世田谷散策記 タイトル
せたがや地域風景資産 #1-3

玉石垣のある風景

桜丘2~3丁目の千歳通り沿い

玉石垣のある区間の千歳通りは、品川用水を埋め立てて拡幅整備された道路である。標高の高い当地区は深く開削されたため、多摩川で採取した玉石が法面保護に利用されていた。なお、現在では採石が禁止されている。玉石垣は区内各所で見られるが、この場所はまとまってあり、地域を代表するデザインコードとなっている。(紹介文の引用)

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1、玉石垣のある風景について

桜丘周辺の地図(国土地理院)

国土地理院地図を書き込んで使用

世田谷通りの馬事公苑前辺りの交差点から千歳通りが始まります。千歳通りは、農大の横を通り、桜丘を通り抜け、千歳船橋駅の西側で小田急線を横切り、その先で環八と交差し、そして滝坂街道や六郷田無道につながっている道です。

この千歳通り沿い、桜丘の桜丘中交差点から笹原小東交差点の間では、道路沿いの壁に玉石垣が多く使われています。

ちょうどこの付近、世田谷通りから笹原小東交差点まで桜並木が続いているので、春の開花時期にはピンク色の桜のトンネルと玉石垣のコラボレーションとなり、とっても素晴らしい風景になります。

桜丘玉石垣のある風景 玉石垣と桜並木の写真
玉石垣と桜並木

身長の高さほどある場所もあります。

玉石垣は、玉石、よく河川敷に落ちているような丸っぽい石を使った石垣のことです。ここでは法面だったり、垣根だったりと、断続的に様々な場所で使用されています。

なぜここに玉石垣のある風景が連続してあるの?ってことになるのですが、実は、この千歳通りはかつての品川用水の水路跡になります。品川用水が使用されなくなった後、水路は埋め立てられ、道として整備されました。玉石垣は品川用水だった頃の名残りとなります。

桜丘玉石垣のある風景 玉石垣と品川用水の解説板の写真
玉石垣と品川用水の解説板

品川用水について書かれています。

品川用水とは、名前の通り品川に生活用水を送る為の水路のことで、江戸時代に世田谷の北を流れる玉川上水から、世田谷を斜めに突っ切るような形で品川まで引かれました。

玉川上水からは多くの分水が行われ、その数は33もあったそうです。その中でも最も長かったのがこの品川用水になります。多くの人が暮らす品川に供給されていたので、規模も大きく、昭和の初め頃まで生活用水、農業用水として使われました。

1940年頃の桜丘周辺の航空写真(国土地理院)
1940年頃の桜丘周辺

国土地理院地図を書き込んで使用

1940年頃の桜丘周辺の航空写真(国土地理院)
上の拡大図(木橋を確認できます。)

国土地理院地図を書き込んで使用

しかしながら、時代の流れとともに都市化が進み、品川方面の田んぼがなくなり、また水道の発達とともに用水の利用価値が低くなり、昭和7年に長年管理してきた品川用水組合は解散し、水が止められました。

1940年後半の桜丘周辺の航空写真(国土地理院)
1940年後半の桜丘周辺(埋め立てが行われています)

国土地理院地図を書き込んで使用

その後水路は放置されましたが、戦後の昭和22年に船橋、廻沢、下祖師谷の三農事実行組合が中心となって築堤部分を崩して用水跡を埋め、架けられていた橋を取り壊しました。

水路自体は埋め立てられましたが、水路を形成していた土木部分の玉石垣は部分的に残されました。その後、水路跡を舗装し、千歳通りとして整備されます。

桜丘玉石垣のある風景 品川用水の木橋跡の交差点の写真
品川用水の木橋跡の交差点

ここには木橋が掛けられていました。

桜丘玉石垣のある風景 木橋跡のプレートの写真
木橋跡のプレート

小さなかわいらしいプレートが設置されています。

あまり詳しい説明がないのでよくわかりませんが、この地域は標高が少し高いため、深く用水を掘り、土砂が用水に流れ込まないように丘の斜面を多摩川から採取した玉石で固めたようです。

さりげない玉石垣の風景ですが、江戸時代の大規模な土木事業の遺産となり、道路脇に品川用水の解説板が設置されていたり、木橋がかかっていた場所には、プレートが設置されています。

桜丘玉石垣のある風景 マンションと玉石垣の写真
マンションと玉石垣

マンションにもさりげなく玉石垣が使われています。

おそらく、最初のうちはなんとなくというか、生活上の必然などから玉石垣が残されたり、そのまま利用していたのでしょう。

それが今では、新しく建築されたマンションの建築主が自主的に玉石垣をデザインとして取り入れるなど、すっかりと玉石垣のある風景が町に馴染んでいます。

行政や法律の強制力がない中、元々あったとはいえ「玉石垣」という明確なテーマが感じられる風景が出来上がっていて、この風景から地域の一体感を感じます。

ちなみに玉石垣といえば、砧小学校の玉石垣もなかなか立派です。これは地元の人が旧街道である登戸道に切り通しを作った際に川原から石を運んで積み上げたものです。

ここでも同じことですが、やはりそういった慣れ親しんだ風景というのはそのまま残しておきたいと思うのが人情なのでしょうか。特に苦労して積み上げた石垣などは地域の努力の結晶であり、見た目以上に美しく感じてしまうものです。

桜丘玉石垣のある風景 玉石垣と桜の写真
玉石垣と桜

笹原小東交差点付近では道の両脇に玉石垣があります。

地域風景資産の活動についてですが、平成20年11月の時点で「ぐるうぷ町」という団体がこの項目に携わっています。

とはいっても、玉石垣の景観保全とか、強制とかは普通の団体ができるものではないので、見守りや地域に周知といったことぐらいでしょうか。

桜並木は、春の花びらと秋の落ち葉と二度大変な思いをしなければなりません。そういった清掃活動をこの団体が行っているのか、別の団体が行っているのか、あるいは普通に行政が行っているのか分かりませんが、春には小規模な桜まつりを自治体と一緒に行っています。

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2、千歳通りの桜並木

千歳通りの桜並木 世田谷通り付近の写真
世田谷通り付近

ちょうど農大の横で、ここから桜並木が始まります。

世田谷通りから始まり、桜丘の中心を突っ切っている千歳通りは、桜並木と玉石垣のある美しい道です。

世田谷区内には多くの桜並木がありますが、それは住宅地の区画整理の際に植えられたものがほとんどで、直線的で整った感じの桜並木がほとんどです。

ここでは自然な感じで蛇行している道沿いに桜が並び、また古くからの景観である玉石垣があったりと、世田谷区内にある街路樹の桜並木の中でも、特別な風情を感じられるものの一つです。

千歳通りの桜並木 千歳通り桜丘中学校付近1の写真
千歳通り桜丘中学校付近1

農大方向です。光がよく差し込む桜のトンネルが美しいです。

千歳通りの桜並木 千歳通り桜丘中学校付近2の写真
千歳通り桜丘中学校付近2

千歳船橋方向です。道が緩やかに曲がっていて美しいです。

玉石垣のある風景 桜丘中交差点の写真
桜丘中交差点

この付近から玉石垣が見られます。

この桜並木を見れば、桜丘の地名はまさにその名にふさわしいと感じますが、桜丘という地名は古くからのものではなく、比較的最近付けられたものだったりします。

かつてこの地域は世田谷村の一部で、横根とか、宇山などといった地名(小字)でした。昭和7年に世田谷区が成立の際にも、隣の桜が世田谷四丁目、ここ桜丘が世田谷五丁目といった住所表記でした。

後の昭和41年に大規模な住所変更が行われ、この地域は世田谷から分離され、桜丘と名付けられることになります。

千歳通りの桜並木 郵便局近くの交差点の写真
郵便局近くの交差点

通りの中ほどで、世田谷通りから道が交差しています。

桜丘の名の由来は、この地域に桜の丘、或いは桜があったからというわけではなく、もともとあった桜木という世田ヶ谷村の小字に由来します。

この桜木という名は、せたがや百景になっている吉良家の墓所、勝光院の裏手にある桜木中学校にその名をとどめるだけとなってしまいましたが、世田谷城内にあった「御所桜」という桜にちなんだものだそうです。

この桜木の地にできた最初の小学校が桜小学校で、その後、現在の桜丘付近に開校したのが第二桜小学校(後に桜丘小学校)でした。

地名を決める際、古くからの地名などを付けると、住民同士でもめるので、馴染みのある小学校の名が選ばれ、現在の「桜」と「桜丘」の地名が誕生しました。

千歳通りの桜並木 桜のトンネルの写真
桜のトンネル

郵便局よりも進んだところ、この付近は縦に迫力があります。

それにしても・・・、多くの「丘」という文字が含まれる地名では、「○○ヶ丘」といった感じで「ヶ」が入るのですが、ここでは「桜丘」とにごらないままです。

人によりけりなのでしょうが、これがなかなか言い難く、ついつい「桜ヶ丘」と言ってしまう事も。慣れなのでしょうが、ある意味、言い難い地名だな・・・と感じます。同じように感じている人もそれなりにいるのではないでしょうか。

千歳通りの桜並木 笹原小東交差点の上部の写真
笹原小東交差点の上部

桜並木はここまでです。道の上にも桜並木があります。

千歳通りの桜並木は、桜丘中学校付近できれいに蛇行していて、その先では玉石垣との風景、最後の方は玉石垣の上の方にも桜があります。

せたがや百景に選ばれている大蔵団地の桜並木のような立体感を感じる桜並木となっていて、下から見上げると、圧巻といった印象を受けます。

平坦な部分、蛇行している部分、玉石垣が加わっている部分、立体感がある部分、どの場面をとっても素晴らしい桜並木で、私の中でもお勧めの桜並木の一つとなっています。

千歳船橋 桜丘 桜樹広場
桜樹広場

桜を中心とした広場で、手入れの行き届いた花壇などもあります。

千歳通り、笹原小東交差点付近から駅方面に少し入った住宅地の中に、小さな桜樹広場があります。桜樹(おうじゅ)と名前付けられた公園で、大きな桜の木が真ん中に一本ドカッとあり、隅っこに小さな桜や大島桜の木があります。

広場の周りは都営住宅で、平成6年に都営住宅が建て替えの際に区の整備構想でこの公園が造られました。ボランティアなどによって花壇などがきれいに手入れされていて、いい感じの広場となっています。

桜の開花時期には、この広場と千歳通りの笹原小東交差点の上の方で桜丘自治体と世田谷桜丘まちづくりによって小規模な桜祭りが行われています。

3、感想など

桜丘千歳通り 桜と玉石垣の風景の写真
桜と玉石垣の風景

色々な角度から玉石垣と桜を合わせてみてはどうでしょう。

千歳通りは環八が渋滞しているときにちょくちょく通っていた道です。桜並木がきれいなのは知っていましたが、玉石垣が続いているというのはあまり気に留めていませんでした。

車などで通ると気が付きにくい小さな風景ですが、実際に歩いてみると、自然な感じの玉石が多く使われている風景というのは、どこか温か味があっていいものです。それに通りに統一感があるのも歩いていて心地よく感じます。

桜並木と合わさった風景はとても美しく感じるので、これからも地域の財産として守り続けてほしいものです。

せたがや地域風景資産 #1-3
玉石垣のある風景
2025年2月改訂 - 風の旅人
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・地図・アクセス等

・住所桜丘2~3丁目の千歳通り沿い
・アクセス最寄り駅は小田急線千歳船橋駅。
・関連リンクNPO 世田谷桜丘まちづくり
・備考自治会によって小規模な桜まつりも行われます。
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