* 芦花公園花の丘について *
せたがや百景にも登場するのでご存知の方も多いかと思いますが、環八の千歳台交差点付近に芦花公園があります。
芦花公園は文豪徳富蘆花が暮らした土地を整備した公園で、園内には東京都の史跡に指定されている徳冨蘆花氏の旧宅や墓石、遺品などを展示した記念館があります。
一般的には芦花公園という名称の方が認知されていますが、正式には都立蘆花恒春園となります。
これは蘆花が自分の土地を恒春園と名付けていたことに由来しています。なんでも大正時代に台湾の南端の恒春という地に蘆花の農園があるといった評判が立ち、ある人からその農園で働かせてくれないかと依頼されたとか。
これはあくまでも噂で、台湾に農園があるといった事実はなかったのですが、これは何だか縁起のいい話だぞと考えた蘆花は「永久に若い」という意味も含めて自分の土地を「恒春園」と名付けたそうです。
その名は蘆花が亡くなり、後に愛子夫人によって公園にと敷地が寄付された際に公園名に引き継がれました。
でも、実際は呼びやすく、分かりやすい字を使った芦花公園という愛称の方が一般的な呼称になっていて、旧宅や記念館がある部分を特に強調するときに蘆花恒春園、或いは恒春園エリアという言い方をしている感じです。
芦花公園の南側には花の丘という区域があります。花の丘なんてものはありきたりな感じがしますが、ここの花の丘は都内にある一般的な公園としてはかなり広い空間が花壇や芝生等に使用されています。
とても素敵な丘で、散策で訪れるには十分すぎる満足感を得られ、現在の芦花公園を象徴するエリアといっても過言ではないと思います。
もちろん都内にある普通の都立公園なので、辺り一面花が咲いている丘を・・・というわけにはいきません。そういう風景を求めるなら立川の昭和記念公園やもっと郊外へ伊豆や秩父などの観光名勝としても知られる大きな花の風景を訪れたほうがいいでしょう。
最初訪れたときは、百景の項目、いわゆる恒春園エリアを調べにやってきた時でした。
百景の紹介文にも蘆花恒春園の部分しか触れられていなかったので、花の丘については全く知らず、恒春園エリアの茅葺住宅もよかったけど、それ以上に何て印象的で、素晴らしい花の丘があるんだろう。芦花公園っていい公園だな。と感激してしまいました。
このときは徳冨蘆花についてもよく知らず、名前に花の文字が入っているぐらい花が好きな方で、そういった事にちなんで花の丘なんてものがあるのかな・・・。と勝手に思って帰宅しました。
後日、このエリアは百景の選定時にはなかったもので、しかも地元の人々の熱意によって花の丘が設立されたり、ボランティアの方々によって管理されていたりすることを知り、行政が造った花の丘ではなかったんだと驚いたのと同時に、なるほどだからあれほど素晴らしい花の丘に仕上がっているんだと納得しました。
芦花公園は現在の敷地全てが徳冨蘆花氏の敷地だったわけではありません。
恒春園エリア、蘆花の居宅がある辺りが蘆花氏の敷地で、その後、都が公園用地として少しずつ周りの土地を買収していき、現在の公園の広さまで敷地を広げていきました。
一番最近では平成7年頃に80軒ほどの民家などが立ち退いて新たな公園のスペースができました。これが現在の花の丘の部分になります。
最初、都はこのスペースを利用して「樹林公園」を計画していました。かつて蘆花が過ごした頃の武蔵野の森を再現しようとしたのでしょうか。
それを知った地元商店街、町会、住民は、樹木よりも一年中花が咲いているような明るい公園にして、そこを地域の住民などの憩いの場としたいと考えました。
そして有志が集って話し合いを重ね、具体的な形となったところで都に要望書を提出しました。
その要望が受け入れられて造られたのが花の丘で、平成11年4月に第一回桜祭りと同時に完成記念式典が行われました。
もし当初の予定通りに「樹林公園」となっていたなら、駒沢緑泉公園の樹木園のような感じになっていたのでしょうか。そうなっていればすぐ横にある東京ガスのガスタンクは木に隠れて見えにくいといったメリットはあったのかもしれません。
現在花の丘を管理しているのは「NPO法人芦花公園花の丘友の会」という団体です。
団体としては平成8年7月に結成し、平成11年11月にNPO団体として認可されていますが、それ以前から有志によって樹林公園から花の丘への変更交渉を行ったりしています。
その活動は現在でも積極的かつ、斬新的で、国土交通省の手作り郷土賞、東京都公園協会のボランティア活動部門の表彰など幾つものボランティア関係の賞を受賞しています。
活動は大きく分けると3つに分けられて、「花グループ」という花壇の手入れを行う活動、「イベントグループ」という毎月第一日曜に花の丘で行われる花の丘フェスタの実施する活動、「とんぼ池グループ」という「みんなのとんぼ池」「芦花公園自然観察資料館(通称:やごの楽校)」の管理運営です。
待機児童減少、保育所不足が叫ばれる昨今、この花の丘の南側の多目的広場に認可保育所が建てられることとなりました。
2016年10月に予定地で地質調査をすると、なんと土壌から基準を超える汚染物質が発見されました。
実際に調査すると、花の丘を含め32箇所中20箇所で、土壌汚染対策法に定める土壌含有量基準を超過する「鉛及びその化合物」が検出されました。特に保育所を建設する予定の南側での数値が高くなっています。
この場所は1990年代にはガソリンスタンドや住宅があり、その後花の丘として整備された土地との報道。
もともとあった土の汚染なのか、花の丘を作るために持ってきた土なのか、よくわかりませんが、以前、区内では放射能物質が埋まっていたこともあり、どこに何が埋まっていても驚かないというのが、ほとんどの人が思うところではないでしょうか。
それにこの付近は昔はゴミ捨て場があった場所です。徳富蘆花の愛子夫人が風向きによっては強烈なゴミの臭いが漂ってきて、体調を崩し、引っ越していった経緯があります。そういった影響もあるのかもしれません。
今後は盛土などで対応し、再開を目指すという話ですが、一刻も早く土壌対策がなされ、再び楽しく、素晴らしい花の丘が開園してくれることを願うのみです。
* 花の丘と四季の花 *
実際に花の丘を訪れるとよくわかるのですが、ここの花壇はよく手入れが成されています。
季節によって花の種類の多さや華やかさは異なりますが、一年中花が咲いているようにと花の丘友の会の花グループによって色んな種類の花が植えられています。
だから何か季節感のある花の写真が撮りたいなと思った時、ふらっと立ち寄ってみると必ず何かしら花が咲いているのでとてもありがたいです。
2千平方mある花の丘には5つの花壇があり、その周囲には花の丘にはシンボル的存在である15本ある高遠コヒガン桜が並んでいて、春にはとても素晴らしい風景となります。
この桜は長野県の高遠市から送られたものです。高遠市の桜といえば・・・ご存じの方も多いと思いますが、高遠城址の桜は桜百選にも選ばれるほどの素晴らしい桜で、旅好き、写真愛好家などが一度は開花時期に訪れたいとあこがれるような桜の名所です。
ここの高遠コヒガン桜は一般的なソメイヨシノよりも一週間ぐらい早く咲くので、ソメイヨシノが咲き始めたころに訪れるとちょうどいい感じです。
高遠コヒガン桜が咲いているときは花の丘の周囲が桜のピンクで染まり、色とりどりの花壇の花とチューリップ、そして菜の花と花の丘全体がとても華やかに感じられ、一年で一番印象的な時期となります。
桜は高遠コヒガン桜だけではなく、その後ろには一際赤い桜があり、それはヨウコウ(陽光)桜という品種です。あまり一般的ではなく最近改良された園芸用の品種らしいのですが、これだけ赤いと梅の花と間違いそうなぐらいです。
その他、高遠コヒガン桜の少し後に咲く枝垂れ桜も外周の外側に植えられていたり、徳富蘆花に所縁の次郎桜の末裔といった木もあります。なぜ次郎桜なのか、解説板がありますのでぜひ探してみてください。
一般的なソメイヨシノに関しては、花の丘にはありませんが、芦花公園内の広場などにちょっとだけあります。
高遠コヒガン桜の反対側、東京ガスのガスタンクのある方にはもう一つの花の丘の象徴であるアジサイの一種アナベルが植えられています。
手入れがいいのか、こういった品種なのかわかりませんが、地面まで大きな白い花が付いたアナベルがずらっと並んだ様子は圧巻で、独特の雰囲気を持っています。
青に紫に色とりどりのアジサイが並んでいる様子の方が一般的で、好きだという人も多いかと思いますが、白いからこそ光加減によって様々な表情を見せてくれる面白さもあります。
咲き並んだ様子は地味というべきか、高貴というべきか、きれいというべきか、見たときの天気や光加減、気分次第で変わってくるかもしれません。
5つの花壇のうち一番大きくて色んな花で彩られている花壇はボランティアの方々が手入れをしている花壇で、パンジーやビオラなど季節に合わせて色とりどりの花がきれいに植えられています。
その他の花壇では季節によって菜の花やチューリップ、ひまわり、コスモスなどがまとめて植えられています。一つの大きな花壇にまとまって同じ花が咲いている様子は世田谷ではなかなか贅沢というか、それなりに大きな風景になります。
こういった花壇は花の会の指導や見守りで近所の千歳台小学校、芦花小学校の子供たちが総合学習として育てているものです。
自分たちの育てている花が閉鎖的な環境である学校内の花壇ではなく、多くの人が訪れる公園にあるというのはいいものでしょうね。
花の丘に親と遊びに来た子供がこれは自分が植えた花だよと自慢している様子が浮かんできます。
特に自分の背丈より大きくなるひまわりはいい自慢になるでしょう。あんたよりも立派になって・・・と、からかわれるのがオチでしょうが。
この他にも季節によってスイセン、芝桜、ネモフィラ、ポピー(ひなげし)、つつじ、花菱草、日々草、サルビア、マリーゴールド、メランポジウム、セキチク、フロックス、などなど・・・
花に関しては詳しく解説するほどの知識を持ち合わせていないので、花の丘の会のサイトに植えてある花についての解説が載っているのでそちらで確認するのがいいかと思います。
花壇の花、まあ花火にしてもイルミネーションにしても普通に見てきれいなものというのは、カメラの使い方さえ分かっていれば誰でもきれいな写真が撮れるものです。
花は何時間写真を撮っていても、毎日のように写真を撮っても怒らずきれいに咲いていてくれ、写真の練習に付き合ってくれます。好きな花や風景、インスタ映えなどを狙って積極的に散策に訪れてみるといいかと思います。
* 花の丘フェスタについて *
季節の花や行事に合わせて、月に一度、第一日曜日にイベントグループによって花の丘フェスタというイベントが行われています。
現在は会場である花の丘が使えない為に、一時的に八幡神社南側で行われています。(*ここに載せているのは全て花の丘で行われたときのものです。)
開催月は1月、5月、8月、12月には行われなく、3月に紅梅祭り、4月にサクラまつり、6月に新緑まつり、7月に七夕まつり、10月に秋まつり、11月にハロウィン仮装コンテストが行われ、出店やフリーマーケットが並び、多くの人が訪れます。
花の丘が使えていたころは、2月にはもちつき大会、3月には菜の花まつり、4月には高遠コヒガン桜まつり、5月には子供まつり、6月にはポピーまつり、7月には七夕まつり、9月にはひまわり祭り&盆踊り大会、10月にはコスモスとやきいも大会、11月にはハロウィン仮装コンテスト、12月にはクリスマスツリー・コンテストといったイベントとなっていました。
現在では花の丘が使えるようになりましたが、元通りになるまではイベントの名称や内容が流動的になるかもしれません。
個別にイベントを見ていくと、一番賑わうのが4月の桜祭りです。この時は土日の2日間に渡ってイベントが行われます。設置されたステージでは歌などのイベントも行われ、一般の花見客を含めて多くの人が訪れます。
7月の七夕まつりでは短冊に願いを書き、笹の木につけていきます。9月、唯一土曜日の開催となる踊り大会では浴衣姿の子供たちで賑わい、10月の焼き芋大会では無料でその場で焼いた焼き芋が配られるので、大行列ができていました。
11月のハロウィンは花の丘が仮装した子供達で賑わいます。まず仮装パレードが行われ、花に囲まれた花壇の周りを一周します。そのあとは階段のある藤棚がステージとなり、仮装した子供が仮装を披露する仮装コンテストが行われます。
このようにNPO法人芦花公園花の丘友の会が中心となって様々な活動を行うことによって、子供達の成長のためのレクリエーションの場となるだけではなく、花の丘を中心とした芦花公園がとても魅力あるものとなっています。
近年では地域ぐるみの街づくり、子育て支援、高齢者支援などといったことが取りざたされますが、地域活動やイベントを定期的に行ったりすることで地域のネットワークが広がり、問題に対処しやすくなっているというのも注目すべきことだと思います。
* 水辺の自然やごの学校 *
花の丘のすぐ横には、「やごの楽校(芦花公園自然観察資料館)」と「みんなのとんぼ池」があります。
これらの施設は「トンボはどこから飛んできたの?」といった子どもの素朴な疑問から、平成17年11月にとんぼ池と観察小屋を作るという試みが始まり、地域の人々の手によってまず池が掘られ、そして手作りで小屋が組み立てられました。
管理、維持は花の丘の会「とんぼ池グループ」によって行われていて、定期的に池の清掃を行ったり、小屋の運営管理をしているほか、多摩川へ生物の採取をしに出かけたりもしているようです。
ここの池は掘って造った人工の池なので、さすがに崖線付近の湧水が流れる池とは違って自然豊かとはいえませんが、都会では虫を観察する場所も機会もなかなかないので、虫が好きな子供たちの楽しい遊び場になっているはずです。
ちなみにトンボの幼虫ヤゴは肉食です。捕まえようとして噛まれると痛いです。肉食なのでミジンコや蚊の幼虫などを食べたりしますが、メダカなどの魚を襲って食べることもあります。
この池からどれくらいのトンボがこの池から羽ばたいていったのでしょうか。子供に見守られながら多くのトンボが羽ばたいているといいですね。
* しあわせの野音の会 *
花の丘フェスタと同じ日、芦花公園しあわせの野音の会によって野外コンサート(パークライブ)が行われます。
以前はやごの学校前で行われていましたが、現在は花の丘閉鎖による一時的なものかわかりませんが、草地広場(雨天はログハウス)で行われています。
野音の会は文化、芸術を通して環境を考えるといったキャッチフレーズの元で、地域(芦花公園)の魅力アップを目指しているようです。良い演奏だなと思ったら運営資金として100円ほど募金を募っているので協力するのといいでしょう。
木々に囲まれた中での演奏の様子は森の中でのコンサートといった感じで、特に晴れた秋の日などは木漏れ日がキラキラとしてとても雰囲気がよかったです。
また蘆花恒春園の茅葺を舞台にした茅葺コンサートも三回ほど行年っています。こちらはクラシックやジャズなど落ち着いた感じの演奏が多く、人気のコンサートになっています(*詳しくは蘆花恒春園のページを参照)。
芦花公園ではこういったイベントが第一日曜日を中心に行われているので、特にする事がないのでしたら花を見がてら芦花公園を訪れてみてはどうでしょう。
花に囲まれてリラックスでき、いい演奏を聴けて、出店で買い食いもできてと満足感が得られる休日となるはずです。
* 感想など *
花壇の手入れを一人で行えば土と人間の関係でしかありませんが、仲間と協力して行うことで人と人との関係に変わります。「育てる」という責任感を求められる事を共通の目的とする事で、分担作業がスムーズにでき、仲間意識や協調性も構築しやすいはずです。
人と人とのつながりで作られている美しい花壇、そして楽しいイベント。さらにはやごの池や音楽の演奏も加わり、芦花公園のコミュニティーの輪がどんどん広がっています。継続は力なり。ここのコミュニティーの輪を見ていると、この言葉がふさわしく感じます。
そして元を正せばこういうきっかけや地域の絆を作ったのはこの地で暮らした徳富蘆花氏と、土地などを寄付した愛子夫人であることも忘れてはならない部分です。きっと蘆花氏が生きていた時代にこういう活動があれば喜んで参加していたのではないでしょうか。
ー 風の旅人 ー