下校時間になると、子供たちが元気にこの坂を登っています。

毎日のようにこの坂を登っていれば、健脚になるに違いありません。そしてみんなで登った坂のことは、きっと大人になっても小学校時代のいい思い出となるでしょう。

坂の上が見通しの悪い交差点になっている事もあってか、よく登校時間に岡本派出所の駐在さんが坂の上に立って交通整理をしています。

その駐在さんに通る子供たちが次から次へと元気よく挨拶しているのも印象的でした。

岡本三丁目の坂 紅葉の季節
紅葉の季節

秋には桜の木が紅葉します。

坂を下った右側には自動車教習所があります。以前は日産の自動車学校でしたが、今では小山自動車学校に合併されました。

この界わいでは小山→東急→日産の順で教習料が安かったので、交通が不便な場所にありながらも人気のある教習所でした。東急が移転し、日産が小山になってしまい。随分と自動車学校の構図が変わってしまったものです。

それはさておき、ここの教習所での路上教習では、残念ながらこの坂を通らず、隣の坂を登っていきます。

さすがにここほどの急な坂ではなく、いわゆる女坂みたいな感じになっていますが、教習の度に坂道発進の練習・・・、いや、いい特訓になっているに違いありません。といっても、最近は坂道発進に苦労しないオートマ限定の免許が主流でしょうか・・・。

1940年代後半の岡本の航空写真(国土地理院)
1940年代後半

国土地理院地図を使用

1960年代の岡本の航空写真(国土地理院)
1960年代

国土地理院地図を使用

しかし、なんでまあこんな坂ができてしまったのでしょう。ちょっと古い写真を見ていくと、岡本や大蔵地域は他の地域よりも遅く、戦後になってから耕地整理が行われています。それまではこの界隈には大きな道はなく、この岡本三丁目の坂もありませんでした。

1960年代になると、坂のある斜面の開発が行われ、その際に直線的な現在の坂道が誕生しています。もう荷車の時代ではなく、自動車の時代なので、急な坂道でも大丈夫。変にカーブを付けると区画整備が面倒になる。ってな判断だったのでしょうか。

それとともに、坂道の名があいまいなのも納得です。古くからある坂道なら、坂道を象徴するような名がついていたりしますが、新しくできた坂道なので、これといった名がなく、せたがや百景を機につけられた「岡本三丁目の坂道」といった呼ばれ方が浸透していったようです。

岡本三丁目の坂 早朝の富士山と坂道
早朝の富士山と坂道

坂のほぼ正面に富士山や丹沢山系が見えます。

岡本三丁目の坂 富士山のアップ
富士山のアップ

なんとか顔を出しているといった感じです。

この坂の凄い事は角度が急なことだけではなく、富士山がきれいに見えることにもあります。晴れた日の朝、特に冬場などには遠方に富士山がきれいに見えます。真正面ではないのですが、ほぼ正面に見えるので、なかなか絵になっていると思います。

ただ、写真にこだわっている人などには、張り巡らされている電線が邪魔なので不評です。それに早朝は坂道が日陰になるので、写真を撮りにくいといった感じです。見る分にはいいかなといったところでしょうか。

岡本三丁目の坂 関東の富士見100景の案内プレート
関東の富士見100景の案内プレート

東京富士見坂で登録されています。

坂の上には「関東の富士見100景」のプレートが埋め込まれています。平成16年11月という日付と国土交通省の文字が入っているので、最近国土交通省が選定した百景のようです。

興味深いのは、「せたがや百景」の選定時には「岡本三丁目の坂道」と呼ばれていたのですが、この「関東の富士見100景」では「東京富士見坂」になっている事です。

岡本三丁目の坂道というのも俗称ですが、正式には富士見坂と呼ばれているのでしょうか。富士見坂というのはどこにでもありそうな名前なので、岡本三丁目の坂の方が愛着があっていいような気もするのですが・・・。

気になって・・・というより、ダイヤモンド富士はいつだろうと国土交通省の関東の富士見100景のページを見てみると、53番が東京富士見坂になっていて、その項には、この坂の他に田園調布周辺や目黒駅周辺といった感じで6つの項目が一緒に載っていました。

要は、東京で富士山が見える坂道という事でこれら全部を含めた総称が東京富士見坂となっているようで、特にこの坂を富士見坂として命名したわけではないようです。

岡本三丁目の坂 夕暮れ時の坂道
夕暮れ時の坂道

ダイヤモンド富士の日でしたが、雲に邪魔されてしまいました・・・。

ちなみにダイヤモンド富士が見られるのは2月9~10日と11月1~2日頃だとか。ただ2009年は2月8日がベストだったようで、若干ずれる事もあるようです。

この界隈では、東名の橋やら瀬田の交差点付近、あるいは上野毛の富士見橋などでも見れるので、もし天気が悪くて駄目でも、少し日にちと場所をずらせば見ることができます。

あまりうまく撮れていませんが、東名の橋や成城の富士見橋の項にダイヤモンド富士の写真を載せています。

2、感想など

岡本三丁目の坂 夕日で赤く染まる坂
夕日で赤く染まる坂

エンディングの場面で使えそうです。

世田谷には多くの坂があります。特に国分寺崖線には街道、脇街道として使われてきた歴史ある坂や、生活道路として使われてきた趣きのある坂が多いです。

そういった坂の宝庫である世田谷にあって、この岡本三丁目の坂は歴史があったり、趣きがあったり、雰囲気がいいとかではなく、ただただ強烈にインパクトがある坂で、その強烈さゆえに多くの人に知られ、多くの人を惹きつけ、世田谷の坂を語るには外せない坂となっています。

昔ながらの坂に比べると、単に真っすぐで趣のない坂といえばそうかもしれませんが、子供たちが坂を通学している様子や坂が夕日で赤く染まる様子は、真っすぐな坂である故にシンプルで奥行きのある絵になります。撮影に使われるのも写真を撮っていてわかる気がしました。

せたがや百景 No.70
岡本三丁目の坂道
せたがや地域風景資産 #1-23
岡本の富士見坂
2025年5月改訂 - 風の旅人
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・地図・アクセス等

・住所岡本3丁目33付近
・アクセス最寄り駅は田園都市線二子玉川駅、あるいは用賀駅。駅から少し離れています。
・関連リンク関東の富士見百景(国土交通省)
・備考関東の富士見100景(国土交通省選定)、ダイヤモンド富士(2月9~10日、11月1~2日)、下り一方通行
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