* 九品仏の参道 *

木々が多く植えられているので、緑のトンネルとなっています。
世田谷には大田区の本門寺や杉並区の妙法寺のようないかにも総本山といった大きなお寺はありませんが、招き猫の豪徳寺に九品仏の浄真寺という個性的で有名なお寺が2つあり、どちらもせたがや百景に選定されています。
九品仏浄真寺は大井町線に九品仏駅があるほど有名なお寺なのですが、「九品仏」って正しく読む事ができますか。東急沿線の人や仏教関係者は当たり前に読めると思いますが、読み方は「くほんぶつ」になります。
九品仏って何?そういった仏像があるの?それとも専門用語?と、ちょっと変わった名称に早速興味がわいた人もいるかもしれませんが、簡単に書くなら愛称で、九体の品を結んだ大仏があるから親しみを込めて九品仏と呼ばれるようになりました。
正式な寺の名称は九品山唯山念仏院浄真寺となりますが、現在では九品仏浄真寺という言い方が広く一般的です。

参道が華やかに感じられる季節です。桜の木の下は交番です。
世田谷区内の神社やお寺の参道は耕地整理や大通りの建設などで消滅したり、中途半端に残っているものが多いです。
状態よく残っているのは喜多見の慶元寺や氷川神社、その他で次第点なのは豪徳寺ぐらいでしょうか。逆に吉良氏の菩提寺となっている勝光院などは参道が住宅地になってしまった良い例かもしれません。
九品仏の参道は九品仏駅のすぐ北側、ちょうど角に交番ある上野毛通りの交差点から参道が始まります。交番自体が控えめに造られていて、とりわけ桜の時期は花が交番を覆い隠すように咲くので素晴らしいです(深い意味はありません・・・)。

この時期は歩くとすがすがしさを感じます。
参道は都市開発にも負けずきれいな状態・・・、というか、きれいすぎる状態で残っています。
地面はきれいにタイルが敷かれていて、植え込みも小さな石垣で囲ってあります。どちらかというと参道という雰囲気ではなく、都会的な公園といった雰囲気で、道の脇にテーブルを並べたらお洒落なオープンカフェのできあがりといった感じです。
参道の横は入り口の交番を始め、区の出張所、地区会館や九品仏広場(公園)と公的な場所となっているので、参道全体が公園のような雰囲気で整備されたようです。
統一感のある雰囲気の良さや、手入れが行き届いている事から平成元年にせたがや界隈賞も受賞しています。

参道の入り口付近の目立つ場所に建てられています。
参道を進んですぐ、ちょうど交番の横付近に「え~~~!」というような、「禁銃猟 警視庁」と三面に書かれた石柱が建てられています。
これは読んでその如く、「ここで銃を使って猟をする事を禁止する。警視庁より。」という事です。
よくお寺の前に酒を飲んだ人、なまぐさい人間は、山門に入ってはならないといった意味の漢詩「不許葷酒入山門」という石碑がありますが、さすがにこれは・・・。
今の時代に鉄砲の弾が飛んでくる事はない・・・とも言い切れない世の中ですが、ちょっと不安になって周囲を見回してしまうようなインパクトがあります。

墓地の裏側、花に囲まれるように石碑があります。
この石柱は3カ所に立てられています。残りは境内の中(恐らく境内の外から移動したもの)と駒八通り沿いにあります。なかなかの念の入れようで、警視庁も本気だったようです。
一体こんな危険な状態だったのはいつの事なのでしょう。背面には建てられた年が書かれていて、明治32年(1899年)とあります。
当時のこの地域一帯はほとんど人が住んでおらず、雑木林ばかりの土地でした。狩猟もやりやすかった時代です。この石柱はそういった古い時代の名残となるようです。
大正時代になると、南では田園調布の宅地開発が進み、西の等々力ではゴルフ場が造成され、北の駒沢でもゴルフ場ができるなど少しずつこの地域の開発が進んでいき、大正12年の関東大震災後からはこの地域に限らず世田谷がどんどん切り開かれ、爆発的に人口が増えていくこととなります。
ちなみに世田谷で変わった門前の石碑といえば、烏山の寺町にある称往院極楽寺の「不許蕎麦入境内」の碑が有名です。この寺には蕎麦打ち名人の住職がいて、蕎麦屋の屋号に「庵(あん)」という字が付けられるきっかけとなったという逸話が残っています。

庚申塔やお地蔵さまが並んでいました。
参道の途中には庚申塔などの石碑が置かれているのも参道らしさを失わせない工夫でしょうか。参道の中程には九品仏広場という公園があり、参道と調和した雰囲気のいい子供達の遊び場となっているのも良いですね。
ちなみに江戸時代後期頃に浄真寺は最盛期だったようで、多くの参拝客で賑わい、門前や参道脇に何軒かのお店が並んでいたようです。ちゃんとした門前町を形成するというまでいかないのが世田谷のお寺らしいところでしょうか。

柔らかい感じがして穏やかな気分になれます。
参道は入り口のソメイヨシノと里桜、参道内の樹木の新緑時のすがすがしさ、秋の紅葉ときちんと季節を感じる事ができます。
浄真寺境内も都の天然記念物に指定されているイチョウやら鷺草のある池があったりと季節を感じられますが、参道から季節の情緒を感じられるとお寺に入る時のワクワク感が増すというものです。
それにこういった雰囲気のいい参道は付近の住民にとっていい散歩道になるだけではなく、日々の通勤通学で通るだけでもうれしいものです。