世田谷散策記 ~せたがや百景~

せたがや百景 No.71

岡本もみじが丘

せたがや地域風景資産 No.1-22

静嘉堂緑地の自然林

綾錦のような紅葉に松の緑を点々と散りばめた秋景は息を呑むようで、多摩川八景(行善寺八景)の一つ「岡本紅葉」とうたわれた。今、開発の手から守ろうとする地元の熱意は強い。(せたがや百景公式紹介文の引用)

・場所 :岡本2-33
・関連団体:不明
・備考 :岡本静嘉堂緑地内 開園時間10時~16時

***  このページの内容  ***

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* 岡本もみじが丘について *

静嘉堂緑地 岡本もみじが丘の紅葉の写真
岡本もみじが丘の紅葉

捜せば真っ赤なもみじのある光景も見つかります。

岡本もみじが丘・・・、恐らく多くの人がこの名を聞いて「ぜひ秋に訪れてみたい」と思ったのではないでしょうか。

なかなか魅力的な名が付いた丘なのですが、実際にはそういった名が付いた丘があるわけではなく、静嘉堂文庫のある丘、岡本静嘉堂緑地一帯の丘を地元の人が岡本もみじが丘と呼んでいます。・・・、いや、呼んでいたといった過去形になるでしょうか。

せたがや百景に選定され、大蔵通り沿いに「もみじが丘」というバス停もあり、一般的な名称として認識されているようでありながら、有名な場所でも紅葉スポットとなっているわけでもないので、付近で道を尋ねてもバス停の場所しか知らない人も多いかもしれません。

なんて言うか・・・、一言で言うなら素晴らしい名前の割にはマイナーな場所というか、名前負けしている場所です。

静嘉堂緑地 灯篭とモミジの写真
灯篭とモミジ

岩崎家玉川廟への参道となっているので、灯篭などが所々に置かれています。

丸子川と谷戸川の合流地点、この二つの川に挟まれるようにした台地が岡本もみじが丘のある静嘉堂文庫のある丘になります。

静嘉堂文庫については2つ後の項目にあるので簡単にしか記載しませんが、三菱グループ創始者岩崎家が収集した古書や美術品を収蔵した建物のことで、大正後期に建設されました。

この丘全体はそれ以前から岩崎家所有の土地で、明治末に岩崎家玉川廟が造られ、静嘉堂文庫が建設された後も昭和初期にかけて丘の斜面を中心に庭園が整備されるなど、岩崎家の栄華を感じるような丘だったようです。

静嘉堂緑地 もみじ丘の様子の写真
もみじ丘の様子

放置された小さな石灯篭などが自然と風景に溶け込んでいたりします。

昭和20年頃から文庫や廟以外に人の出入りがなくなり、その後は丘が自然の状態へ戻っていきました。

現在は財団によって静嘉堂文庫と収蔵品の一部を展示している静嘉堂文庫美術館、岩崎家玉川廟を含めた主要の部分は管理されていて、美術館下の崖の斜面に昔の名残りのような庭園が整備されています。

そういった管理された以外の場所は岡本静嘉堂緑地として整備され、貴重な自然空間が保全されています。

行善寺から見た静嘉堂緑地の紅葉の写真
行善寺から見たもみじが丘付近の紅葉

行善寺八景として知られていました。今でも緑は多いものの紅葉の風景としては微妙です。

静嘉堂のある丘にもみじがある風景は岩崎家所有となる以前、江戸時代から有名だったようです。

旧大山道沿いにあり、ちょうど国分寺崖線、瀬田の高台にある行善寺から眺望は江戸時代からそれなりに有名で、その眺めは行善寺八景と称えられていました。

その八景の中の一つが岡本紅葉、このもみじが丘の紅葉でした。自然豊かで辺りに何もない時代には丘が紅葉する様子が際立ち、赤く染まる様子は美しかったようです。

残念ながら現在では紅葉の季節に訪れても辺り一面建物で、岡本紅葉を含めて行善寺八景は見えなかったり、見えても残念な感じとなっています。

静嘉堂緑地 岡本もみじが丘の紅葉
モミジが紅葉する様子

全体的に赤、黄色、オレンジ、緑と光が混じった様子でした。

東京の紅葉は遅く、だいたい12月初旬頃になるでしょうか。ただ近年では暖冬のせいで紅葉も遅かったり、急激な冷え込みがない為にだらだらと色素が抜けていくようなくすんだ紅葉になってしまったりと当たり外れが激しいような気がします。

ということで何年か気にかけて訪れてみたものの、やっぱり岡本もみじが丘のモミジの紅葉は素晴らしいといった感想にはなりませんでした。

ここの紅葉がいまいちな原因を考えると、あまりにも木が多すぎて丘全体が雑木林状態になっている事が良くないのではないでしょうか。更には赤い種類のもみじとオレンジ色の種類のもみじが混ざっていて色合いが中途半端な感じです。

静嘉堂緑地 岡本もみじが丘の紅葉の写真
高い木々に挟まれているモミジ

他の木々に負けず頑張って根を張っているといった感じです。

「もみじ」というのは背が低いので、他の木と一緒に植わっていたら目立ちませんし、他の木の陰になったりして日当たりの善し悪しでも紅葉がまばらになってしまいます。

庭園や寺院の敷地などにあるもみじが美しく見えるのは配置を含めてきちんと管理されているからです。

せっかく「もみじが丘」と名付けているなら、今後はもみじの木をきちんと人工的に整備して世田谷に香嵐渓のような紅葉の名勝にすればいいのに!と無責任に思ってしまいますが、特にもみじ山を目指しているわけではなく、あくまでも自然緑地として自然な環境を残していく方針のようなので、そういった期待は難しいようです。

平成14年に選定されたせたがや地域風景資産でもこの岡本静嘉堂緑地が選ばれていますが、それはもみじ林ではなく自然林としてでしたし・・・。

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* 静嘉堂緑地と自然林について *

静嘉堂緑地の案内板の写真
岡本静嘉堂付近の案内板

結構広い緑地となっています。

静嘉堂緑地 正門脇の池にあるイチョウともみじの紅葉
正門脇の池にあるイチョウともみじ

紅葉時にはとても美しいです。

岡本静嘉堂緑地について解説していくと、静嘉堂文庫のある財団の管理する土地を囲むようにして4つのエリアから構成されています。

まず一つ目は静嘉堂文庫の入り口付近にある「正門脇の池」です。特にきれいな池というわけではなく、気がつかずに通り過ぎてしまう人も多いかと思います。

ただ、立派な銀杏の木が道と池の間に並んでいるので、紅葉の時期にはとても美しい風景となります。

静嘉堂緑地 トンボの湿地の写真
トンボの湿地

谷戸川沿いに小さな流れと湿地があります。

次ぎに谷戸川付近に「トンボの湿地」があります。湧き水が流れる小川があり、その水辺が湿地帯となり、トンボなどの水生昆虫を観察できるようになっているようです。

水生生物がいる場所には蛇などの爬虫類もいるものですが、訪れた時に1mぐらいの蛇が道をはっていてビックリしました。世田谷にもまだ蛇がいるんだ・・・と感動してしまいました。

静嘉堂緑地 生物の森の入り口の写真
生物の森の入り口

丸子川沿いの斜面一帯が保護区になっていて立ち入りができないようになっています。

丸子川付近の斜面一帯には一番広い「生物の森」があります。正門から入って舗装道路が右に大きく曲がる部分を真っ直ぐ行くと岩崎廟の参道になっていますが、この付近以外はフェンスに囲まれていて、動植物の環境保全の為に自然観察会などでしか入ることができないようになっています。

内部にはクスノキやケヤキ、シイ等が生い茂り、林床にはシダなどが生育し、湧き水もあるようです。

静嘉堂緑地 バッタ原の写真
バッタ原

丸子川沿いにあります。

静嘉堂緑地 バッタ原の温室跡の写真
バッタ原の温室跡

かつてここに温室があったようです。

最後に静嘉堂文庫が所有している庭園の下、岡本民家園の隣に「バッタ原」があります。

芝生っぽい広場に花壇が設置されていて、ほかのエリアに比べると広々とした感じがします。現在ではこの付近に自生している野草を育てつつ、バッタなどの昆虫が住める環境を目指しているようです。

この場所は岩崎家の温室だった跡地を利用したもので、斜面には煉瓦で造られた温室の遺構が残っています。

* 感想など *

静嘉堂緑地 新緑の季節の写真
新緑の季節

緑の木々や草と緑のモミジの共演もいいものです。

岡本もみじが丘と聞いて、紅葉の時期に美しいモミジの丘となっていることを想像した人が多いでしょうが、今ではまだらな感じとなってしまいましたので、部分的に紅葉を楽しむといった感じです。

残念な風景と感じるか、面白さを感じるかは人それぞれでしょうが、光の加減などでちょっといい風景になったりもします。素朴で自然な感じの紅葉を楽しむのに最適な場所かもしれません。とはいえ、自然林として管理されている現状では、紅葉時よりも新緑の季節の方が散策的には魅力的なのかなと思ったりもします。

この岡本もみじが丘と呼ばれる丘には静嘉堂文庫や岡本静嘉堂緑地だけではなく、岡本民家園、岡本八幡神社、藤田記念館があり、今でも丘全体が緑に覆われています。どこかで何かしらいい光景に出会える場所なので、紅葉だからとか、桜が咲いているからといった時だけではなく、季節を問わず積極的に訪れたい場所です。

せたがや百景No.71 岡本もみじが丘
ー 風の旅人 ー
2018年3月改訂

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* 地図、アクセス *

・住所岡本2丁目2−23−1(岡本静嘉堂緑地)
・アクセス最寄り駅は東急田園都市線二子玉川駅、あるいは用賀駅。駅から結構離れています。
・関連リンク岡本静嘉堂文庫美術館

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