* 慶元寺三重塔が見える畑 *

ここから慶元寺の三重の塔がよく見えます。
喜多見は古くからの古墳があったり、江戸時代には喜多見藩があったりと、世田谷の中でも独特の文化を持った土地です。
その喜多見の文化の中心は喜多見氷川神社とその隣にある慶元寺で、多くの文化財や伝統的な風習が残っています。そして何よりこの二つの神社と寺の周りには豊かな自然が残っています。

畑の向こうに三重塔と立派な木々が見えます。
世田谷区内では広大な敷地を持つ豪徳寺と九品仏浄真寺は別として、多くの寺社では境内のすぐ脇まで住宅が迫っているのが実情です。簡潔に言うなら住宅地の中に埋まっているといった表現が適切でしょうか。
境内がそういった状態なので、参道はよりひどく、取り壊されたり、家が並んでいる場合が多くなっています。
境内の敷地は何とか維持できても、参道の景観を保つまでの金銭的余裕がなかったり、参道を取り壊してその売った土地で境内や建物の整備を行ったりと苦しいやりとりをしているのが小さな寺社の事情です。
そういった中で喜多見のこの二つの寺社は比較的昔ながらの参道、そして周辺の景観が今でも保たれています。特に慶元寺周辺は寺所有の雑木林以外にも畑が多いのが特徴です。
喜多見氷川神社や慶元寺は今でも多くの氏子や檀家に支えられ、伝統行事も多く、今もなお畏敬の念を住民が感じているといった事が寺社を大事にしよう、周辺の環境を良くしておこうといった事につながっているのかもしれません。
そういった様子がせたがや地域風景資産に選定されていて、すぐ近くにある稲荷塚古墳緑地から畑越しに五重塔が眺める風景は「慶元寺三重塔の見える風景」として、その畑の脇を通り、慶元寺裏手を抜け、氷川神社の前に出る土の道は「畑の間の土の道」は第二回目の選定で選ばれています。

緑の中にある佇まいはいいものです。
この他にも「喜多見・歴史の道、慶元寺・氷川神社界わい」が二回目の選定で選ばれているので、この付近は風景資産多発地帯となっています。
最初に風景資産を知ったときは同じような項目ばかり選んでどうするの?と、批判的な印象を持ったのですが、調べてみるとちゃんとした理由がありました。
この付近を含め喜多見4、5丁目は総面積約50ヘクタールのうち今なお約1割を農地が占めるといった農業の盛んな地域で、「農の風景育成地区」に指定されています。
これは都市の貴重な農地を保全し、農のある風景を維持していくために東京都が創設した制度で、比較的まとまった農地や屋敷林が残り、そして特色ある風景を形成している地区を指定したものです。
ファミリー農園も多くある事から一般の区民が農地に触れ合える地域にもなっています。

木々の花と合わさってちょっと楽し気な雰囲気です。
そういった素晴らしい農業環境の保全と地域の景観を守るために、平成25年5月に東京都が創設した「農の風景育成地区制度」の第一号に指定され、東京「農」の風景・景観コンテストでも東京都都市整備局長賞を受賞しました。
その取り組みの一つとして、現在「慶元寺三重塔の見える風景」と「畑の間の土の道」から見える慶元寺横の畑付近に世田谷区立喜多見農業公園ができました。
実際に訪れたことはないのですが、道沿いに案内板があり、公園なので開園時間内であれば自由に畑を見学できるようになっているようです。当然ですが、畑内の立ち入れは駄目です。
この畑は現代の農風景の保全と農作業体験を目的としたもので、いわゆる一般に貸し出ししているファミリー農園とは違い、農作業体験用の畑になっています。そして田んぼがある次大夫堀公園と機能分担もしています。
いまいち農業公園である意義がわかりにくいですが、慶元寺の三重の塔が住宅地に埋まってしまい、境内に入らないと見えないよりは遠くから見える方がいいし、今後、こういった施設で農を活かした地域づくりを期待したいところです。
今後は「慶元寺三重塔の見える風景」といった消極的なタイトルではなく、「慶元寺の五重塔が見守る畑」といったタイトルがふさわしいと感じるような風景になるといいですね。