世田谷散策記 タイトル
せたがや地域風景資産 #2-9

若林3丁目緑の小道

若林3丁目の世田谷通りから若林駅に向けて

かつての用水が暗渠になってできた300m程の小道は、長年にわたる住民参加のもとで遊歩道として整備されたものです。 花とみどりが豊かで車を気にせずゆっくりと歩ける道として親しまれています。(紹介文の引用)

広告

1、若林3丁目緑の小道について

上馬、若林の地図(国土地理院)

国土地理院地図を書き込んで使用

世田谷通りが環七が交差する部分は、環七側がアンダーパスになっていて、世田谷通りの下を通るようになっています。

その交差点に架けられている橋の名は、常盤陸橋。世田谷に古くから伝わる常盤伝説、或いは鷺草伝説にちなんだもので、せたがや百景にも選定されている常盤塚が世田谷通りからほんの少し入った場所に残っています。

その常盤塚から少し西に進んだ交差点付近に、かつて常盤橋が架けられていたそうです。といっても大きな川ではなく水路のようなものに架けられていた橋で、関所的な役割をしていたのではないかと言われています。

若林3丁目緑の小道 世田谷通り沿いにある看板の写真
世田谷通り沿いにある看板

入り口には立派な看板が設置されています。

その交差点付近の北側、レクサス若林(以前はネッツトヨタ)の横になりますが、さりげなく目をやると緑の小道という看板が目に入ってきます。なかなかおしゃれな看板で、この先に喫茶とか何かお洒落な店でもあるの?と思ってしまいます。

この看板のところから狭い歩行者用の小道が続いていて、この小道がこの項目の緑の小道となります。

水路を埋めて造られた道ということなので、もしかしたらかつて常盤橋が架かっていた水路となるのでしょうか。そうならちょっと歴史のロマンを感じたりします。

若林3丁目緑の小道 世田谷通りから眺めた小道の写真
世田谷通りから眺めた小道

この付近は圧迫感がなくいい感じです。

緑の小道は、若林三・四丁目地区に暮らす人々によって結成された「若林街づくり協議会」の提案を受け、世田谷区が整備したものです。

世田谷区内の小さな川の多くは、地下水や湧水の減少で流れる水の量が少なくなり、暗渠として地下に追いやられ、地上部分は緑道などとして利用されています。

せたがや百景や地域風景資産にそういった緑道が多く登録されていますが、この小道は他のものとは設置された理由が異質で、その理由を知ると「へぇ~そうなんだ!」と、興味深く感じることでしょう。

1960年代の若林の航空写真(国土地理院)
1960年代の若林(環七、世田谷通りが整備されたころ)

国土地理院地図を書き込んで使用

2017年の若林の航空写真(国土地理院)
2017年の若林

国土地理院地図を書き込んで使用

まず、この小道がある若林三・四丁目地区について書くと、ここは耕地整理や大規模な区画整理が行わていなく、かつての農道の名残で細く曲がりくねった道や袋小路が多く、生活をする上で不便な地域です。

ごみ収集車が入れない場所では、区の軽トラックにゴミを載せ、少し広くなった場所で収集車に積み替えたり、タクシーを呼んでも家の前まで来てもらえないなど、極端に道路事情が悪かったりします。

なんでも、車のカーナビゲーションの正確さを検証するため、実車走行の場としてこの地区を含めた若林が選ばれているとかなんとか。笑ってはいけないのでしょうが、笑ってしまう話です。

でもまあ、こういったことは手間と工夫で、何とかなる問題です。実際、こういった不便な地域、いや、ここ以上に不便な地域は日本国内に山ほどあります。

若林3丁目緑の小道 小道の様子の写真
小道の様子

住宅の合間の道といった感じです。

問題となるのは、救急車が入る事のできない場所では、徒歩で患者のいる場所に向かわなければならなかったり、地震時に建物が倒壊すると、避難通路がなくなったりと、いざという時に命に係わることです。

でも、これもまあ・・・、率直に言ってしまえば、暮らしている人の問題であって、自己責任という言い方もできてしまいます。洪水や土砂崩れの起きやすい場所に暮らしているのと一緒です。

こういった個の問題ではなく、全体の問題、いわゆる大局的な問題があります。それは火事の際に消防車が入れないことです。ここは古くからの木造住宅が密集しているし、さらに広げて考えるなら、周辺一帯も住宅が密集しています。

そう、ここは大都会東京。東京の大地は見渡す限り家屋で埋め尽くされています。もし初期消火に失敗し、周辺にも燃え広がるようなことになれば、大惨事になりかねません。

大火災のイメージ(*イラスト:ひろせみつこさん)

(*イラスト:ひろせみつこさん 【イラストAC】

更に言うなら、関東大震災のような大地震が起きたら、どういうことになるでしょう。火災が発生しても消防はすぐにやってこれなく、密集した場所で火災は広がり、火の海となって隣接地域に2次被害を与え、壊滅的な被害となる可能性があります。

なので、ここに暮らす住民にとっての切実な問題であると同時に、周辺地域を含めた大きな問題として考えなければなりません。

若林3丁目緑の小道の写真
小道の様子

緑の小道と名がついているように、生垣が続いた道です。

そういった問題を少しでも解消させようとして整備されたのが、この「緑の小道」になります。緑の小道は、緊急時に避難路として、場所によっては緊急時に救急車や消防車等の緊急車両が通行できる事を第一目的に整備されました。

もちろん、この小道が一本できたぐらいで、この地域の道路事情の悪さが解消されるわけではありません。まだまだ改善すべきことは山ほどあり、他にもこのような道を造ったり、町域内の狭い道路をどんどん広げていくことが望まれます。

と、言うのは簡単ですが、現実問題としてそれには土地が必要です。家が建っている以上、立ち退きを求めるような再開発をしない限り、道を広げることはできません。それは予算的にも、時間的にも簡単にできることではないので、今の状態の中で改善できる箇所を修正していくしかありません。

若林3丁目緑の小道 防災整備計画の案内の写真
防災整備計画の案内

この地域では所々に張ってあり、法の周知と理解を広めています。

こういった問題を協議し続けているのが「若林街づくり協議会」で、今暮らしている住民にとって何が最善なのか。住民に改善点や不満点などのアンケートをとって、どのようにすれば地区の防災などが向上するのかを協議していきました。

そして、協議の末、若林地区の防災の向上と住環境の整備のための街づくりルールの取り決めを要望書とともに区長へ提出しました。

その一環で造られた一例が、この緑の小道で、もっと大きな根本的な街づくりの方針として、「若林3・4丁目地区防災街区整備地区計画」の指定を区から受けました。

このことにより、新しく住宅などの建築物を建築する際には、建築基準法第67条の2の規定により幾つかの制限を受けることになります。

また、区役所に近い立地から、隣の世田谷四丁目などと「世田谷区役所周辺地区防災街区整備地区計画」に指定されました。

更には、現在の制限のままでは、国士舘大学一帯広域避難場所の周辺で大火が起きた場合、輻射熱の影響(火災の熱でサウナのような状態になってしまう)を受けやすくなるということから、広域避難場所外周120mの区域内が「特定防災街区整備地区」に指定されました。

一段と防災機能の確保・強化が行われましたが、これは新しく建築する場合に適用されるので、本当に効力を発揮するのにはしばらく時間がかかります。でも、少しずつ町が改善されていく実感と、いざという時の安心感が増したのではないでしょうか。

若林3丁目緑の小道 花壇のある小道の写真
花壇のある小道

ちょっと広めの場所には花壇が設置されています。

緑の小道は、地域の顔が見えるコミュニティづくりの場としても利用されています。それはどういうことかというと、世田谷区と「公園管理協定」を結び、維持・管理・運営は「若林街づくり協議会」の方々が中心となって行っていて、2週間に一度の清掃・見回りの他、花や樹木の手入れや草抜き等を行ったりしています。

やはり緑が多く、花などが咲いている小道は歩いていて気持ちいいものですし、地域のコミュニケーションや絆が深まれば、道路事情の不便さを人の協力で補うことができる場合もあります。

様々な役割を担っているこの小道は、地域にとっては単なる通路ではなく、若林地区の地域住民の絆の象徴となっているようです。

若林3丁目緑の小道 若林ぞうさん公園の写真
若林ぞうさん公園

小道沿いにある公園です。ぞうさんの遊具があります。

その他、「若林街づくり協議会」では、災害時の「いざ」という時、お互いに助け合える環境づくりを行うため、花や緑をテーマとした講習会「花の会」を毎年春と秋に開催していたり、地震等の災害に強い街づくり、建物づくりについての学習やイベントを開催しています。

街づくり協議会の定例会には、世田谷総合支所街づくり課の担当者に出席してもらい、地区内での建築動向や公道・広場などの使われ方などについて意見交換を随時行っていたりもします。

「こうして生まれた!緑の小道 ~若林街づくり協議会のあゆみ~」という街づくりへの取り組みをまとめた本も出版していたりと、実に様々な活動を行っています。

不便さから地域の強いまとまりが生まれ、他の地域よりも活動の目的がはっきりしているというか、自分の命や生活に関わるので、活動に真剣さや推進力があるように感じます。

また、地区内に移り住んで来る方々や建築、不動産関係の業者の方たちに、「若林3・4丁目地区防災街区整備地区計画」が施行されていて、建物の建築に制限があることを知らせる看板を地区内に設置もしています。町域の所々にこういった案内板が設置されているというのも、この地域ならではの風景となるでしょうか。

若林3丁目緑の小道 小道にある桜の写真
小道にある桜

季節を象徴する植物があると通る楽しみが増えます。

不便、不便といいながらも東京は生活自体が便利です。日常生活で不便することのない若い世代などは、なかなか活動に理解を示してくれない人もいるかと思います。

実際問題、こういった事は自分自身の身に降りかかってこないと、自分の時間を削ってまでして積極的に地域活動に協力しにくいものです。それが都会で育った人間の標準的な考え方です。

でも、本当に困ったとき、或いは火事や災害の時に地域の人に助けられて、地域の人々、他人のありがたみを初めて感じることとなるでしょう。

こういった活動の継続は他の地域からしてみればうらやましく感じるはずです。いざというときのための包容力。そういった表現が適切でしょうか。

2、感想など

若林3丁目緑の小道 小道の脇に咲く花の写真
小道の脇に咲く花

道の脇の狭い花壇ですが、季節の花が植えられています。

若林にある若林3丁目緑の小道は、この地域の特殊な事情を知らずに歩けば、特に印象に残らない道かと思います。

しかし、地域の道路事情の悪さからできた経緯や、住民が苦労してきた歴史を知ってから歩くと、道の風景が少し変わって見え、周囲の町並みなどにも興味がいくことでしょう。

不便さは地域の絆を深める。これは私自身、世界を旅して感じたことです。不便だからこそお互いが協力して生きていこう。厳しい自然の中で生きていくためにみんなで協力しよう。そういった地域の絆を見ていると、人々の共同生活が美しく感じます。

少々道が悪いとはいえ、やっぱり便利な東京。更には人の出入りが激しい土地柄なので、田舎の集落のようになかなか地域が一つになるということは難しいでしょうが、不便さを利点として頑張ってほしいです。

せたがや地域風景資産 #2-9
若林3丁目緑の小道
2025年2月改訂 - 風の旅人
広告

・地図・アクセス等

・住所若林3丁目(世田谷通りからぞうさん公園を通り若林駅方面に抜ける道)
・アクセス最寄り駅は世田谷線松陰神社前駅、若林駅
・関連リンク若林町会
・備考ーーー
広告
広告
広告