* 北沢川緑道と桜並木 *
「せせらぎ」の始まり地点
環七付近、ちょうど円乗院前からせせらぎが始まります。
現在の都市部では、小さな川の多くは表面が埋め立てられ、地下に下水管が通されています。
治水対策、安全対策、衛生対策、雑草対策などといった様々な都市行政上の問題もあるのでしょうが、小川のある風景というのはめっきりと減ってしまいました。
もちろん子供が落ちたり、カエルやら虫の大量発生などがなくていいのですが、日常生活の圧迫感を感じない安らぎというか、自然の匂いや季節感を味わえるせせらぎがないという面ではちょっと寂しいものがあります。
ただ、さすがに地下に追いやった川の上に建物を建てたり、道路を敷いたりするのは危険なので、ほとんどが緑道として整備されていて、そこは季節感ある草木が植えられていたり、ベンチなどが設置されるなど様々な形で区民の憩いの場となっています。
山川医院付近
この付近は遊歩道といった感じです。
北沢川緑道は都会にあって小川のせせらぎが・・・と書くと大袈裟ですが、多くの緑道が地下に川を流しているのに対して、この緑道は小川のような水の流れが残り、その小川の流れに沿って遊歩道が設置されています。
なんてきれいな小川だろう。水はきれいだし、小川と遊歩道のデザインが洗練されている。凄いな。まるで公園みたい。最初訪れたときには感動してしまいました。いや本当です。
帰ってから百景のページを作るためにも検索して調べてみると、このせせらぎは人工的に作った流れでした。そうだったのか・・・と、少々落胆。そして都会の川は人工的に水を流している物も多いという事実を知ることとなりました。
桜橋付近
小さな橋ですが、レンガ造のおしゃれな橋です。
この北沢川緑道は名前の通り、北沢川が流れていた流路に設置されたものです。
区内では耕地整理、区画整理の際に川の流路が直線的に変えられているので昔の本当の流れはわかりませんが、上北沢にある都立松沢病院内の通称「将軍池」の湧水(武蔵野の伏流水)が主な水源で、赤堤や梅が丘を通り、池尻の北で烏山川と合流し、目黒川となり、東京湾に流れていました。
昭和40~50年代に下水道工事が行われ、地下に下水管が通され、地上に水が流れる本来の河川が消失しました。
その後、環状7号線から目黒川緑道合流点までの区間、消滅してしまった北沢川の跡地に平成6年度から住民参加によってせせらぎ(小川)を復活させる事業が始まり、工事が行われ、現在のせせらぎが誕生しました。
桜橋から鎌倉橋方面
鎌倉時代の道と言われる鎌倉堂付近です。この付近は緑道の左右で高さが結構違います。
小川に流れている水も北沢川と関係なく、東京都下水道局落合水再生センター(下水処理場)で水質を向上させて処理した再生水(高度処理水、飲用はできません)を利用しているそうです。
その再生水は地下を通って、「池尻北広場」まで送られていて、その水の一部を「代沢せせらぎ公園」内にある地下の浄化施設で浄化し、ポンプで少し上流の環七付近まで送り、せせらぎに送水しているといった仕組みになっています。
なので大雨注意報程度の大雨が降っても、このせせらぎ(小川)はあふれるどころか、再生センターからの送水は停止となる為に水位が下がるようです。
二子橋付近
茶沢通りの手前です。
こういった人工の水の循環施設にはどれくらい費用がかかるのでしょう。
維持費用について書かれていた文章があったのでそれを抜粋すると、年間費用で、圧送水分担金73万円、浄化施設約1千300万円、せせらぎの巡回点検 清掃委託に約400万円、管理協定団体に約90万円、樹木の剪定作業等に約300万円かかっているようです。
これに緑道や浄水施設の初期整備費用が18億円ちょっとかかかっているので、どこでもかしこでも設置するのは財政的にちょっと難しいですね。
稲荷橋付近
この付近は昔のままの小川といった趣です。
こういった人工のせせらぎを作らないでもいいような環境を維持するほうがはるかに安上がりかとは思うものの、近年世田谷では、いや都市部全体に言えることですが、湧き水の量がめっきり少なくなり、また生活排水も下水に直行してしまう事から、小さな川が存在するのが難しいといった現実があります。
稲荷橋の先
この付近から人が少なくなり落ち着いた感じとなります。
さて本題の桜並木ですが、ここ北沢川緑道の桜並木は小川のような流れの両脇に桜が並んでいて、とても素晴らしい風景を作っています。せせらぎとのコラボレーションといったやつです。
環状7号線から淡島通りまでの間に約150本もの桜が並んでいて、桜の時期に遊歩道を歩くとずっと桜の小道が続くのでとても気持ちがいいです。花見客の多さからもちょっとした桜の名所となっているのは確かです。
せせらぎ公園
緑道沿いにある公園です。ここでせせらぎが終わります。
これらの桜は昭和8年に鎌倉橋の東側に橋場橋が架けられたときの記念して植樹されたのが最初のようです。もちろんこの頃はせせらぎではなくちゃんとした川が流れていたので、川の土手に植えられました。
ちょうどこの頃は区内で宅地の区画整理が活発に行われ、その際に桜を植えるのが流行っていました。そういった事例をふまえて、これはいいといった感じでどんどん植えらていったのでしょう。そして木が立派に育っていくと北沢川になくてはならない春の風物詩となっていきました。
このページをご覧になった方からメールにて知った話ですが、当時は代沢小学校の卒業祝いに桜の苗木を配っていたそうです。その時にもう北沢川には植えてはダメと先生に言われたとか。
もしかしたら誰かがなんとなく植えた卒業記念の桜が無事に育ち、この桜並木の中に凪れているかもしれませんね。
* 北沢川緑道あれこれ *
緑道で花見をする人たち(鎌倉橋付近)
緑道に人があふれていました。
緑道で花見をする人たち(桜橋付近)
さすがにコンクリの上では尻が痛くなります。常連さんは座布団を持参していました。
毎年春に行われる代沢桜祭りは、まだ緑道として整備される前から行われていた桜まつりだったようです。
百景の文章では昔はパレードが行われるほど活気のある桜祭りだったようですが、残念ながら近年では大々的な桜祭りは行われていなく、緑道で各関係団体のPRといったとても小規模なイベントになってしまいました。
ただ週末の緑道の賑わいには今なお健在で、訪れてびっくりしましたが、緑道がすべて花見客で埋まっていました。これぞ北沢川緑道の春といった独特の風情があって感じで楽しそうでした。
でも、コンクリートの上にビニールシートを敷いただけでは尻が痛くなります。なので常連さんは座布団を持参していました。ここでの花見には必須のようです。そのうち海のビーチパラソルのように座布団や簡易椅子のレンタル屋が現れたりして・・・。
緑道上に設けられた公園
水路は公園の下を通ります。
緑道の途中には児童用の公園もあります。この部分ではせせらぎはお休みで、せせらぎの上に公園があり、遊具が設置されています。
母親が小さな子を連れて緑道を散歩して、少し遊具で遊ばせて帰るというのには最適なあそび場になっている感じです。
代沢小学校の壁
壁に魚が泳いでいて楽しそうです。
代沢小学校の裏門跡?ではなく文学碑
坂口安吾の旧宅に使用されていた門柱です。
緑道沿いには代沢小学校があり、緑道沿いの壁には魚の群れが描かれていました。遊び心満点というか、ほのぼのとしていいものです。
また小学校の緑道沿いには意味深な古い門があります。最初に訪れたときは、かつてはこちら側にも入り口(裏口)があって、その名残りで残してあるのだと勝手に思い込み、小学生が小川にかかった小さな橋を渡り、桜並木を登下校しているといったほのぼのとするような光景を想像してしまいました。
後日北沢緑道について調べていて、この門は門柱を兼ねた安吾文学碑だと知りました。
坂口安吾氏は作家で、この代沢小学校で一年間代用教員として勤めました。その時のことを題材に書いたのが「風と光と二十の私と」という作品です。
この門柱は彼が住んでいた蒲田の家の門柱で、取り壊しの際に寄付金を募って北沢川文化遺産保存の会の方々がここに移転し、世田谷区教育委員会に寄贈したものになります。
後日訪れたときに改めて見てみると、ちゃんと解説版が設置されているし、よく見ると柱に取り付けられている住所表記も大田区になっていました・・・。
それはそれで価値のあるものでしょうが、かつての裏門だった方が夢があったような・・・と思ってしまいました。
アジサイの季節
この時期もいい感じです。
北沢川緑道のせせらぎはコンクリートで固められた部分もありますが、周りが土部分もあり、植物が植えられています。
桜のことばかりに目が行きがちですが、水生植物なども楽しむことができます。桜の時期以外にも散策を楽しんでみてください。
伐採された桜の木
残念ながら寿命を迎えてしまったようです。
近年では桜の木の老木化が進み、2010年の秋、北沢八幡の秋祭りを見学した際に寄って見ると、あれっ、ここなんだか以前よりもすっきりしているぞと思う場所が多々ありました。どうやら多くの桜の木が伐採されてしまったようです。
帰ってから調べてみると、世田谷区が区内の桜を一斉に調査し、倒木の危険があるものは伐採し、治療できるものは処置をしてといった作業を行ったようです。桜の木にも寿命があるのでいつかはこうなってしまう運命ですが、今後はなるべく新しく桜を植林していくようです。
* 地域風景資産について *
代田川緑道保存の会による案内板
地域の大事なコミュニティーとなっているようです。
代田さくら祭りの会場
北沢川文化遺産保存の会による地域案内
北沢川緑道はせたがや地域風景資産にも指定されています。おそらく緑道を歩いた人の多くが感じたと思いますが、緑道とせせらぎの内部がきれいに整備、清掃されています。
花が植えられていたり、置物が置かれていたり、雑草が見苦しくない程度に除去されていたりと、業者に任せて適当に整備しているだけではこんなにきれいにはなりません。こういった作業を行っているのは地域のボランティアの方々で、そのおかげで雰囲気のいい空間と良好なせせらぎの環境が維持されているといったわけです。
地域風景資産の登録団体は北沢川文化遺産保存の会となっていますが、「北沢せせらぎ公園協議会」「北沢せせらぎクラブ」「北沢川児童遊園保存協力会」「代田自治会」の4団体が管理協定を締結し、代田川緑道保存の会緑道の清掃等を行っているようです。
詳しくは分かりませんが、緑道内に設置されていた案内板によると「代田川緑道保存の会」が代田川緑道ニュースや清掃の案内を行っていて、せせらぎの開始部分から鎌倉橋までの担当になっているとの事です。
* 感想など *
せせらぎを流れる桜の花びら
足を止めて花びらが流れていく様子を眺めてみてはどうでしょう。
都会では鉄道が高架、或いは地下に敷かれているのと同じで、小さな川も地下に追いやられてしまい、町並みから小さな川がある風景というものが消えつつあります。
この北沢川緑道では小川のようなせせらぎが・・・と書くと大袈裟ですが、そういった雰囲気が残っていて、散策するのが楽しい緑道となっています。
特に桜の季節は美しい散策道になります。頭上には桜の花、地上には大勢の宴会をする人々、歩いているだけで楽しい気分になります。
そしてせせらぎに目をやると桜の花びらがくるくると回転しながら、あるいはぶつかったり、重なったりしながら水を流れていきます。水の流れと桜の繰り広げるドラマです。
足を止め、その様子をしばらく眺めていると、やっぱり水の流れって心が落ち着くな・・・と改めてせせらぎの良さを感じてしまいました。
せたがや百景No.7 北沢川緑道と桜並木
ー 風の旅人 ー
2018年11月改訂