* 東宝撮影所と仙川の桜並木道について *

撮影所の他にも住宅展示場とホームセンターがあります。
世田谷通り方面から成城の駅に向かう途中の仙川沿いに東宝の撮影所があります。高台にある成城からみると崖下の土地、成城の外れということになるのでしょうか。ここに撮影所が建てられたのは昭和6年のことで、最初は映画録音会社のP.C.L(写真科学研究所)でした。昭和11年になると関連の三社が合併して東宝となり、この撮影所も東洋一を誇る規模に発展していきます。
一方、成城の町は昭和2年に小田急線成城駅が開通し、本格的に町の形成が始まっていくことになります。そして周知の通り高級住宅地として発展していきます。成城が人気のある高級住宅地になった要因は幾つかあげられますが、その一つにこの東宝の撮影所の存在があげられます。それは映画俳優が撮影所に近いという事もあって成城に暮らすようになり、また撮影所から近いので成城を含めたこの地域がロケ地として使われる事も度々ありました。映画俳優が暮らす町、映画のロケ地の町といった憧れから人気となり、人気のある町=地価高騰=高級住宅地という一面があります。そういった事情もあり古くからの高級住宅街に住む人からすると成城はミーハーな町、チャラい町、同じ高級住宅地の土俵に上げてくれるなといった思いを強く持っていたりするようです。

東宝、そして黒澤明監督の代表作です。この近辺でも撮影が行われました。

撮影スポットになっています。
少し古い話をすると、この付近の成城一丁目は戦前までは皇室の御料林が中心だった地域で、戦時中には駐屯地が設けられたりと、本当に何もなかった地域のようです。例えば東宝といえば昭和29年に公開された七人の侍が有名ですが、その一部は少し仙川沿いの下流にある大蔵団地内にある公園でロケが行われたそうです。もちろん本セットは別のところに設置されたようですが、少々の場面では問題なく山村の雰囲気が出せてしまうぐらい何もない自然豊かな地域でした。その後仙川沿いの開発や大蔵団地の建設が行われるのが昭和35年以降のことになります。
現在でも仙川沿いに撮影所は健在で、設備の古くなった撮影所は2003年ごろから2011年にかけて順次ステージや施設の建替えや改造を行い、足かけ8年、総額100億円を投じた大改造計画が行われました。この大改造計画により、スタジオの実に90%以上の施設が建て替えられ、ステージは8棟、付帯施設は11棟が新築され、さらに光ファイバー網の敷設等といったデジタルやハイテク技術に合わせたインフラ等の機能更新も推進されました。そのことにより、ここで企画開発のプリプロダクションから仕上げのポストプロダクションまでの一貫した生産ラインを提供できるようになり、再び東洋随一と胸を張れるような近代スタジオに生まれ変わったようです。
といっても内部の見学は基本的にできないので、部外者にはへぇ~そうなんだ~といったぐらいで実感がわきませんが、メインゲートの建物や見える範囲内の建物が新しくなったり、建物の壁に7人の侍の絵が描かれたり、受付の建物の前にゴジラの像が設置されたりしたのはこの時期のことです。

東宝の撮影所らくしゴジラがあしらわれています。
この他、映画用のカメラの図柄もあります。
桜の時期以外も気持ちのいい川辺の道となっています。
ゴジラの像があるメインゲート前の道を進むと、昔は関連会社の東宝大工センターというホームセンターがありました。大道具係の人が材料を調達しやすくするためにホームセンターまで造ってしまったようで、その品揃えの豊富さは日曜大工を行うときには重宝したものです。しかしながら大改造計画の一環なのか、2010年1月で閉店してしまい、今では一般の企業が経営する「くろがねや成城店」というホームセンターに替わってしまいました。
東宝の話が長くなってしまいましたが、東宝スタジオや東宝大工センターがあった仙川沿いは遊歩道として整備されていて、とてもいい散歩道となっています。遊歩道沿いには桜が植えられていて、桜の時期にはとても美しい桜並木となり、それ以外の時期にも緑の美しい並木となっています。遊歩道沿いのフェンスの所々にゴジラや撮影用のカメラの絵が入っているのもここならではです。

所々に設置されています。
地元出身のアーティストがデザインしたものだそうです。
川にせり出すようにして枝が伸びているので、川面に桜が映ってきれいで、特に幾つか架けられている橋の上から眺めると、実際の桜と川面の桜が合わさって重厚な感じとなります。そういった美し風景から地域風景資産に選定されています。
川沿いのフェンスにはさりげなくせたがや地域風景資産のプレートが設置されています。これは仙川・緑と水の会の方が選定されたことを多くの人に知ってほしいという願いから、許可をもらって取り付けたものです。桜の花びらを模ったなかなかおしゃれなプレートですが、メンバーの知り合いの地元出身のアーティストがデザインしたものだそうです。こういった風景資産を広める努力は結果として風景を守り育てていくことであり、みんなでこの風景を大事にしようといった共通認識が芽生えれば、この風景も安泰でしょうか。